慟哭の時

レクフル

文字の大きさ
上 下
287 / 363
第七章

指輪

しおりを挟む
翌日、エリアスと日の出を見ようって約束したから、朝日が昇る前に起きて二人で甲板に行った。

そこには他の乗船客もちらほらいてて、日の出を楽しみに待っている感じが見てとれる。

地平線から日がゆっくり昇ってきて、空が藍色から徐々に明るくなっていってから、オレンジの光が見えだしていく。
海面が日の光を映し出して、辺りが段々明るくなっていった。
一日の始まりはいつもこうなんだなって、分かってはいる事なんだけど、実際こうやって見ると感慨深くなるなって言い合いながら、二人で昇る朝日を眺めていたんだ。

暫く朝日が昇るのを見てから、朝食を摂りにいった。
船に乗るのって良いもんだなって言いながら、温かいハーブティーで体を暖める。

エリアスと再会してから今までの、この少しの間で色々な事があったけど、こうして落ち着いてゆっくりしていられたのって初めてじゃないかな……
ノエリアの邸にいた時もゆっくりはしていたけれど、あの時はエリアスは怪我をしていたし。

こうやって誰かと一緒にいられるって、凄く気持ちが落ち着くんだな……
私を想ってくれる人がいるってだけで、こんなにも全てが違って見えるんだ……
自分に生きる意味が無いような、そんな気さえしていた一人の夜を思い出すと、こうやって心地良い日が訪れるなんて、あの時の私は考えられなかった。
私を好きだと言ってくれたエリアスと一緒にいると、私も自分自身の事を好きになれそうな感覚になっていく。

……もしかしたら……

私が自分の記憶を無くしたのって、私の事を大切にして愛してくれた人がいて……
その想いが私に伝わって、自分自身を愛する事が出来たからじゃないだろうか……

それが……ディルクなんだろうか……


「アシュレイ……?」

「え?」

「どうした?一点見つめてボーッとして。」

「あ、ううん、何でもない!早起きしたから眠たくなった…… のかな?!」

「そっか……ちょっと寝に行くか?」

「ううん!大丈夫!あ、リフレイムには今日の昼過ぎ頃に着くみたいだな!どんな島だろう?」

「後でジブリルに聞きに行こうか。錬金術師の事も聞きてぇし。昨日はつい聞きそびれてしまったからな。ジブリル、二日酔いになってねぇかな……」

「昨日あれだけ飲んでたから、グッタリしてるかも知れない。昼前位に会いに行こうか?」

「そうだな。」


朝食が終わってから、船にある売店で色々物色していた。
ここにはシアレパス国の名産品とリフレイム島の名産品が並んでいて、お土産を買い忘れた者でも安心できるようになっている。
少しだけど魔道具も売っていて、それらを見るだけでも楽しめた。
アクセサリーも売っていて、エリアスがマジマジとそれらを眺めていた。


「エリアス、何か気に入った物でもあったのか?」

「あぁ……アシュレイ、ちょっとこれ、はめてみてくれ。」

「え……指輪?」

「あぁ。」


エリアスが私の右手の手袋を外して、薬指に指輪をはめた。
透明の石が綺麗な、可愛らしいデザインの指輪だ。


「どうだ?」

「どうって……うん……デザインが可愛いと思う。石がキラキラしてて凄く綺麗だ。」

「そっか。サイズはピッタリそうだな。ゴツゴツした作りじゃねぇから、手袋をしても問題無さそうだし。じゃあこれ、くれ。」

「はい。」


いつの間にか後ろに来ていた店員に、エリアスが言うけど、イキナリそんな事を言われても……!


「エリアス!何?なんで……?!」

「え?まぁ、似合ってるしな。」

「そう言う事を言ってるんじゃなくて、何で私に……!」

「俺がそうしてぇんだ。……イヤか……?」

「嫌とか、そんなんじゃないけど……!」

「じゃあ、何も問題ねぇな。あ、袋とか要らねぇから。そのまま指にはめとくから。」

「畏まりました。」


エリアスはそう言って、代金を支払っていた。
戸惑ってエリアスを止めようとするけど、聞く耳を持ってくれなかった。


「エリアス!こんなの……貰えない!エリアスには剣も貰っているのに!」

「男が好きな女に物を贈るのは当たり前だろ?要は俺の自己満足なんだよ。ダメか?」

「ダメとか……そう言う訳じゃないけど……」

「じゃあそれ、貰ってくんねぇかな?」

「……うん……分かった……ありがとう……」


そう言うと、エリアスは凄く嬉しそうにニコニコした。
指輪なんて初めて貰ったし、今までつけた事もなかったから、なんだか嬉しいのか恥ずかしいのか、どっちか分からない感情が胸に湧く……

右手を目の前にかざして、薬指にはまった指輪を眺める。
透明の石が光に反射して、凄くキラキラして綺麗だ……
この指輪には、付与がかけられてある。
魔法と物理攻撃を回避する防御の付与。
私を守るようにと、エリアスが選んでくれたんだ……


「アシュレイ、手を見て何をそんなに嬉しそうに笑ってんだ?」

「え?あ、ジブリル。」

「よう!二日酔いにはならなかったか?!」

「大丈夫だ!海の男、舐めんなよ!と言いたいところだが、昨日は酔い潰れてしまったな!ハハハハっ!」

「楽しかったぜ!ありがとな!」

「しかしあれだけ飲ましたのに、アンタ達は全然酔わなかったな!俺に飲みで勝てる奴はなかなかいねぇぜ?流石、英雄だな!」

「やめてくれ、その英雄っての!」

「ハハハ!照れんな!」

「あ、そうだ、聞きてぇ事があったんだ。これから行くリフレイムって島は、どんな所なんだ?」

「行った事無かったのか?そうだな……海に囲まれてるから、やっぱり漁師が多いな。で、造船所もある。そこではドワーフなんかがよく働いてるな。手先が器用だから助かってるんだよ。だから鍛治も盛んだな。広い森もあって、そこにはエルフも住んでるな。」

「ドワーフにエルフか!すげぇな!」

「オルギアン帝国から南辺りの方じゃ少ないからな。見かける事も無かったかも知れんな。シアレパスの北の方にも、ちらほらいるぜ?」

「そうなんだな。なんか、ワクワクしてきたぜ!」

「けど、エルフはプライドが高いからな。迂闊に近づくと怪我すんぞ?まぁ、エリアスなら大丈夫だろうけどな!」

「忠告、聞いとくぜ!あと、俺達錬金術師を探してんだ。リフレイムにいるか?」

「錬金術師か……どうだろうな……」

「なんだ?その答え。」

「いや、いたんだよ。高度な技術を持つ錬金術師がな。けど、突然いなくなってしまってな。」

「え?なんでだよ?」

「それが分からん。もしかしたら、もう帰って来てるかも知れんし、そのまま行方不明かも知れん。俺もあまり帰れてないからな。」

「そうか……」

「まぁ、家の場所だけまた教えるさ。ま、島でもまた飲もうや!」

「あぁ!そうだな!ありがとな!」


ジブリルは朝飯食ってくるって言って去って行った。

ドワーフとエルフのいる島……

行方不明の錬金術師……

どんな島なのか、今から楽しみになってきた。

右手薬指にある指輪を眺めながら、島に着くのを心待ちにしたんだ。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

処理中です...