慟哭の先に

レクフル

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その想い

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 夜、食事の用意が出来たとメアリーに呼ばれる。

 あれからベッドにはいたけれど、眠れることはなく、ただひたすらリュカとエリアスの事を考えていた。
 メアリーは私の体調が思わしくないと思ったようで、食事は体に優しい物が並ぶ。こんなに気遣って貰えて本当に有難い。

 温かいスープを口に含むと、メアリーはホッとしたような顔をした。心配してくれていたんだな。

 そうして一人で食事をしていると、ディルクが帰ってきた。私を見て、心配そうに早足でやって来る。


「アシュリー、体は大丈夫か?! 辛くはないか?!」

「うん、大丈夫だよ。そんなに焦った顔をしないで?」

「そうか……なら良いんだ」

「ディルクも一緒に食べよう? 一人で寂しかったんだ」

「あぁ、そうしよう」

「はい、すぐにご用意致します」


 給仕係がすぐにディルクの食事を用意する。あっという間にディルクの前に食前酒が置かれ、お皿やフォーク等もセットされて、私とは違うディルク用の食事が出てくる。流石だな。


「今日はウルと帝都に行ったそうだな。そこでリュカ……『黒龍の天使』像を見てから様子が変わったとウルが言っていた」

「あ、うん……少しリュカの事を考えちゃって。でももう平気だから。心配させちゃったね。後でウルにも謝らないと」

「それは問題ないと思うが……そうか、何事もなければそれで良いんだ」

「ふふ……ディルクは本当に心配性だな」

「それはアシュリーに限っての事だ。他の事は興味はないからな」

「そう? そんな事はないと思うけど……あ、ロヴァダ国に行くことは正式に決まったの?」

「あぁ、そうだな。聞いた話によると、バルタザール王が改心したらしい。しかしなぜ我が国が関わる事になったのかは分からんままだ」

「そうなんだ。ロヴァダ国は私を狙った国だよね……」

「そうだな。あの国は普通の国とは違うようだ。国民が王を崇拝している。それも強制的にだ。あそこまで国民を虐げている国も珍しい。行ってみないと詳しいことは分からんがな」

「改心したのはどうしてだろう? そこまで強制的に人を従わせていた人って、きっとそんな簡単には変わらないとは思うんだけど……何か企んでいるのかな……?」

「その可能性もあるかも知れないな。が、陛下はそんな事は露程も思っていない様子だった。そんな心配は必要ないという感じではいたな。なぜそこまで自信があるのか分からんが」

「そうなんだ……でも気をつけて欲しい。何かあっても、私はロヴァダ国の王城は行ったことがないから助けに行けないし……」

「俺の事は気にするな。それより自分の事を気にしてくれないか」

「もう傷はかなり良いんだ。だからもう平気だ。でも無理はしないように気を付ける」

「そうしてくれる事が一番嬉しい」


 ディルクがニッコリ笑う。その笑顔に癒される。うん、やっぱりディルクには笑っていて欲しいな。あまり心配させないようにしなくっちゃ。

 その夜も一緒に眠る。ディルクの傍は安心できて心が落ち着く。こうやって一緒に眠れるのはいつまでだろう……? 
 
 私とディルクは前世でも今と同じように一つの魂を分け合って存在していた。一つの魂で二人分の時間を生きているから、私達の寿命は普通の人の半分程度となってしまう。それを防ぐ為に、前世で私達は眠る時に一つとなった。魂を一つとする事ができたんだ。そうした時はディルクでも私でもない人物になってしまったけれど、そうやって魂の浪費を防いでいた頃があった。

 でも、それが出来たのはディルクにセームルグが宿っていたからだ。白の石の精霊セームルグは、生と死を司る精霊だ。だから魂を一つにする方法を知っていた。けれど今はディルクにはセームルグは宿っていない。だから一つになる事が出来ない。
 幼い頃ディルクと何度も試したけれど、一つになることは叶わなかった。やっぱりセームルグの力は凄かったんだなって、出来ない事が分かってから気づいたんだ。

 今はセームルグは、多分エリアスが宿している。外に出て確認する度に、白の石の輝きはあっちへこっちへと大きく移動している。これだけあっという間に1日で移動できるって事は、転送陣を使うか空間移動するかだ。転送陣を使うのは誰でも可能だけれど、こんなにあちこちに行くのであれば普通は効率的に移動する。転送陣は無料ではないからだ。
 だから空間移動をしていると考えられる。そうなると使える人はかなり限られてくる。

 魔法が盛んだった400年前でさえ、空間移動が自力で使えるのはエリアスだけだった。魔法の力が衰退した現在、空間移動ができる人が他にいるとは考えられない。だから白の石はエリアスが持っている筈だ。

 私とディルクには前世の記憶があるけれど、それは全てじゃない。思い出せない事も実は多い。その最たるものが、エリアスの顔を思い出せない、という事だ。

 それはディルクも同じだった。だから紫の石を手にしても、ディルクはエリアスの元へは行けなかったのだ。

 
「アシュリー……どうした? 眠れないのか?」

「え? あぁ、うん……さっき寝ちゃったからかな」

「エリアスの事でも考えていたか?」

「それは……」

「俺に気遣いは無用だと言っただろう? 何か気になる事でもあるのか?」

「そうじゃないけど……エリアスの作り出した英雄のゴーレムって、聖女以外のは何処にいるんだろうって思って……」

「そうだな。残っているのは魔法に長けた英雄と、魔物を統率する英雄、それに蘇らせる力を持つ英雄、だな」

「え? 武力に長けた英雄もいるよ?」

「そいつはもういない」

「な、なんで? え? もしかしてディルク……」

「俺が倒した」

「いつの間に?! 私が知らない間に倒してたの?!」

「アシュリーは気にせずとも良い。俺がそうしたくてしたのだ。エリアスの魂を解放するのに必要な事だろう?」

「でもそれは私がしなきゃいけない事で……」

「関係ない。アシュリーは俺なのだ。俺はアシュリーの手助けをする為に存在するからな」

「でもディルクにはディルクの人生がある! これ以上私の事でディルクを巻き込みたくない!」

「なぜそんな悲しい事を言うんだ? 俺がアシュリーに関わりたいのだ。これは俺の意思だ」

「でも!」

「アシュリー、俺を別の人間として考えないでくれないか。共にあるべき魂だ。俺はいつでもアシュリーと一つとなる覚悟はある」

「ディルク……?」

「俺の命等、いつでもアシュリーにくれてやる」

「……っ!」


 ディルクは微笑んでそう言ってから私の頬を優しく撫でて、それから静かに目を閉じた。
 ディルクの頬に置かれた手を両手で包み込む。そんなふうに思っていたんだ……
 それは私とリュカの為に? ディルクにはディルクの人生があるのに。私のワガママでこうなっていると言うのに。 
  
 これ以上甘えてはいけない。
 
 魔物を統率する英雄はアーテノワ国にいると、前に噂を聞いた。

 アーテノワ国に行く。そして私が英雄を倒す。大丈夫。一人で出来る。

 これは私がしなくちゃいけない事だから。




 
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