慟哭の時

レクフル

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第七章

仲間

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インタラス国の王都コブラルの宿屋で、ウルをエリアスと一緒に抱き締めて、しばらくの間三人で寄り添うようにしていた。

やっと落ち着いてきたのか、エリアスにしがみついていた手をそっと離して、ウルはまだ潤む目を擦っていた。


「ウル……落ち着いた?」

「うん……」


ウルの涙をそっと拭う。
エリアスはウルの頭を優しく撫でていた。


「やっぱり……エルフは珍しいんやな……」

「ここら辺じゃ見ねぇからな……」

「怖い……」

「ウル……」

「皆の目が怖い……」

「そっか……」


思わずウルを抱き締める。
知らない場所にきて、いきなりあんな目に合ったら、怖いと思うのは仕方のないことだ。


「じゃあ、どうする?」

「え?」

「このまま俺達と旅を続けるか、家に戻るか。」

「え……」

「エリアス、まだそんな風には……」

「これはウルが決めなきゃいけねぇ事だ。ここでいつまでもいる訳にはいかねぇしな。」

「…………」


ウルは下を向いて、手をぎゅって握り締めて、何かを考えているようだった。
それから決意を示すように、顔を上げた。


「このまま帰って一人であの場所でリサを待ってるだけは、今までとなんも変わらんままや……正直まだ怖いけど……アタシはこのまま姉ちゃと兄ちゃと一緒に行く……!」

「そっか。よく言った!」


エリアスがウルの頭をワシャワシャする。
フードが脱げて、銀の髪が現れてもまだワシャワシャする。


「ちょっ!やめぇや!髪がグチャグチャんなるやろ?!」


思わず私もウルの頬っぺを両手で挟んでグリグリする


「ちょっと、姉ちゃも!なにすんねんー!」


私達の手を退けようとして、ウルがバランスを崩してそのまま倒れる。
同じようにして、私とエリアスも、そのままベッドに倒れこむ。
ウルを挟むようにして、三人で寝転ぶ感じになって、髪がクシャクシャになったウルを笑ってしまう。
ウルも、なんやこれーって笑いだして、エリアスも笑った。


「もうー!髪グシャグシャんなったやん!アタシ猫っ毛なんやから、これなおすん大変なんやからな!」

「ちゃんとなおしてやっから!」

「ほな最初からすなや!」

「ハハハ!ウルが可愛いから、ついやっちまった!」

「なっ!そ、そんなんっ!可愛いとか、簡単に言うなやっ!」

「え?ウルは可愛いよ?」

「姉ちゃも……!」


戸惑う様子が可愛くて、ウルの頬にキスをした。
エリアスも私を見て同じ様に頬にキスをして、両側からそうされたウルは、わぁーっ!て言いながら顔を真っ赤にして、両手で顔を覆って足をバタバタさせた。
それから三人で頭を寄せて笑いあった。

こうやって何かあっても、一つずつ三人で解決していこう。
私たちなら、それが出来る筈だから。


「腹がへったな。何か食いに行くか?」

「あ、そうだな。まだお昼食べてなかった。」

「え……」

「ウル、大丈夫だ。俺達が守るから。それにここなら、ある程度の事は俺がいたら何とかなる。」

「ウル、怖いのは分かる。けど、外に出る事に慣れて行こう?」

「うん……分かってる……!」

「ハハ、エライな。じゃ、行くか。」


ウルは意を決した感じで立ち上がるけれど、やっぱり私たちとちゃんと手を繋ぐ。
そんなところも可愛らしく思えてならない。

エリアスがギルドに行くかって言って、ウルはなんで?ってなったけど、そこの飯が旨いからだって言って笑う。
エリアスと私に連れられて、ウルは少し不安そうな顔をしながら歩いている。
ギルドに着くと職員たちが私たちを見て集まってきた。
それを見て、ウルが隠れるように私の後ろに来て服を掴んだ。


「エリアスさん!アシュレイさん!お久しぶりです!」

「コレット、前はいなかったな。」

「そうなんですよ。なんでいつも私が休みの日に来るんですか!」

「いや、それはたまたまだろ?あ、俺に触ったら……」

「そう言えば聞きました。呪いをかけられたんですってね!手以外は大丈夫なんですか?」

「あぁ、それは問題ねぇ。」

「へぇ……可笑しな呪いがあるもんなんですねー。」


そう言って、コレットと言う女性がエリアスの肩や胸等をペタペタ触っていく。
それを見て、なんかモヤモヤしたモノが胸に渦巻いてくる……
なんでエリアスも平気で触らせるんだろう……
やめろって断れば良いのに……


