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その本性

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 王都へ行き、国王と会った。

 私は我が国ウェルス国では英雄だ。自分ではそんな言われ方に納得等はしていないが、周りが勝手にそう言い続けている。今更訂正するつもりもないが、立場上そうなってしまっていた。

 そしてウェルス国最強であるとも言われている。今は戦争等は起こっていないが、私がいることで他国は攻めて来ないとも言われているらしい。

 私からすれば、最強の称号等なんの意味も無いのだが。

 そんな事もあって、歴代の王族とは懇意にさせて貰っている。長年生きていると言うことも相まってなのだが、今の国王とはウマが合うのかどうなのか、どうやら私を気に入ってくれているようなのだ。

 だから時々呼び出される。ただ国王の話を聞くだけが殆どだが、何故か友人のように思われているようだ。だがそれを知る者は少なく、知る人ぞ知ると言ったものなのだが。
 
 今回も国王陛下とすぐに会える手筈となっている。いつも暇なのか? と勘繰ってしまう程だ。

 
「やぁ、ヴィルヘルム卿、会いたかったぞ!」

「国王陛下におかれましては本日もご機嫌麗しく……」

「そんな堅苦しい挨拶はよい。今日は珍しくそちらから会いたいと申し出てくれた。それが余は嬉しかったのだ」

「そうですか」

「しかし相変わらず堅い。もっと柔らかくならんのか」

「なりません」

「まぁそれがヴィルヘルム卿なのだがな。で、今日は何用ぞ?」

「ウルキアガ伯爵についてお聞きしたい事がございます」

「ウルキアガ伯爵、か……ヴィルヘルム卿は確か次女のエヴェリーナ嬢から婚約を申し込まれておるのだったな」

「よくご存知で」

「ヴィルヘルム卿の身に降りかかる事は知っておきたいのだよ。それでウルキアガ伯爵の事が知りたいと?」

「エヴェリーナ嬢が私の過去の知り合いの生まれ変わりだと虚言しておりまして」

「そのような虚言を? しかし、なぜそれが嘘だと思ったのだ? もしかして本当なのかも知れぬぞ?」

「あり得ません。彼女は断じてアンジェリーヌではない」

「アンジェリーヌ……はて、それは誰なのか」

「国王でもご存知ない事を、なぜ一介の令嬢が知っているのか。それが知りたいのです。もしかして何か企みがあるのではと」

「うむ……成る程な。エヴェリーナ嬢は確か少し前まで我が娘の侍女をしておったと思ったのだが……」

「クロティルド王女殿下のですか?」

「そうだ。聞いてみよう」


 そう言うと陛下は執事に王女を連れてくるように告げられた。暫くして、クロティルド王女が姿を現した。


「まぁ、ジョルジュ様! お久し振りでございます!」

「クロティルド王女殿下、久しく姿を見せなかったこと、申し訳なく感じております」

「あぁ、そんなふうに言わないでくださいませ! 英雄様が簡単に頭を下げるものではありませんことよ?」

「クロティルド、聞きたい事があるのだ」

「もぅ、お父様ったら! 少しはジョルジュ様と楽しくお話したいのに!」

「これでもヴィルヘルム卿は忙しいのだ。勘弁してやってくれぬか」

「分かりましたわ。それで、何をお聞きになりたいんですの?」

「ウルキアガ伯爵の令嬢が、少し前までクロティルド王女殿下の侍女をされていたと聞きました」

「エヴェリーナですね。えぇ、そうです。わたくしの侍女をして貰っておりました。ですが……」

「なんだ? 何かあったのか?」

「えぇ……その……エヴェリーナは虚言癖があると言いますか、思い込みが激しいと言いますか……」

「それは例えばどのような事ですか?」

「例えば、たんに目があっただけの男性が、自分を好いていると思い込むのはしょっちゅうです。似たアクセサリーを持っている人には、確認もせずに盗んだと言い放ったと思えば、わたくしの物を掠め取ったりもされましたわ」

「何?! そんな事があったのか?!」

「確証はありませんでしたが、彼女が来てから度々物が無くなっていたのです。大した物ではなかったので公にはしませんでしたが。そんな事もあって彼女に退職を言い渡したのです。エヴェリーナには良い噂は一つもありません。なので言い寄る殿方もいなかったようですね」

「これまで一人も婚約者はいなかったか?」

「いえ、おりましたが破棄されました。嫉妬が凄かったようです。それに自分に目を向けて貰うために、苛められているとか、怪我をしたとか言うのはいつもの事だったようです。最初は信じていた婚約者も、次第にそれが嘘だと分かっていって、息をするように嘘を吐ける人とは将来不安だと婚約は破棄されたんです」

