19 / 166
預言者の元へ
しおりを挟むシアレパス国の国境の近くの街で、アシュリーはロヴァダ国の兵士から攻撃された。
それを俺は助ける事が出来なかった。
アシュリーは空間移動で何処かに行ってしまって、その後を追跡する事は出来なくなってしまった。
俺はアシュリーの気配を探るべく、意識を各地にいるゴーレムへと飛ばしていく。俺の意識からアシュリーを認識させて、見付次第連絡するようにしておく。
アシュリーが心配だ。
アシュリーに矢が刺さった……!
大丈夫なのか?!
なぜ俺はちゃんと見ていなかった?!
いや、そもそも俺はアシュリーには会わないようにしていたんだ。それはこういう時に守れない、という事もあるって事だったんだ。
なのに俺はアシュリーを一人にしたまんま……!
アシュリーの為だとか言いながら守る事もせず、一人で寂しい思いをさせて、挙げ句の果てにこうやって傷つけられて居場所も分からなくなって……!
自分の不甲斐なさに腹が立つ。けど、今はそれよりこのロヴァダ国の兵達に憤ってしまう。
アシュリーが何をしたっていうんだ? 誰も傷つけていないし悪い事もしていない筈だ。そんな人じゃない。アシュリーはそんな事をするような人じゃないんだ。
それを予言だか何だか知らねぇが、国から何人も兵士を出して殺しに来るとか、そりゃあんまりだろ?!
考えれば考える程怒りはフツフツと湧いてきて、どうにもこうにも収まりそうになかった。
だからここにいる兵達皆を支配下に置いた。これで何があっても、コイツらは俺を裏切らない。俺の言うことしか聞かなくなるのだ。
「そのヴィクトールとか言う預言者の元へ行け。それとあの旅人の事は何も話すな。分かったか?」
「「「「「はい!」」」」」
街の外に待機させていた馬に兵達は乗り、その場から去って行った。その兵達に、アシュリーにつかせていたゴーレムをつかせておいた。これでアイツらが何処に行っても、俺もその場所まで空間移動で行ける。
俺は一頻り各地にいるゴーレム達と感覚共有し、アシュリーが何処にいるのかを探す。
大丈夫だよな? 矢は腕に当たってた。けど他は? 他にも当たったのか見れなかった。
アシュリー、回復魔法は使えるのか? それを自分に使う事は出来ているか?
頼むから……頼むから無事でいててくれ!
俺の事を嫌いになっても、思い出さなくても構わねぇ! ただ幸せに生きててくれたら、俺はそれだけで良いんだ!
頼む……
俺からアシュリーの存在を奪わないでくれ……
やっとなんだ……
やっとこうやって俺のいる世界に生まれて来てくれたんだ……
なのにまたあの笑顔が見られなくなるとか、もうそんなの耐えられねぇんだって!
いや、いずれは俺を置いて天に還るだろうけど、それはまだ早すぎんだろ?!
そんな事を思いながら、焦る気持ちでアシュリーが行った場所へ行ってみる。とは言っても、俺がアシュリーを見つけたのはほんの数日前だ。その間しか、アシュリーが行った場所を知る事はできない。
けど何もしないよりは良い。とにかく何かしなきゃ落ち着かねぇ!
まず俺が買い取った部屋へ行ってみた。けど、やっぱりここにはいなかった。
次にアシュリーを見つけた、森の奥にある村へ行った。けどそこにもいない。
それからアシュリーが通った森の中や野宿した場所、ロヴァダ国のあの寂れた街にも行ってみたけど、アシュリーの姿を見つける事は出来なかった。
気づけば俺の体は震えていた。
こんなにアシュリーを失う事が怖いって、また思い知らされる事になるなんて……
やっぱり俺が傍で守ってやれば良かったか?
知らない間にこうやって攻撃されるくらいなら、俺の傍においておいた方が良かったか?
