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第六章
聖女として
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グリオルド国の王都ウェルヴァラで囚われの身となり、それからすぐに私は兵達の訓練所まで連れてこられた。
聖女の姿をした私を、兵達は目を反らさずにただじっと見詰めるばかりだ。
この国には他に聖女はいないのだろうか……?
所々に、私を捕らえた兵がいる。
その者と目が合うと、申し訳なさそうな顔つきになる。
そんな顔をするくらいなら捕まえなきゃいいのに……
そう言う訳にはいかなかったんだろうけど……
訓練所の横に宿舎があり、その一角に診療所があった。
そこには数人、怪我をした者が横たわっていた。
「聖女様、ここにいる者達の怪我の治療をお願いしたいのですが……」
兵隊長が私の様子を伺いながら告げてきた。
「重症の者からお願いします。この者は馬で移動中に魔物と遭遇し、片腕を食われて命からがら逃げて来ました。未だ意識は戻っていません。何とか出来ないでしょうか……?」
側には医師がおり、私を訝しげな目で見ている。
他の者も頭部を負傷していたり、足が動かない、等といった症状で、重症の者達をここに集めたようだった。
私はこの部屋全体に行き届く様に、回復魔法を施した。
淡い緑の光が部屋中を暖めるように広がって、それからゆっくり消えて行く。
次の瞬間、眠っていた者は目覚め、無くなった筈の腕がそこにあるのを見て、驚いていた。
他の者も、皆が自分の変化に戸惑い、それから歓喜の声を上げる。
医師は驚きを隠せない表情で、患者である兵達の様子をみてから、私を凝視していた。
「まさか……これ程の力をお持ちだとは……っ!ありがとうございますっ!これでこの国は安泰ですっ!!」
「私は長くこの国にはいない。命を粗末に扱う様な行動は慎む様に。」
「そんな筈は……いや、それでも……そのお言葉の通りにっ!」
深々と頭を下げる兵隊長と、私に感謝の言葉を告げる負傷者だった兵達に、思わず微笑みがもれてしまう。
一瞬にして皆が固まった様に動かなくなってしまった。
あまり笑わない方が良かったのかな……
不謹慎だったかな……?
その後、王城にある診療所にも行って、同じように治療を施す。
病に臥せっている、自宅療養している貴族の元にも連れていかれる。
私が回復させると、皆が驚いて感謝の言葉で埋め尽くす。
その言葉にニッコリ微笑むと、また皆が固まって動かなくなる。
やっぱり笑わない方が良いんだな……きっと。
そんな事を続けてから元いた部屋まで連れ戻されると、今度は面会に来る者が後を絶たなかった。
口々にお礼の言葉や、噂を聞いて会いに来た、と言う感じで、部屋の前には列が出来ていた様だった。
その日はひとしきりそんな事があったので、何だか疲れてしまった。
夜、ピンクの石が光り、それを握ってディルクと話しをする。
やっぱりディルクの声を聞くと安心する……
『アシュレイ、疲れているのか?』
「今日は色んな人と会って話しをしたんだ。今まであまりそう言う事がなかったから慣れなくて……」
『そうか……酷い事はされてないか?』
「うん……それは大丈夫だから心配しないで。」
『今、馬車でそちらに向かっている。空間移動で行く訳にはいかないから、4、5日程かかってしまう。すまない……』
「謝らないで……私の方こそ、ディルクを巻き込んでしまってごめんなさい……」
『アシュリーが悪い訳じゃない。アシュリーはむしろ、良いことをしたんだ。気に病む事はない。』
「うん……ありがとう……」
『ところで……今回の事を調べていたのだが、エリアスが指名手配されようとしている。彼は何をしたんだ?』
「それは……!ナルーラの街で爆破事件があった時、私が回復魔法を使った後捕まえられそうになって……それをエリアスが助けようとして、兵達に攻撃してしまったんだ……」
『そうだったんだな……』
「どうしよう……私のせいだ……」
『いや、アシュリーのせいでは……』
「エリアスはAランク冒険者なのに……!ガルディアーノ邸でも拷問されて傷だらけになって……指名手配とかされたら、エリアスはどうなってしまうんだ?!もう冒険者ではいられなくなってしまうんじゃ……!」
『ランク剥奪か……良くて降格だ。』
「……ダメだ……そんな事……嫌だ……絶対嫌だ!」
『アシュリー……』
「ディルク、どうしよう?!どうしたらエリアスを助けられるかな?!」
『……分かった……俺がどうにかする。』
「本当に?!そんな事できるの?!」
『何とかしてみせる。だから心配しなくて良い。』
「ありがとうっ!ディルク……ありがとう!」
『アイツの為に礼なんて言わなくても良い。』
「え……でも……」
『アイツの事より、アシュリーには俺の事だけを考えていて欲しい……』
「え……あの、それって……」
『全部言わすんじゃない!ではまた連絡するから!』
石の光が消えて、ディルクの声が聞こえなくなった。
もしかして、ディルクは焼きもちを焼いてくれているのかな……
そう思うと、思わず笑みが溢れてしまう。
あんな風に怒って……
なんか、ディルクが可愛く感じてしまった。
それにしても、やっぱりエリアスは指名手配されそうだったんだな……
私を助ける為に無茶をしたから……
私が帰って来ないとなったら、エリアスはどうするだろう?