「そうであったのか……」

「そのような噂は社交界ではすぐに広がります。エヴェリーナに婚約を申し込む相手はおらず、ウルキアガ伯爵はほとぼりが冷めるまで侍女として働かせる事にしたようですが……」

「それでも変わらなかったと」

「えぇ。そうです」

「では何故いきなり私の元へ婚約の申し込みをしてきたのだろうか……」

「え?! そうだったんですか?!」

「はい。今エヴェリーナ嬢は私の領地に滞在中です。自分が私の過去の知り合いだと言い張って……」

「ジョルジュ様の? あ、もしかして……」

「何か思い当たることがありましたか?!」

「もしかしてって事なのですけれど……」

「それでも構いません。教えて頂けますか?」

「えぇ……前にエヴェリーナと図書室へ行った事があるのです。図書室の奥には閲覧禁止の部屋があるのはご存知かしら?」

「はい。陛下の許可がないと入れない場所ですね」

「そうです。そこにわたくしはたまに許可を貰って入るのだけど、その時付き添いでエヴェリーナを連れていったんです。わたくしは闇魔法に興味がありまして、ですが闇魔法は禁忌とまではいかなくとも、その使い手は非常に少なく、分かっている事も少ない事から適正があっても使わないようにと教えられえおります」

「そうですね」

「わたくしには闇魔法の適正があるのです。使うことはしませんが、自分の力の一端を知りたいと思い、時々調べているのですが、その時にエヴェリーナもある書物に夢中になっていて……」

「え?! 勝手に閲覧禁止の本を読んでいたのですか?!」

「そうなんです。わたくしが本に夢中になっている間にです。持ち出し禁止の本ですから、そこでしか読むことはできなくて……通常侍女は部屋の片隅に待機するのみだったのですが……」

「なんとまぁ……常識を知らぬ者よ」

「えぇ。もちろんすぐに本を取り上げましたわ。その本は、歴史を湾曲して書かれていた書物でした」

「そんな物が存在するのですか?」

「昔、一時期流行ったようでな。事実を元に、それよりも情熱的に、数奇的にして、読み物として楽しめるようにした物なのだが、歴史書としてしまったようでな。著名な者が書いた物なので処分もできなくてな。しかし当時を知る者がいなくなれば、それが真実となってしまう。だから閲覧禁止となったのだよ」

「そうだったんですか……」

「それに書かれた本人も、あり得ない設定に怒る者も多くおってな。裁判沙汰と発展した事例もあったらしいぞ」

「そこにもしかして私の事も書かれてあったのでしょうか?」

「えぇ。わたくしはその書物の存在を知っておりました。ですからそれが真実ではないと分かっております。王族なら誰でも教えられて知っております。ですがそうでない者は歴史書として置かれているのですから、書かれている内容を信じてしまうのでしょうね」

「それでエヴェリーナ嬢は……」

「エヴェリーナが何を読んでいたか気になって、わたくしも後日その本を読みましたの。そこにはその……ジョルジュ様とアンジェリーヌという女性の恋物語が書かれてありまして……」

「そういう事だったのですね。ありがとうございます。分かって良かったです」

「いえ。お役に立てたかしら?」

「えぇ。これでエヴェリーナ嬢を追い出す事ができます」

「うむ。ウルキアガ伯爵が何か画策しているという情報は今のところはない。が、こちらからも調べてみよう」

「ありがとうございます」

「恐らく、今回の事はエヴェリーナが勝手にした事だと思います。貰い手の無くなった令嬢の未来は修道院へ行くか、侍女として働くか女騎士か魔術師になるかと、道は狭いんですもの。侍女の道が閉ざされたとしても、あの性格じゃ修道院に行きたがらないでしょうし、騎士や魔術師は余程適正がないと無理ですもの。だからジョルジュ様に嫁ごうと思ったんじゃないかしら? 高嶺の花だけれど、誰も婚約しようとしない存在で……あ、ごめんなさい!」

「いえ。自覚しておりますので」

「そうだな。ヴィルヘルム卿と婚姻を結べば、ウルキアガ伯爵の地位もエヴェリーナ嬢の名誉も一気に上がるだろうしな。良いように使われそうになった、と言うことか」

「もとより私は誰とも婚姻を結ぶつもりはありませんが。ではエヴェリーナ嬢には早々に退散して貰うことにします」

「その方が良いと思います。あの子は禍の元になる子です」


 情報を得れて良かった。しかし、この私があんな小娘に良いようにされようとは……一瞬でも動揺してしまった自分が情けない。

 恐らくウルキアガ伯爵も、相手が誰であっても、出来るものなら娘と婚約させたいと思っていたのかも知れない。嫁に行けない貴族の女性にこの世の中は冷たいのだから、そう思っても仕方がないのだが。

 とにかくすぐに帰ろう。

 帰ったらサラサの様子を伺いに行こう。

 
 
 
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