慟哭の時

レクフル

文字の大きさ
上 下
108 / 363
第四章

残留思念

しおりを挟む

帝城を後にするべく、廊下を歩く。

本当にここは思念が凄まじいな。

人が近くにいなくとも、常に頭の中に色んな感情が入ってくる。

足元がグラグラと歪んでいるような感覚に陥りそうになる。


「リドディルク様!」


倒れそうになる俺を、ゾランが素早く支えてくれる。

「ゾラン…大丈夫だ……」

「少し休まれてはいかがですか?」

「いや、早くここから出ていきたい。その方が体は良くなる……」

「分かりました。」

「ゾラン、今姉上が何処にいるか分かるか?」

「リドディルク様を探す為に遠征に出ていらっしゃいます。今はインタラス国の王都辺りにいらっしゃる様です。リドディルク様がお帰りになった事はすぐに分かるでしょうから、情報を得たら帰路に就かれると思いますが……」

「インタラス国の王都か……行った事があるな。行ってみるか。」

「今度は私も連れて行って下さいますか?」

「俺の邪魔をしないのであればな。」

ふふ……と笑いながらゾランを見る。

「あの時は仕方がありませんでした。あの者を助ける為にリドディルク様は無茶をし過ぎでしたから。私が止めなければどうなっていたのか……」

「ゾランは俺を虚弱体質だと思っているのだろう?
そんなに柔じゃないぞ?」

「今も倒れそうになりながら、何を仰っているんですか。人の為に、やり過ぎる位にご自分を犠牲にし過ぎです。」

「……リーザの時は悪いことをした。」

「いえ、そのお陰で、私は最後に母に会うことができました。その事については感謝しかございません。」

「しかし…ゾランはリーザに似てきたな。」

「それは誉め言葉ですか?」

「どうかな?」

ハハハ、と笑いながら歩いて行く。

話をしながらだと、思念に呑まれにくいな。



あの時



アシュリーと初めて会った時

目覚めたアシュリーを再び眠らせ、その悲しみの感情を取り除こうとしたのだが、思ったよりも深く根強い負の感情があり、途中でゾランに止められた。

その時自分では気づかなかったが、俺の口からは血が流れ出ていたらしい。

あの時ゾランは、俺に付かず離れず見守ってくれていたのだ。

レクスは安心したのか、アシュリーの横ですがるように眠っていた。

眠る必要がないとは言え、この時ばかりはレクスも疲れたのかもしれないな。

ゾランに引き剥がされる様にその場を後にしたのだが、その事があったから、次出かける時にゾランを置いて行ったら、拗ねたように怒っていた。


やっとの事で帝城から抜け出し、馬車に乗り帝都を出る。

部屋に戻って来れた時には、倒れる様にベッドに突っ伏していた。

それからすぐに意識がなくなってゆく。

薄れていく意識の中で、俺の頭に浮かぶのはアシュリーの事だった。

無意識に首飾りの石を握りしめながら、深く意識を手放してゆく。




アシュリー




会いたい……




こんな俺でも 君は想ってくれるのだろうか……






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

処理中です...