抱きしめて離さないようにしっかり繋ぎとめて、共にあったあの頃の様にいつもいつまでも傍にいて……
けどそうやって、更にアシュリーに危険が迫る事になったら? 俺が関わる事でアシュリーは本当に幸せになれんのか?
考えても考えても、まだ答えは出ねぇ……
そんな事を考えながらも、俺の意識を各地にいるゴーレムに飛ばす。とにかくアシュリーが無事かを知りたい。探し出したい。まずはそれからだ。
そしてあれから3日経ったけど、俺はアシュリーを探し続けたが見つける事は出来なかった。
気だけが焦っていく。
アシュリーは大丈夫だよな? いや、きっと大丈夫だ。大丈夫なはずだ。
そう自分に言い聞かせて、何とか俺は自分を保っていた。
シアレパス国の街から移動した兵達は、やっと預言者の元へたどり着けたようだ。
ロヴァダ国には転送陣がない。あれはオルギアン帝国の専売特許だから、属国以外の国には使う事はできない。
だから移動に時間が掛かってしまうのだ。
ロヴァダ国のとある街でその預言者は待機していたようだ。
その場所に着いて、預言者に兵隊長が会う手筈を整えたのを確認してから、俺は空間移動でその街まで行った。
預言者はこの街一番の高級な宿屋にいた。その場所に兵隊長の後ろに姿と気配と音を消して俺も一緒に行く。
その宿屋は全て貸切にしてあって、そこには護衛の者や従者や使用人がすっげぇ大人数いた。
見える範囲でも100人はいるな。
宿屋の最上階に預言者はいるようで、そこに行くまでにも何人にも兵隊長は質疑応答をされていた。兵隊長って位だから、ある程度は地位が高いんだろうと思うけど、それでも預言者を危険に晒したくないのか、厳重な守りを徹底しているようだった。
質疑応答は兵隊長の身の上に関する事を主に聞かれていた。入れ替わっていないかを確認する為か、操られているのを知る為か。
いや、操ってはいるが、自分の意思は残るようにしている。完全に俺の言う通りしか言えなかったり行動出来なかったりすると、途端に疑われる事になってしまうからだ。
俺の従順な下僕的な存在になって貰っているので、兵隊長はこの質疑応答は難なくクリアーして預言者の元へと近づいて行く。
最上階へと案内されて、兵隊長は進んで行く。その後ろを俺も一緒について行く。
預言者がいるであろう部屋の前まで来て、兵隊長が扉を開けようとしたその時、両横に立っていた護衛の二人に持っていた槍で、兵隊長はいきなり突き刺された。
それは心臓を一気に貫いていた。
短いうめき声を一つあげた後、兵隊長はその場に崩れ落ちた。
なんだ? なんで兵隊長を身内が殺す?
もしかして予言かなんかで、俺が操ってんのが分かったとかなのか?
槍を持って辺りをキョロキョロ見渡している護衛の兵士。なんだ? 俺を探してんのか?
その護衛の瞳をしっかり見てやる。俺の事は見えてない筈の護衛の兵士は、その場で固まったように動かなくなった。
その様子を見て慌てて駆けつけて来た者達全員を雷魔法で感電させた。大丈夫だ。安心しろ。殺しちゃいねぇ。気絶させただけだから。
それから結界を張って、部屋には誰も近寄らせないようにした。これで邪魔者は無くなったな。
アシュリーを『禍の子』と言った預言者……
その面、キッチリ拝ませて貰うからな!
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから
真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」
期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。
※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。
※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。
※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。
※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。
Age43の異世界生活…おじさんなのでほのぼの暮します
夏田スイカ
ファンタジー
異世界に転生した一方で、何故かおじさんのままだった主人公・沢村英司が、薬師となって様々な人助けをする物語です。
この説明をご覧になった読者の方は、是非一読お願いします。
※更新スパンは週1~2話程度を予定しております。
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる