慟哭の時

レクフル

文字の大きさ
上 下
222 / 363
第六章

聖女として

しおりを挟む
グリオルド国の王都ウェルヴァラで囚われの身となり、それからすぐに私は兵達の訓練所まで連れてこられた。

聖女の姿をした私を、兵達は目を反らさずにただじっと見詰めるばかりだ。

この国には他に聖女はいないのだろうか……?

所々に、私を捕らえた兵がいる。

その者と目が合うと、申し訳なさそうな顔つきになる。
そんな顔をするくらいなら捕まえなきゃいいのに……
そう言う訳にはいかなかったんだろうけど……

訓練所の横に宿舎があり、その一角に診療所があった。
そこには数人、怪我をした者が横たわっていた。


「聖女様、ここにいる者達の怪我の治療をお願いしたいのですが……」


兵隊長が私の様子を伺いながら告げてきた。


「重症の者からお願いします。この者は馬で移動中に魔物と遭遇し、片腕を食われて命からがら逃げて来ました。未だ意識は戻っていません。何とか出来ないでしょうか……?」


側には医師がおり、私をいぶかしげな目で見ている。
他の者も頭部を負傷していたり、足が動かない、等といった症状で、重症の者達をここに集めたようだった。

私はこの部屋全体に行き届く様に、回復魔法を施した。
淡い緑の光が部屋中を暖めるように広がって、それからゆっくり消えて行く。

次の瞬間、眠っていた者は目覚め、無くなった筈の腕がそこにあるのを見て、驚いていた。
他の者も、皆が自分の変化に戸惑い、それから歓喜の声を上げる。
医師は驚きを隠せない表情で、患者である兵達の様子をみてから、私を凝視していた。


「まさか……これ程の力をお持ちだとは……っ!ありがとうございますっ!これでこの国は安泰ですっ!!」

「私は長くこの国にはいない。命を粗末に扱う様な行動は慎む様に。」

「そんな筈は……いや、それでも……そのお言葉の通りにっ!」


深々と頭を下げる兵隊長と、私に感謝の言葉を告げる負傷者だった兵達に、思わず微笑みがもれてしまう。
一瞬にして皆が固まった様に動かなくなってしまった。
あまり笑わない方が良かったのかな……
不謹慎だったかな……?

その後、王城にある診療所にも行って、同じように治療を施す。

病に臥せっている、自宅療養している貴族の元にも連れていかれる。

私が回復させると、皆が驚いて感謝の言葉で埋め尽くす。
その言葉にニッコリ微笑むと、また皆が固まって動かなくなる。
やっぱり笑わない方が良いんだな……きっと。

そんな事を続けてから元いた部屋まで連れ戻されると、今度は面会に来る者が後を絶たなかった。
口々にお礼の言葉や、噂を聞いて会いに来た、と言う感じで、部屋の前には列が出来ていた様だった。

その日はひとしきりそんな事があったので、何だか疲れてしまった。

夜、ピンクの石が光り、それを握ってディルクと話しをする。
やっぱりディルクの声を聞くと安心する……


『アシュレイ、疲れているのか?』

「今日は色んな人と会って話しをしたんだ。今まであまりそう言う事がなかったから慣れなくて……」

『そうか……酷い事はされてないか?』

「うん……それは大丈夫だから心配しないで。」

『今、馬車でそちらに向かっている。空間移動で行く訳にはいかないから、4、5日程かかってしまう。すまない……』

「謝らないで……私の方こそ、ディルクを巻き込んでしまってごめんなさい……」

『アシュリーが悪い訳じゃない。アシュリーはむしろ、良いことをしたんだ。気に病む事はない。』

「うん……ありがとう……」

『ところで……今回の事を調べていたのだが、エリアスが指名手配されようとしている。彼は何をしたんだ?』

「それは……!ナルーラの街で爆破事件があった時、私が回復魔法を使った後捕まえられそうになって……それをエリアスが助けようとして、兵達に攻撃してしまったんだ……」

『そうだったんだな……』

「どうしよう……私のせいだ……」

『いや、アシュリーのせいでは……』

「エリアスはAランク冒険者なのに……!ガルディアーノ邸でも拷問されて傷だらけになって……指名手配とかされたら、エリアスはどうなってしまうんだ?!もう冒険者ではいられなくなってしまうんじゃ……!」

『ランク剥奪か……良くて降格だ。』

「……ダメだ……そんな事……嫌だ……絶対嫌だ!」

『アシュリー……』

「ディルク、どうしよう?!どうしたらエリアスを助けられるかな?!」

『……分かった……俺がどうにかする。』

「本当に?!そんな事できるの?!」

『何とかしてみせる。だから心配しなくて良い。』

「ありがとうっ!ディルク……ありがとう!」

『アイツの為に礼なんて言わなくても良い。』

「え……でも……」

『アイツの事より、アシュリーには俺の事だけを考えていて欲しい……』

「え……あの、それって……」

『全部言わすんじゃない!ではまた連絡するから!』


石の光が消えて、ディルクの声が聞こえなくなった。

もしかして、ディルクは焼きもちを焼いてくれているのかな……

そう思うと、思わず笑みが溢れてしまう。
あんな風に怒って……
なんか、ディルクが可愛く感じてしまった。


それにしても、やっぱりエリアスは指名手配されそうだったんだな……

私を助ける為に無茶をしたから……

私が帰って来ないとなったら、エリアスはどうするだろう?

また無茶をしなければ良いんだけれど……






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

処理中です...