慟哭の時

レクフル

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第七章

逃亡奴隷

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飯が終わって、皆で後片付けをした。
思い立った様にシスターが言い出す。


「そうだ、エリアスさん!お風呂に入っていって下さい!ここにも温泉が湧いるんです!」

「わぁ!僕と一緒に入ろう!」

「俺もっ!一緒に入りたいっ!」

「男同士で入ろうよー!」

「あ、いや、俺は……」

「リュカ兄ちゃんも一緒に入ろうっ!」

「いや、それはダメだっ!」

「エリアスさん……?」

「アシュ……リュカは一人の方が良いんだろ?ってか、俺も風呂はいいや。」

「何でだよー!一緒に入ろうよー!」

「エリアス兄ちゃんがダメならさ、今日こそ一緒に入ってくれよ!リュカ兄ちゃんっ!」

「だから、それはダメだろ?!……分かったよ。一緒に入るから。」

「やったぁ!」

「エリアスさん、ごめんなさいね。子供達がワガママ言って……」

「いや、それは良いんだけどな……子供達がビックリしねぇかなって思ってな……」

「え?」

「いや……何でもねぇ。じゃあ、アシュ…リュカは後でゆっくり一人で入れな?俺は先に子供達と入ってくる。」

「あ……うん……」


そう言うことで、男の子5人と俺と、シスターに風呂のある場所までつれてって貰った。


「タオルはここに置いておきますね。」

「あぁ、ありがとな。あ、脱ぎ散らかしたらダメだろ?ちゃんと畳んで……そうそう、上手に出来んじゃねぇか!」

「ふふ……本当にこの子達のお父さんみたいですね!」

「そうか?」

「では、お願いしますね。」

「あぁ!」


子供達が服を脱いで俺も服を脱ぐと、子供達が俺の体を見て、何も言えなくなっちまってた。


「あ、気持ち悪いな……すまねぇな。」

「いっぱいあるね……」

「それはもう痛くない?」

「あぁ、大丈夫だ。」

「触っても良い?」

「いいぜ?」

「戦って出来た傷なの?」

「それもあるけどな。」

「すげぇ!かっけぇ!」

「そうか?」

「うん!カッコいい!」

「そっか……ありがとな。……え…?」


一人の男の子の肩に、見覚えのある印が……


「おまえ……っ!これっ!」

「えっ?!あ……うん……俺、そうだったんだ……」

「逃げて来れたのか?」

「……うん……」

「そっか……そっか……!頑張ったな!」

「うん……っ!」


サシャと名乗った12歳の男の子の肩にあったのは、奴隷紋だった。
3年程前に逃げてここまで来たらしい。
俺の肩にもあったけど、魔眼で捨てられてから、自分で肩をナイフで切り刻んで分からない様にしてやった。
けど奴隷紋は根強く染み付いてて、効果は残っちまってるけどな。

一人一人洗ってやって、皆で湯に浸かる。


「サシャ、なるべく怪我はしねぇ様にな。その印があると、痛みはなかなか取れねぇから。」

「うん。分かった。」

「それと、俺だから良かったものの、他の、例え優しそうなヤツだったとしても、それは見られない様にしなきゃな。」

「……え……?」

「どうした?誰かに見せちまったか?」

「昨日、教会に来てたヤツとケンカしてしまって……取っ組み合いになって、服が破れて肩が見えてしまったんだ……もしかしたら……」

「そっか……何が原因でケンカになったんだ?」

「アイツ、ここにいる奴等は可哀想だって……!親から捨てられたんだろって!いらない子だからだろって……っ!」

「そりゃ怒って当然だ!いらない子なんて、この世に生まれてこねぇんだ。ソイツ、何も分かってねぇなぁ!」


泣きそうな顔をしてるサシャに、俺は頭をワシャワシャして、大丈夫だって言ってニッコリ笑った。

けど……

シアレパス国には、まだ奴隷制度があるんだな。
オルギアン帝国では、奴隷制度を廃止している。
それは、属国である国もそうだ。
だから、以前はあったマルティノア教国もマルティノア国になってからは奴隷制度は無くなったし、アクシタス国もオルギアン帝国の属国になれば廃止される筈だ。
それはディルクが何よりも先に行う事なんだ。
アイツは不平等さをいつも歯痒く感じているからな。

温泉から出て服を着て、居間へ戻る。
アシュレイとシスターはお茶を飲んでいた。
子供達はあや取りとかして遊んでた。

良かった、アシュレイがどっかに行ってたらどうしようって心配してたから、いてくれて安心した!

俺とアシュレイの目が合って、思わず俺が微笑むと、アシュレイはすぐに視線を反らす。
まだまだ信用されてねぇなぁ……


「良い湯だったぜ!ありがとな、シスター!」

「こちらこそ、子供達と一緒に入って貰って、ありがとうございました!」

「んな事、全然大丈夫……」


言ってるそばから、いきなり扉がノックもなく勢いよく開いた。
扉が大きな音で開いて、ビックリして何事かと思って見たら、数人の兵達がそこにはいた。


「なんだ?!突然っ!」

「ここに逃亡奴隷を匿っているとの情報が入った!その者を差し出せ!」

「………っ!」

「そんなヤツ、ここにはいねぇよ!」

「では肩を見せろ!奴隷紋が無ければ見せられる筈だ!」


辺りを見渡す振りをしてサシャの様子を伺うと、下を向いて小さく震えていた。
アシュレイは兵達を睨み付けている。
ヤバい!
兵達に攻撃しようものなら、アシュレイは指名手配されちまう!
グリオルド国での二の舞はごめんだ!