また無茶をしなければ良いんだけれど……
聖女の姿をした私を、兵達は目を反らさずにただじっと見詰めるばかりだ。
この国には他に聖女はいないのだろうか……?
所々に、私を捕らえた兵がいる。
その者と目が合うと、申し訳なさそうな顔つきになる。
そんな顔をするくらいなら捕まえなきゃいいのに……
そう言う訳にはいかなかったんだろうけど……
訓練所の横に宿舎があり、その一角に診療所があった。
そこには数人、怪我をした者が横たわっていた。
「聖女様、ここにいる者達の怪我の治療をお願いしたいのですが……」
兵隊長が私の様子を伺いながら告げてきた。
「重症の者からお願いします。この者は馬で移動中に魔物と遭遇し、片腕を食われて命からがら逃げて来ました。未だ意識は戻っていません。何とか出来ないでしょうか……?」
側には医師がおり、私を訝しげな目で見ている。
他の者も頭部を負傷していたり、足が動かない、等といった症状で、重症の者達をここに集めたようだった。
私はこの部屋全体に行き届く様に、回復魔法を施した。
淡い緑の光が部屋中を暖めるように広がって、それからゆっくり消えて行く。
次の瞬間、眠っていた者は目覚め、無くなった筈の腕がそこにあるのを見て、驚いていた。
他の者も、皆が自分の変化に戸惑い、それから歓喜の声を上げる。
医師は驚きを隠せない表情で、患者である兵達の様子をみてから、私を凝視していた。
「まさか……これ程の力をお持ちだとは……っ!ありがとうございますっ!これでこの国は安泰ですっ!!」
「私は長くこの国にはいない。命を粗末に扱う様な行動は慎む様に。」
「そんな筈は……いや、それでも……そのお言葉の通りにっ!」
深々と頭を下げる兵隊長と、私に感謝の言葉を告げる負傷者だった兵達に、思わず微笑みがもれてしまう。
一瞬にして皆が固まった様に動かなくなってしまった。
あまり笑わない方が良かったのかな……
不謹慎だったかな……?
その後、王城にある診療所にも行って、同じように治療を施す。
病に臥せっている、自宅療養している貴族の元にも連れていかれる。
私が回復させると、皆が驚いて感謝の言葉で埋め尽くす。
その言葉にニッコリ微笑むと、また皆が固まって動かなくなる。
やっぱり笑わない方が良いんだな……きっと。
そんな事を続けてから元いた部屋まで連れ戻されると、今度は面会に来る者が後を絶たなかった。
口々にお礼の言葉や、噂を聞いて会いに来た、と言う感じで、部屋の前には列が出来ていた様だった。
その日はひとしきりそんな事があったので、何だか疲れてしまった。
夜、ピンクの石が光り、それを握ってディルクと話しをする。
やっぱりディルクの声を聞くと安心する……
『アシュレイ、疲れているのか?』
「今日は色んな人と会って話しをしたんだ。今まであまりそう言う事がなかったから慣れなくて……」
『そうか……酷い事はされてないか?』
「うん……それは大丈夫だから心配しないで。」
『今、馬車でそちらに向かっている。空間移動で行く訳にはいかないから、4、5日程かかってしまう。すまない……』
「謝らないで……私の方こそ、ディルクを巻き込んでしまってごめんなさい……」
『アシュリーが悪い訳じゃない。アシュリーはむしろ、良いことをしたんだ。気に病む事はない。』
「うん……ありがとう……」
『ところで……今回の事を調べていたのだが、エリアスが指名手配されようとしている。彼は何をしたんだ?』
「それは……!ナルーラの街で爆破事件があった時、私が回復魔法を使った後捕まえられそうになって……それをエリアスが助けようとして、兵達に攻撃してしまったんだ……」
『そうだったんだな……』
「どうしよう……私のせいだ……」
『いや、アシュリーのせいでは……』
「エリアスはAランク冒険者なのに……!ガルディアーノ邸でも拷問されて傷だらけになって……指名手配とかされたら、エリアスはどうなってしまうんだ?!もう冒険者ではいられなくなってしまうんじゃ……!」
『ランク剥奪か……良くて降格だ。』
「……ダメだ……そんな事……嫌だ……絶対嫌だ!」
『アシュリー……』
「ディルク、どうしよう?!どうしたらエリアスを助けられるかな?!」
『……分かった……俺がどうにかする。』
「本当に?!そんな事できるの?!」
『何とかしてみせる。だから心配しなくて良い。』
「ありがとうっ!ディルク……ありがとう!」
『アイツの為に礼なんて言わなくても良い。』
「え……でも……」
『アイツの事より、アシュリーには俺の事だけを考えていて欲しい……』
「え……あの、それって……」
『全部言わすんじゃない!ではまた連絡するから!』
石の光が消えて、ディルクの声が聞こえなくなった。
もしかして、ディルクは焼きもちを焼いてくれているのかな……
そう思うと、思わず笑みが溢れてしまう。
あんな風に怒って……
なんか、ディルクが可愛く感じてしまった。
それにしても、やっぱりエリアスは指名手配されそうだったんだな……
私を助ける為に無茶をしたから……
私が帰って来ないとなったら、エリアスはどうするだろう?
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