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第五章
涙脆かった
しおりを挟む『風見鶏の店』を出て、もう一度宿屋に帰る。
エリアスと部屋に入り、紫の石の指輪を取り出す。
それから、短剣も取り出し、テーブルの上に置く。
「これが、アンタの言ってた石か?」
「そうだ。紫の石で5個揃った。この石を全て集めると、私の異能の力が無くなるかも知れない。」
「そうなのか?!」
「集めてみないと分からないけどね。最初は何も分からずに集めていたが、銀髪の村でそうだと聞いた。」
「他の石も、なんかの力が使えたりすんのか?」
「あぁ。赤い石は、魔素を取り込む事が出来て、魔素のコントロールが出来るようになる。黄色の石は、五感が研ぎ澄まされる。それと、他の石の場所が分かるようになった。緑の石は回復魔法を使うことができる。青の石は、第六感に目覚め、霊や精霊が見えるようになった。」
「そんな事が出来んのかよ……」
「この短剣に嵌める事によって、より力が大きくなる、と言われた。紫の石は指輪に嵌まっているが、この短剣に嵌めようと思っている。」
「その指輪から短剣に嵌めるのか。取り出さなきゃいけねぇな。」
「いや、恐らく問題なく嵌められると思う。」
「どうやって?」
指輪の先についている紫の石を、短剣の窪みに合わせてみる。
石が紫に光輝き、全身に行き渡る様に私の体も光りだし、体の中を駆け巡って定着するように這っていく。
心地良い感覚が体を包み、やがてそれは少しずつ落ち着いていく。
短剣には、紫の石が嵌まっていた。
「すげぇ……」
「え?」
「何だ?!今のっ!アシュレイも光ってたぞ!」
「あぁ、この石の力が、私の中に納まったって事だろう。だから多分、この短剣が近くになくても、私は力を使うことが出来ると思う。」
「すげぇな……」
「誰かに見られたのは初めてだ。」
「そうなのか?」
「あぁ、今までずっと一人だったから。」
「そっか……人に触れねぇんだったな…」
「え?あぁ。今までは母しか触れる事が出来なかった。触れたら、他人の過去や未来を見てしまうし、皆私を忘れて行くから。」
「それも…辛かっただろうな……」
「エリアス程ではないよ。今までは母に人とは関わらないように言われてたけど、母がいなくなってからは慣れない人との関わりに戸惑って……でも、これでも今はかなり慣れたかな。もし私の対応が間違ってたら、分かっていないって事だから、エリアスも気づいたら教えて欲しい。」
「アンタが天然なのは、そう言う事もあったんだな……」
「ん?テンネン?」
「いや……そうか…分かったよ。」
エリアスは不意に私の両手を両手で繋いだ。
「エリアス?」
「こうやってただ手を繋ぐ事も、アンタにとっては出来ない事だったんだな……」
「あぁ…うん……」
「触ったら忘れられて行く…」
「ん?エリアス?」
見るとエリアスの目が潤んでいた。
「えぇ?!なんでっ?!」
「うっせぇ……」
エリアスは手を離して、後ろを向いた。
「エリアス!嘘だ!そんな事でっ?!」
「そんな事じゃねぇだろっ!すっげぇ辛い事じゃねぇか!」
「いや、まぁ、その……うん……ありがとう…」
そっとエリアスを覗き込む様に前に回り込むと、エリアスが涙を拭っていた様だった。
こんな荒い口調で強いのに、エリアスは涙脆かったんだな…
意外な感じで見ていると、エリアスが抱きついてきた。
「ちょっ……!エリアス!?」
「大変だったな!アシュレイ!よく頑張ったなっ!」
そう言って私の頭をワシャワシャしだした。
「……エリアスも、今までよく頑張ったね!」
私もお返しに、エリアスの頭をワシャワシャした。
ボサボサな頭になって、2人で笑った。
バカだなぁ、私達。
それでも、こんなバカな事が普通に出来ることが有難い。
私はまだ一人じゃない。
こんな感じで、エリアスとの二人旅は始まるんだな。
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