慟哭の先に

レクフル

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奉納

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 翌日、俺は偵察と言ってロヴァダ国の各地の状況を見に行く事にした。

 ある程度は見てきてるから分かってるけど、行けてない所もまだまだある。今日は気になっている祭りが控えている村へ行く。東北方面はまだ行った事なかったから、どんな感じか楽しみだ。まぁ同じ国だからそう変わらねぇかも知んねぇけどな。

 近くの行った事のある場所まで空間移動で行って、それから光を屈折して体を透明化させ風を操って空を飛ぶ。こうやって空を飛ぶのは気持ちが良くて好きだな。今日も晴れてて良かった。

 暫く飛んで、時々見つける空を飛んでいる魔物ワイバーンやロック鳥を瞬時に倒し、解体し収納しまた飛んでいく。

 しかし、ここら辺は魔物が多いな。いや、東北方面へ行く度に増えてきているって感じか。それに、段々魔物が強くなってきている。こんな所に村とか街があるのか?

 そう言えば調査団も、その村につくまでかなり日にちを要したと言っていたな。調査団にはオルギアン帝国の兵士達と案内役と護衛も兼ねてロヴァダ国の兵士達を連れていく。勿論、ロヴァダ国の兵士達は俺に従うようにしている。そうしねぇと途中で裏切られる事も考えられるからな。今はロヴァダ国の兵士の方が全てにおいて強いから、反逆なんかされたら一気にヤられちまうからだ。

 お陰で、従順で何でも反感を買わずに言うことを聞いてくれると嬉しそうにオルギアン帝国の兵隊長は報告してくれたな。

 そんな事を考えながら飛んで行って、上空から魔物を見つけては倒していき、進んでいく。俺が魔物を従わせる事は出来るけど、そうしたら今までと同じになっちまうからな。今までこれで何とか出来てんだったら、あまり俺が手を出さなくても良いって事なんだろうな。

 暫く様子を見ながら飛んで、目的地である村に到着した。思ったより来るのに時間がかかったな。ってか、魔物多すぎだろ。何体倒す羽目になったか。まぁ、高ランクの魔物が多かったから良い魔石が多く手に入って良かったけどな。

 村の入り口から中に入って行こうとして、強い結界が張られてあるのに気づく。このレベルの結界が張れる奴がいるんだな。やっぱすげぇな、この国の魔法レベルは。でもそうか。これくらい無いと、これまでに遭遇した高ランクの魔物を防ぐ事はできねぇよな。

 入り口には門番がいた。その門番の魔力も凄かった。普通の……ってか、オルギアン帝国の標準と比べても、倍……いや、それ以上の魔力を持っていて、魔力が体から滲み出ている。いや、出してるのか? それとも俺を威嚇してんのか? んー……これくらいの魔力の放出じゃ威嚇されてんのかどうか分かんねぇな。

 しっかり目を見ると、門番は俺に恐怖を感じたのか、その場で崩れ落ちるようにして腰を抜かして座り込んだ。いや、そこまでするつもりじゃなかったんだけどな。魔眼も発動させてねぇし。

 
「あ、ああ……っ! な、にもの、だっ!」

「あ、すまねぇ。そんなビビらすつもりじゃなかったんだ。俺は王都から調査に来たたけだ。えっと……前に来た調査団の……名前何だったかな? あ、トマスだ。トマスの……上司って事になるのかな。まぁ、怪しい者じゃねぇよ」

「兵隊長トマス様、のっ! し、失礼、致しまし、た!」

「いや、そんなんはいらねぇから。あ、ごめんごめん、ちゃんとするから」


 ビビって腰を抜かしたままの門番の目から怯えを取っていく。そうして漸く門番は立ち上がる事が出来た。悪いことをしたな。

 何度も申し訳無さそうに頭を下げて案内を申し出てくれた門番の後をついていく。

 歩いて様子を見てみると、祭りは明日だと言うのになぜか皆覇気がない。村には簡素な祭壇が建てられてあって、供物用の野菜や果物が綺麗に並べられてあった。酒も樽で置いてあり、その横に人が一人か二人乗れる位の神輿があって、それは綺麗に飾り付けられていた。

