慟哭の先に

レクフル

文字の大きさ
上 下
27 / 166

外へ

しおりを挟む

 朝の光が優しく目に届いて、私はゆっくりと目を覚ます。

 そこにはまだ眠っているディルクがいた。

 私をしっかりと抱き包んでいて、ディルクの体温が私を温めてくれてるんだって感じられて凄く心地良い。

 ディルクの頬をそっと撫でてみる。スベスベだ。髪もサラサラで、手触りが凄く良い。人に触れるって良いもんなんだな。手で感じる感触だけでも、心も癒されていく感じがする。

 そうやって撫でていると、その手を握られた。


「あ、ディルクごめん、起こしちゃった?」

「こんな起こし方なら毎日でも構わないな」

「ふふ……おはよう、ディルク」

「おはよう、アシュリー」


 こんなふうに始まる一日がある事を、私は何年も忘れていた。
 こんなふうに出来る日を夢見て、私はディルクを探し求めていたのかも知れない。

 そんなふうに思っていると、ディルクが不意に私に口づけてきた。


「え……ディルク……?」

「おはようのキスだ。これくらい構わないだろう?」

「え? うん……でも……」


 そう答える私にまた、ディルクは口づけてくる。そのまま私に覆い被さるようにして、何度も熱く唇を重ねる……
 

「待って……ディルク、私たちは……ん……」

 
 何も言えなくなる……ディルクの唇は私を何も言わせないようにして、それから口の中で絡み合うようにして……

 ディルクの事は好きだ。大好きだ。愛しているし、ずっと一緒にいたいって思う。

 けど……!


「姉ちゃ! おはよう! 朝食一緒に食べ、よ……」

「あ、ウル……!」


 ウルが扉をノックもしないで寝室に入ってきたから、思わず慌てて起き上がる。でもいきなりそうしたから、下腹部に痛みが走ってしまった。


「うっ……!」

「アシュリー、無理をするな!」

「姉ちゃ、大丈夫?!」

「あ、うん、だ、大丈夫……」


 ウルに何とか笑顔で答える。それからディルクに支えられてゆっくり起き上がる。
 その後ディルクは着替えてくる、と言って寝室を出ていった。


「なぁ、姉ちゃ……その、えっと……今……その……ディルクと……」

「え? あ、ディルクがね、私を抱き起こそうとしてくれてたところだったんだ! なんか、変な誤解されちゃったかなっ!」

「え?! あ、うん、そうやんなぁ! ディルクと姉ちゃは双子の兄妹やもんなぁ! ……そうやんなぁ……?」

「うん……」

「でも……」

「え?」

「ううん、なんでもあらへん! あ、ほら、姉ちゃも着替えて! 3人で朝食たべよ?」

「あ、うん」


 ウルが寝室から出て行って、私は自分の部屋へゆっくり歩いて行った。

 さっきのはどういう事なんだろう……ディルクはどういうつもりなんだろう……? 前世で私たちはお互いを双子の兄妹と知らずに知り合って、そして愛し合った。今も私はディルクを求めているし、かけがえのない存在である事にはかわりない。
 だって私の半分なんだもの。私が求めるのは当然で、求められるのも当然で……

 だけど……

 着替えが終わって居間に行くと、既にディルクとウルがいて、テーブルには朝食が並べられていた。

 さっきの事を払拭させるように微笑んで、それから席に着く。ディルクは何事も無かったような感じだし、気にしてるのは私だけみたいだ。


「なぁ、ディルク、今日はどこに行くん?」

「そうだな。アシュリーは行きたい所とかあるか?」

「え? 行きたい所……あ、うん、ある! イルナミの街に行きたい!」

「イルナミ……インタラス国の街か?」

「うん! 前世で行った事のある街が今どうなってるのか知りたくて。あまり大きな街とかに行かなかったから、イルナミじゃなくても街に行ってみたいかな!」

「あたしはどこでも構わへんで?」

「そうだな。ではイルナミの街に行くか。たしかあの街の近くにダンジョンがあったから冒険者は多いと思うが、アシュリーはそれでも大丈夫か?」

「うん、大丈夫だ!」

「ふふ……姉ちゃ、嬉しそう!」

「うん、嬉しい! 行きたい所に行けるって、凄く楽しみじゃないか!」

「今まで旅してたんやったら、行けたんちゃうの?」

「あ、うん……でも、その時は母も一緒だったから……」

「お母さんが一緒やっても行けたんちゃうん?」

「そう、だけど……その……母は、私が行こうとする所は悪い事が起こるって思ってたみたいだから、私が行く場所を決める事は無かったんだ……」 

「え? そうなん? なんでそんな事……」

「あ、それでも、母が亡くなってからは一人で色々行けたから、全然問題なかったんだ!」


 それでも母から何度も
「お前は人様に迷惑しか掛けないのだから、人の住む場所へ立ち寄ってはいけない。そんな資格等ない」
と言われた事が気になって、私は村や街へ立ち寄る事を躊躇した。
 でも旅では慣れた私の方が何でも体よくこなすから、母としてのプライドはことごとく崩れていったんだろう。そうやってより、私は母から嫌われていったんだ……

 母がいなくなってから少しずつ、母から言われた言葉の呪縛から解放されるようにはなってきた。だから村や街へ入る事も出来るようになった。それでもまだ戸惑ってしまうけれど……

 幼い頃は、私を置いて村や街へ行こうとする母の後ろを泣きながら、謝りながら、必死で走ってついて行ったな……

 
「アシュリー? どうした?」

「姉ちゃ?」

「え? なに?」

「どうしたん? なんで泣いてるん?」

「え……? あ、あれ? あ、目にゴミが入ったからかな! 大丈夫だ! 泣いてるとかじゃないっ!」

「アシュリー……」


 ダメだな、こんな事で心配させちゃ。泣く事なんてなんの意味も無いのに。
 取り繕うようにニッコリ笑う。
「あ、このスープ美味しい! 後でレシピ教えて貰おうかな?!」
って言いながら、食事を続ける。これ以上私の事で気にさせちゃいけない。私は人に迷惑しか掛けないのだから。

 それからは楽しく話をしながら食事を終えて、出かける用意をする。久し振りに自分の服を着て装備を整えた。うん、やっぱりしっくりくる!
 ウルもディルクも、ちゃんと装備を整えて冒険者みたいな格好になっていた。二人共すごく様になっててカッコいい!
 ウルの後ろには護衛の人がオロオロしながらついて行かせて欲しいと懇願していたけど、ウルは
「絶対に嫌! ついて来んな!」
って一喝していた。なんか護衛達が哀れに見える……
 きっとディルクにも護衛とか必要なんだけろうけど、ウルと同じように強引に断ったんだろうな。
 私と違ってウルとディルクは人から求められている。だから何かあれば私が助けなくちゃ。

 ディルクはイルナミの街には行った事が無かったみたいだけど、その近くにあるダンジョンには偵察で行った事があったらしくて、ひとまずそこまで空間移動で行くことになった。

 久し振りのイルナミの街。ワクワクする!

 気が滅入るような事はなるべく思い出さないようにしなくちゃ!

 ウルとディルクの顔を見てニッコリ笑って、私はイルナミの街へ向かったんだ。
 



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

騎士団長の欲望に今日も犯される

シェルビビ
恋愛
 ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。  就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。  ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。  しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。  無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。  文章を付け足しています。すいません

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...