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閑話
ミーシャの事情3
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帝城で、リドディルク様に調査報告をした後、不意にこんな事を言って来られた。
「ゾランは何歳だったか?」
「え……私ですか?……今年で22歳になります。」
「そうか。もういい歳なんだな……」
「なんですか?いきなり……」
「いや……実はゾランに縁談の話が来ていてな。」
「は?」
「そんなバカみたいな顔をするな。」
「いや、その……突然何を言い出すのかと思いまして……」
「ジスカール子爵の三女、アンジェリカがゾランに一目惚れしたんだそうだ。」
「は?」
「またその顔をする。」
「いや、その……突然何を言い出すのかと思いまして……」
「さっきと答えが同じだぞ。こう言う事になると、途端に頭の悪い答えを返すんだな。で、どうする?」
「は?」
「だからその顔をやめろ。」
「リドディルク様、私は貴族ではありません。子爵のご令嬢となんて、滅相もございません。」
「これは以前から考えていた事だが、俺はゾランに爵位を与えようと思っている。」
「何を仰います!それでは職権乱用になりますっ!」
「ゾランの今までの働きからすれば、ただの俺の傲慢な考えではない筈だぞ?で、どうする?」
「私に爵位等結構でございます!今のままで私は何の不自由もありません!」
「そうか?女性にもか?」
「……っ!い、今は興味等ありませんっ!」
「では、ジスカール子爵にはそう伝えておくが……これは俺のせいなのかもな……」
「何がです?」
「ゾランを働かせ過ぎているのかも知れない……」
「そんな事はありませんっ!」
「いや、俺はゾランに頼り過ぎだな。そうだな、ゾランに休暇を与える事にしよう。」
「はい?!この忙しい時に休暇?!あり得ませんっ!休暇等いりませんっ!!」
「しかし、帝城に来てから一日たりとて休んでいないだろう?ブラック皇帝と言われても仕方がない状況だ。」
「なんですか、そのブラック皇帝とは!?」
「言いにくいな、ブラックエンペラーとかの方が言いやすいか。」
「変な事になってる!やめて下さいっ!とにかく!休暇等必要ありません!ではっ!」
早々に執務室を退出する。
本当にいきなり何を言い出されるのか!
リドディルク様は!
やることが多くて、本当にそれどころでは無いのに!
廊下をズンズン歩いていると、お茶を乗せたワゴンを押しているミーシャとすれ違った。
「ゾラン様、どうされたんですか?お顔が怖いですよ?」
「あ、ミーシャ……いや、ちょっとリドディルク様に……」
「何かあったんですか?また無茶をして休もうとしない、とかですか?!」
「いや、そうじゃないんだ……いきなり僕に休暇を与えるとか言い出して……」
「えぇっ!ゾラン様!そんな……っ!」
「え?」
「私っ!リディ様に言って来ますっ!」
「え?ミーシャ?」
何やら慌てた感じで、ミーシャが執務室まで急いで向かって行った。
気にはなったが、他にする事が溜まっていたので、僕はそのまま仕事に戻った。
暫く自室で資料を纏めていると、コルネールがやって来て、リドディルク様が呼んでいると言う。
「お呼びですか?リドディルク様。」
「ゾラン……何か思う事があるのか?」
「はい?何がですか?」
「……ゾランからは何も感じ取れないが……不満があれば言ってほしい。」
「え?何のことです?不満等は特にございませんが……」
「そうだな……見る限りではそうだが……俺の読みが甘いのか……?」
「なぜいきなりそんな事を言い出すんですか?」
「いきなりそんな事を言い出したのはゾランだろう?」
「はい?」
「ここを辞めるつもりらしいな。」
「えぇーーっ!!」
「違うのか?」
「なんでそんな事になってるんですか!?」
「さっきミーシャが来て言っていたぞ?」
「ミーシャが?!何て言ってたんです?!」
「泣きながら来てな。ゾランが暇を出されるだの、ゾランが怒ってるだの、出て行ってしまうだの、とりとめ無く言葉に出すから、結局何が言いたかったのか分からなかったが、ミーシャの感情を読むと、ゾランが仕事を辞めて遠くに行くと思っているらしかった。」