「姉ちゃ?」

「え?」

「どうしたん?なんか怖い顔になってたで?」

「えっ!そう、か?何でもないよっ!」

「アシュレイさん!お元気だったんですね!良かったです!」

「え……あの……」

「あ、そっか。コレット、アシュレイは今記憶がねぇんだ。だから、コレットの事も分かんねぇかな。」

「えっ?!そうなんですか!えぇーーっ!!」

「え、私、この人の事、知ってたのか?」

「あぁ。俺とアシュレイが一緒に『闇夜の明星』って組織を討伐した時にな、コレットは力になってくれたんだ。」

「そうだったのか……」

「私との素敵な思い出も忘れてしまったんですねー!残念でならないですー!」

「えっと……どういう思い出だったのかな……」

「潜入するのに女性の姿が良いって事で、私がアシュレイさんを綺麗に仕上げたんですよ!あの時のアシュレイさんは、それほもう美しくて……あ、その後の法衣の様なドレス姿のアシュレイさんも凄く綺麗でした!また見てみたいですーっ!」

「え……私、ドレスとか着てたのか……?」

「あぁ。俺もまた見てぇ。今度着てくれよ。」

「それはちょっと……」

「あ、それより、その子は……?」

「え?あぁ、この子はウルリーカって言って、今一緒に旅をしてるんだ。」

「そうなんですね。」

「そうだコレット、アルベルトはいるか?」

「あ、ちょっとお待ち下さい。」


コレットが奥の方へ行って、その間集まってきた人達に、エリアスが楽しそうに話しをする。
前も思ったけど、ここではエリアスは家に帰って来たような、安心したような、落ち着ける場所みたいな感じでいる。
エリアスがそうやっているのを見ると、なんだか私も安心する。

少ししてアルベルトがやって来て、私たちを見て微笑んだ。


「エリアス!アシュレイ!元気か!」

「あぁ!アルベルトも元気そうだな!」

「俺はいつでも元気だからな!で?今日は何か用があって来たのか?」

「用が無けりゃ、来ちゃいけねぇのかよ?」

「そんな事はない。俺はいつでも大歓迎でお前達を迎えるぞ!ハハハハ!」

「相変わらずだな!」

「ん?……そこの子は?」

「あぁ。コイツはウルリーカって言うんだよ。俺達はウルって呼んでるけどな。」


そう言って、エリアスはウルの被っているフードを脱がした。


「な!何すんねんっ!」


すぐにフードを被ろうとするウルの手をエリアスが取って、そうさせないようにする。


「この子は……エルフか!」

「あぁ。訳あって、俺達と一緒に旅をすることになった。まぁ、珍しがられんのは仕方ねぇな。ここら辺にはエルフはいねぇから、初めて見たって奴も多いだろうしな。」

「そうだな……」

「けど、ウルは俺達と何も変わんねぇよ。ただちょっと耳が尖ってるくれぇか?あと、普通の子よりちょっと可愛いくれぇかな。ま、アシュレイには及ばねぇけどな。」

「うっさいわ!アタシもそこそこいい線いってる筈やわ!」

「だから可愛いって言ってんだろ?」

「うん。ウルは凄く可愛い!」

「え、あ、いや、そんな急に真面目に言われても……」

「あと、ちょっと喋り方が変わってるかな。それと、ウルにも俺は触れる。ま、そんな感じで、俺達は仲間になったんだ。大事な仲間だから、よろしく頼むぜ!」

「そうか……そうだな。見た目が少し違うだけで、なにも変わらないなら珍しくもなんともない。エリアスが仲間と認めたんなら、俺達ともウルは仲間だ。なぁ、皆!」


周りから、そうだ!仲間だ!可愛い!仲良くしようぜ!って声がする。
それからアルベルトが拍手しだすと、皆がつられて拍手する。
アルベルトはいつもそうやって拍手をする。
癖なのかな……

その様子を見てウルは呆然としながら、少しずつ笑みが溢れてきた。
私も嬉しくなって、皆と同じ様に拍手をする。
エリアスも拍手をしていて、それからウルを抱き上げた。
そうやって、皆に見えるようにして、ウルを紹介したんだ。

それからウルは、ここではフードを被らずにそのままでいた。
ギルドの酒場で食事をしながら、「ここ、ホンマに美味しいって思ってんのか?普通やん!」って言いながら、牛鴨ステーキをバクバク食べていた。
エリアスも、「ハハハ、そうだな、普通だな。」って言って笑っていた。

エリアスがウルをここに連れてきたのは、他国でも人が違えば思いも考え方も違う、皆が敵な訳じゃない、と知らせたかったからかも知れない。

エリアスのこう言うところが凄く好きだ。

こうやって笑い合ってるのが、凄く好きだ。

ずっとずっと、このままだと良いのに……








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