「ここにいる奴等には、奴隷紋とかねぇよ!」


そう言いながら、兵達に攻撃出来ない様にアシュレイの前に立つ。


「アシュレイ……落ち着いてくれ。兵達には絶対攻撃しちゃダメだ。頼むから何もしねぇでいてくれ……」


小さな声で、アシュレイにだけ聞こえる様に呟く。


「お前っ!何を話してる!誰も出て来ないのであれば、ここにいる者皆を裸にするぞっ!」

「あーはいはい、分かったよ。俺だよ。俺が逃亡奴隷だよ。」

「え……っ!?」


皆が驚いた顔をして俺を見る。


「なに?!お前がか!?奴隷だと聞いたのは子供だったぞ?!」

「それを聞いたのは誰からだ?情報源は大人か?もし大人じゃなかったとしたら、子供の言う事を簡単に大人が信じるのもどうかと思うぜ?」

「ではお前には奴隷紋があると言うんだな?」

「自分で消しちまったけどな。」


俺は服を脱ぎ捨てて、上半身を見せた。
傷だらけの体を見て、兵達は納得した様だった。
アシュレイは俺の体を見て小さく呟いた。
ビックリさせちまったかな……


「その……傷痕は……」

「これで分かったろ?」

「ハハ……そうだな。奴隷の特徴である傷痕が至るところに見られるな。それにしても多いな……お前、どれだけ刃向かったんだ?肩のこの傷痕は……奴隷紋の痕に間違いない。おい、コイツを連れていけ!」


泣きそうな顔で見て何か言い出しそうなサシャに、小さく首を横に振って何も言うなと態度で示す。
アシュレイは驚いた顔をして俺を見る。
俺はニッコリ笑って、皆を見る。
それからアシュレイを見て、アシュレイにだけ聞こえる様に小さな声で呟く。


「アシュレイ、ごめんな?ずっと傍にいるって言ったのに……離れねぇって言ったのに……もう約束破っちまったな……」


俺は申し訳なさそうに笑うしか出来なかった。
シスターはどうしようって顔で俺を見る。


「あのっ!エリ……」

「シスター、悪かったな。知らねぇヤツがいきなり来て、こんな騒動起こしたらビックリするよな。さっさと退散すっから、後はよろしくやってくれ。」


俺は後ろ手に縄で縛られて、兵達に連れて行かれた。
馬車に乗せられる時は足蹴にされた。
ったく、そんな事しなくても抵抗なんかしねぇのによ!

あーっ!そうだった!
せめてディルクにアシュレイを見つけた事だけでも言っときゃ良かったっ!
俺にも連絡手段として、ピンクの石を持たされているんだ。
だから、ディルクが気づけばいつでも会話は出来るのに、アシュレイと会ってテンションが上がって、ディルクには何も言えずに拘束されちまった!

ったく……何やってんだよ、俺!

で……俺はこれからどうされちまうんだ……?

逃亡奴隷は拷問されて……
良くて手足切断……
最悪死刑……だな。
ってか、どっちが最悪なんだか分かんねぇな。

ただ、俺はこの国の奴隷ではなくて、オルギアン帝国のSランク冒険者だ。
それが分かるとどうなるか……
政治の道具に、良いように使われるか?
それはダメだ。俺の事でディルクに迷惑はかけらんねぇ。
脱ぎ捨てた上着にギルドカードを入れたままだから、あれを回収されなきゃ何とかなるか……?
まぁ、逃亡奴隷が、まさか他国のSランク冒険者だとは誰も思わねぇだろうしな。

闇魔法でコイツらの数日分の記憶を消しても、誰が逃亡奴隷の情報を知ってるか分かんねぇからな。
そうなると、またサシャを捕まえに来るかも知んねぇ。
やっぱり今は大人しくしとくしかねぇな。

まぁ、どうされるか分かってから考えりゃ良いか。

……また離れちまったな……

また……会えるのか……?

ユリウスの事も分かったし、孤児院に来てる事も分かった。
だから何も情報が無かった時と比べりゃ、探し出すのは簡単かも知んねぇけど……

俺は空間移動が使えるから、逃げ出そうと思えばすぐ出来る。
けど、今そうしちまうと、また兵達は孤児院に行っちまうかも知んねぇ……
そうしたら、孤児院にいたアシュレイを興味を示すかも知んねぇ……
しばらくは大人しくしておいた方が良いだろうな。
その間に、アシュレイがどっか別の所に行っちまったら、また一から探さなきゃなんねぇ……

俺がどうされるか、と言うより、アシュレイにまた会えなくなるかも知れねぇって事の方が、俺には気になる事だったんだ……








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