「なぜそうなってしまうんですか?!」
「それは分からん。泣いていて、あまり上手く言葉に出来ていない状態だったからな。ゾランはミーシャに何を言ったんだ?」
「私は特に……休暇を与えられそうだと言っただけです。」
「……何か勘違いしたのかも知れない。まだ言葉を上手く捉えられていない時があるからな。さっきコルネールに連れられて出て行ったが、ミーシャのフォローをしてやってくれないか?」
「……畏まりました。」
廊下を歩いて、メイド達の休憩室に向かっているところで、ある令嬢が何かを探すようにこちらに向かって来ていた。
それから僕の顔を見ると、はっとした感じになって、僕の元までやって来た。
「あの……ゾランさん……私はアンジェリカと申します……その……リドディルク皇帝陛下よりお話は聞いていらっしゃると思うのですが……」
「え?あなたがアンジェリカ様?」
「そんな……様なんてつけないで下さい。アンジーとお呼び下さい……」
「それは……あの……先程リドディルク様にもお伝えしたのですが、私は貴族ではありませんし、今は女性の事を考えている暇がないのです。」
「それは……私では貴方に相応しくないと……」
「そう言う事ではありません!それを言うなら、私の方が貴女に相応しくありません!」
「勝手に決めないで下さい!私の事を何も知らないで、すぐに断るのは失礼ではありませんか?一度でも構いません。私とデートして下さい。それから判断して下さい!」
「しかし……」
「そうだな。アンジェリカ殿が言われるのは最もだ。」
「リドディルク様!」
「リドディルク皇帝陛下!こんな所まで来てしまって申し訳ありませんっ!」
「アンジェリカ殿、それは気にしなくていい。ゾラン、明日は休みにするから、デートをしてくればいい。これは命令だ。」
「なっ……!」
「明日ゾランに屋敷まで迎えに行かせる。それで構わないか?」
「ありがとうございます!リドディルク皇帝陛下!ではゾランさん、明日お待ちしておりますわね!」
そう言うと、アンジェリカ様は嬉しそうに帰って行った。
「そう言う事だから、ゾラン。明日のデートプランをしっかり考えておくように。」
「ちょっと、なんて事をしてくれるんですか!私は……!」
「他に誰か気になる人でもいるのか?」
「え……?」
一瞬言葉につまった僕を見て、リドディルク様はニヤリと笑った。
「な、なんですか?」
「いや、なんでもない。ほら、早くミーシャにちゃんと説明しに行ってやれ。」
「……はい……」
なんでこんな事になったんだ……
本当に僕は、今仕事の事が頭でいっぱいで、女性の事なんか気にしている暇等ないと言うのに……
リドディルク様にはアシュリーさんと言う方がいて、その人の事になると周りが見えなくなってしまわれて……
今まで女性には見向きもされなかったのに、こうも人って変わってしまうんだな……
恋とは恐ろしいものだ……
休憩室に入ると、ミーシャが部屋の隅でうずくまって泣いていた。
「ミーシャ……」
「ゾラン様……」
「またそんな所で泣いて……」
ミーシャの手を取って、泣いているミーシャを立たせる。
「だって……ゾラン様が……」
「ミーシャ、勘違いしているよ?僕は辞めないからね。」
「え……?」
「辞めるなんて、一言も言ってないよ。」
「本当に?!どこにも行かないですか?!」
「ハハ……どこに行くって言うんだ?僕はこの仕事を辞めるつもりはないし、リドディルク様の側を離れるつもりもないよ。」
「良かった……っ!」
「また涙がいっぱい出てる……」
僕が遠くに行くと思ってか、ミーシャがずっと泣いていて、僕はそれを慰める様に抱き寄せる。
なんだか、こうやって抱き締めるのは久しぶりだ。
前にそうした時より……
抱き心地が良くなって……る……?
そう思った瞬間、僕はミーシャを自分から離した。
「ゾラン様……?」
「あ……いや、うん……なんでもないよっ!と、とにかく、僕は辞めないから、ミーシャはそんな事を気にしなくていいから。じゃあ、仕事に戻るっ!」
すぐに休憩室から出て自室に戻る。
なんだ?
なにを気にしてるんだ?僕は!