 村人達は自分の家の軒先に鳥を絞めて吊るしてある。それと玄関前にも野菜や布や竹細工で出来た籠なんかも置かれてある。それも供物にすんのかな? その家が提供出来る物を出してるって感じだな。

 辺りを見渡しながら歩いて行くと村長の家に到着したみたいで、門番が立ち止まり村長を呼び出してくれた。俺の事をちゃんと言ってくれたみたいで、村長は俺を見て頭を下げて微笑み家へ招き入れようとしたけど、それを断って立ち話をする。そんな大層にしたくねぇからな。


「明日が祭りなんだってな。で、どんな祭りなんだ?」

「一年に一度、この時期に祭りを行っております。この地には昔から魔物が多く出没しましてな。それを宥める神様がおられるので崇拝しているのです」

「そうなんだな。けど、ここに来るまで結構強い魔物がワンサカいたぞ?」

「はい、ここ最近凶悪な魔物が増えてきましたからね。これを止める為にもこの祭りは必要でして、供物を奉納しなければならんのです」

「供物を奉納……」


 村長との話を聞きながら、俺は村長の目をしっかり見て心を読んでいく。

 供物を奉納するのは本当だ。それはかなり昔から行われてる事で、村長ともなればそれを取り仕切る事は必須って事か。

 ……って……これ……生け贄……か……?

 人を生け贄にしてるのか?!

 
「おい村長! なんでそんな事してんだよっ!」

「え?! な、何がですか?!」

「人を生け贄にするとか、有り得ねぇだろうが!」

「な、なぜそれをっ!!」

「俺に隠し事はできねぇぞ?! 人を供物にするとか、それはやっちゃいけねぇ事だろ!」

「ですが! これには訳があるのです!」

「分かってる! 人を生け贄にしなきゃ魔物が活性化してここら辺一帯は住めなくなる……だけじゃねぇか……? この国だけじゃ対処できなくなるってか?!」

「は、はい! そうなんです!」

「それでも! それでもダメなんだよ! そんな事はっ!」

「ではどうすれば良いんですか?! 私達の村はそうすることが代々決まっているのです! 私だってそうしたくてしてきた訳ではないんです! ですがそうしなければ……っ!」

「……分かった……取り敢えず、今から俺が行って確認してみる」

「止めてください! 神を怒らせてはなりません! お願いですからそんな事は止めてください!」

「けどこのままじゃ……!」

「お願い致しますっ!!」


 そう言って村長はその場に土下座をした。


「分かったよ……けど明日の奉納に俺も付き添う。そして解決策を考える。こんな事に犠牲を払わなくちゃいけないなんてそんな酷ぇ事、みすみす仕方ないで済ませられっかよ!」

「わ、分かりました……ですが、邪魔はしないで頂けますか? でなければこの国が魔物の餌食となってしまいます……!」

「それも踏まえて調査する。こんな事……放っておけるか!」

「……っ!」


 村長は悔しそうに下を向いて歯を食いしばっている。そうしたくてしてきた訳じゃない。それは分かる。村長からは、どうにかならないかと画策した過去もあったみたいで、その様子が垣間見えた。けどどうにもならなくて、多くの人々を救うために涙を飲んだって事か……

 祭壇にある野菜や酒なんかは供物としてだけど、村人の軒先にある鳥や玄関先に置いてある物は、生け贄になる人の家族へと渡される物だった。誰も好きこのんで生け贄を用意している訳じゃない。そうだろうけど、やっぱりこれは許しちゃいけねぇって!

 村長に供物を捧げる場所を聞き出そうとしたけど、やっぱり頑なにそれを拒む。心を読もうにも、森の中を進むようで、同じような景色ばかりで場所が特定できなかった。
 この村長は悪い奴じゃない。それどころか、何とかこの状況を無くそうと奔走していた事もあったくらいだ。
 だから簡単に操るとかはしたくなかった。

 明日の奉納には必ずついて行く。そして原因を突き止めて、何とかこの風習を断ち切ってやらなくちゃな。 
 



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