幼くてガリガリで傷だらけの少女だったミーシャなのに……
抱き締めた時、僕はその柔らかさに戸惑ってしまったんだ。
そうか……
あれからもう4年になるのか……
もう成人して、ミーシャもこの場所に囚われずに、何処にでも行けるんだ……
まだ小さな女の子のままの感覚でいたけれど、ミーシャは少しずつ大人になっていってるんだな……
そんな事を考えると
なにかは自分でも分からなかったけれど、複雑な感情が心の中に湧いてきた。
その感情が何なのかは
僕にはまだよく分からないままだった。
「ゾランは何歳だったか?」
「え……私ですか?……今年で22歳になります。」
「そうか。もういい歳なんだな……」
「なんですか?いきなり……」
「いや……実はゾランに縁談の話が来ていてな。」
「は?」
「そんなバカみたいな顔をするな。」
「いや、その……突然何を言い出すのかと思いまして……」
「ジスカール子爵の三女、アンジェリカがゾランに一目惚れしたんだそうだ。」
「は?」
「またその顔をする。」
「いや、その……突然何を言い出すのかと思いまして……」
「さっきと答えが同じだぞ。こう言う事になると、途端に頭の悪い答えを返すんだな。で、どうする?」
「は?」
「だからその顔をやめろ。」
「リドディルク様、私は貴族ではありません。子爵のご令嬢となんて、滅相もございません。」
「これは以前から考えていた事だが、俺はゾランに爵位を与えようと思っている。」
「何を仰います!それでは職権乱用になりますっ!」
「ゾランの今までの働きからすれば、ただの俺の傲慢な考えではない筈だぞ?で、どうする?」
「私に爵位等結構でございます!今のままで私は何の不自由もありません!」
「そうか?女性にもか?」
「……っ!い、今は興味等ありませんっ!」
「では、ジスカール子爵にはそう伝えておくが……これは俺のせいなのかもな……」
「何がです?」
「ゾランを働かせ過ぎているのかも知れない……」
「そんな事はありませんっ!」
「いや、俺はゾランに頼り過ぎだな。そうだな、ゾランに休暇を与える事にしよう。」
「はい?!この忙しい時に休暇?!あり得ませんっ!休暇等いりませんっ!!」
「しかし、帝城に来てから一日たりとて休んでいないだろう?ブラック皇帝と言われても仕方がない状況だ。」
「なんですか、そのブラック皇帝とは!?」
「言いにくいな、ブラックエンペラーとかの方が言いやすいか。」
「変な事になってる!やめて下さいっ!とにかく!休暇等必要ありません!ではっ!」
早々に執務室を退出する。
本当にいきなり何を言い出されるのか!
リドディルク様は!
やることが多くて、本当にそれどころでは無いのに!
廊下をズンズン歩いていると、お茶を乗せたワゴンを押しているミーシャとすれ違った。
「ゾラン様、どうされたんですか?お顔が怖いですよ?」
「あ、ミーシャ……いや、ちょっとリドディルク様に……」
「何かあったんですか?また無茶をして休もうとしない、とかですか?!」
「いや、そうじゃないんだ……いきなり僕に休暇を与えるとか言い出して……」
「えぇっ!ゾラン様!そんな……っ!」
「え?」
「私っ!リディ様に言って来ますっ!」
「え?ミーシャ?」
何やら慌てた感じで、ミーシャが執務室まで急いで向かって行った。
気にはなったが、他にする事が溜まっていたので、僕はそのまま仕事に戻った。
暫く自室で資料を纏めていると、コルネールがやって来て、リドディルク様が呼んでいると言う。
「お呼びですか?リドディルク様。」
「ゾラン……何か思う事があるのか?」
「はい?何がですか?」
「……ゾランからは何も感じ取れないが……不満があれば言ってほしい。」
「え?何のことです?不満等は特にございませんが……」
「そうだな……見る限りではそうだが……俺の読みが甘いのか……?」
「なぜいきなりそんな事を言い出すんですか?」
「いきなりそんな事を言い出したのはゾランだろう?」
「はい?」
「ここを辞めるつもりらしいな。」
「えぇーーっ!!」
「違うのか?」
「なんでそんな事になってるんですか!?」
「さっきミーシャが来て言っていたぞ?」
「ミーシャが?!何て言ってたんです?!」
「泣きながら来てな。ゾランが暇を出されるだの、ゾランが怒ってるだの、出て行ってしまうだの、とりとめ無く言葉に出すから、結局何が言いたかったのか分からなかったが、ミーシャの感情を読むと、ゾランが仕事を辞めて遠くに行くと思っているらしかった。」
「なぜそうなってしまうんですか?!」
「それは分からん。泣いていて、あまり上手く言葉に出来ていない状態だったからな。ゾランはミーシャに何を言ったんだ?」
「私は特に……休暇を与えられそうだと言っただけです。」
「……何か勘違いしたのかも知れない。まだ言葉を上手く捉えられていない時があるからな。さっきコルネールに連れられて出て行ったが、ミーシャのフォローをしてやってくれないか?」
「……畏まりました。」
廊下を歩いて、メイド達の休憩室に向かっているところで、ある令嬢が何かを探すようにこちらに向かって来ていた。
それから僕の顔を見ると、はっとした感じになって、僕の元までやって来た。
「あの……ゾランさん……私はアンジェリカと申します……その……リドディルク皇帝陛下よりお話は聞いていらっしゃると思うのですが……」
「え?あなたがアンジェリカ様?」
「そんな……様なんてつけないで下さい。アンジーとお呼び下さい……」
「それは……あの……先程リドディルク様にもお伝えしたのですが、私は貴族ではありませんし、今は女性の事を考えている暇がないのです。」
「それは……私では貴方に相応しくないと……」
「そう言う事ではありません!それを言うなら、私の方が貴女に相応しくありません!」
「勝手に決めないで下さい!私の事を何も知らないで、すぐに断るのは失礼ではありませんか?一度でも構いません。私とデートして下さい。それから判断して下さい!」
「しかし……」
「そうだな。アンジェリカ殿が言われるのは最もだ。」
「リドディルク様!」
「リドディルク皇帝陛下!こんな所まで来てしまって申し訳ありませんっ!」
「アンジェリカ殿、それは気にしなくていい。ゾラン、明日は休みにするから、デートをしてくればいい。これは命令だ。」
「なっ……!」
「明日ゾランに屋敷まで迎えに行かせる。それで構わないか?」
「ありがとうございます!リドディルク皇帝陛下!ではゾランさん、明日お待ちしておりますわね!」
そう言うと、アンジェリカ様は嬉しそうに帰って行った。
「そう言う事だから、ゾラン。明日のデートプランをしっかり考えておくように。」
「ちょっと、なんて事をしてくれるんですか!私は……!」
「他に誰か気になる人でもいるのか?」
「え……?」
一瞬言葉につまった僕を見て、リドディルク様はニヤリと笑った。
「な、なんですか?」
「いや、なんでもない。ほら、早くミーシャにちゃんと説明しに行ってやれ。」
「……はい……」
なんでこんな事になったんだ……
本当に僕は、今仕事の事が頭でいっぱいで、女性の事なんか気にしている暇等ないと言うのに……
リドディルク様にはアシュリーさんと言う方がいて、その人の事になると周りが見えなくなってしまわれて……
今まで女性には見向きもされなかったのに、こうも人って変わってしまうんだな……
恋とは恐ろしいものだ……
休憩室に入ると、ミーシャが部屋の隅でうずくまって泣いていた。
「ミーシャ……」
「ゾラン様……」
「またそんな所で泣いて……」
ミーシャの手を取って、泣いているミーシャを立たせる。
「だって……ゾラン様が……」
「ミーシャ、勘違いしているよ?僕は辞めないからね。」
「え……?」
「辞めるなんて、一言も言ってないよ。」
「本当に?!どこにも行かないですか?!」
「ハハ……どこに行くって言うんだ?僕はこの仕事を辞めるつもりはないし、リドディルク様の側を離れるつもりもないよ。」
「良かった……っ!」
「また涙がいっぱい出てる……」
僕が遠くに行くと思ってか、ミーシャがずっと泣いていて、僕はそれを慰める様に抱き寄せる。
なんだか、こうやって抱き締めるのは久しぶりだ。
前にそうした時より……
抱き心地が良くなって……る……?
そう思った瞬間、僕はミーシャを自分から離した。
「ゾラン様……?」
「あ……いや、うん……なんでもないよっ!と、とにかく、僕は辞めないから、ミーシャはそんな事を気にしなくていいから。じゃあ、仕事に戻るっ!」
すぐに休憩室から出て自室に戻る。
なんだ?
なにを気にしてるんだ?僕は!
幼くてガリガリで傷だらけの少女だったミーシャなのに……
抱き締めた時、僕はその柔らかさに戸惑ってしまったんだ。
そうか……
あれからもう4年になるのか……
もう成人して、ミーシャもこの場所に囚われずに、何処にでも行けるんだ……
まだ小さな女の子のままの感覚でいたけれど、ミーシャは少しずつ大人になっていってるんだな……
そんな事を考えると
なにかは自分でも分からなかったけれど、複雑な感情が心の中に湧いてきた。
その感情が何なのかは
僕にはまだよく分からないままだった。
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