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第1章:難攻不落と転入生

第6話:神谷くんは私の天敵

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 「……なんで嘘ついてんだ?」

 頭の中で繰り返される天敵の言葉。私の頭は真っ白になった。

 この男はどの意味で言ってるんだ? あれだよね、ドラブロのことだよね?
 だって誰もお嬢様モードのことなんて知らないはずだし……岡本さんは知ってるけど。その他でも確か2、3人だけだったわよね?
 でもこの高校っていうかこの世にいるかどうかも分からない人達だけだし……

 どうしよう。どういう意味なんだろう。考えれば考えるほど血の気が引いていくのがわかる。でも授業はもうちょっとで始まっちゃうから席に向かわないと。そうだ、座れば落ち着くだろう。

 「エマ様?大丈夫?」

 私が実験の班の席に座ると誰かが声をかけてくれる。
 班の中で同じ人だから……ああ、赤石ね。

 「ありがとう赤石さん。大丈夫ですよ」

 こういう時もお嬢様モードは私を助けてくれる。
 ママの教えは案外役に立ってるのかもしれない。
 
 「そお?でも辛くなったら言ってよね」

 「ありがとうございます」

 ああ、でもドラブロのことバラされたら私の外面はどうなっちゃうのかしら?
 私がオタクだとかバレたらお嬢様キャラの継続は難しいわよね……て言うか勉強できないのを隠すので必死なのに、更に不安要素が増えて本当に困る……

 「じゃあ授業を始めるぞ。今日は中学の時の復習を兼ねて電気分解の実験をしてもらう。覚えてるやついるか?」

 ……どうやら授業が始まったらしい。
 でも何も耳に入ってこないな。私は何をそんなに動揺してるのかしら?
 このままだと……

 「いや、ここは先生が当てるぞ……そうだな、3班の誰か、答えてみろ」

 ……3班?なんの話をしてるのかしら?ってそんなことよりこのあとどうやってあの天敵から距離を置くかを考えないと。

 「おい、3班。誰か答えてみろ」

 でも学級委員で一緒だから難しいよね……いっそのこと口止めをする?

 「誰も分からないのか?じゃあ主席だった磯鷲さんにお願いしよう。磯鷲さん、答えてくれますか?」

 磯鷲さん?誰だ……って私か。でも今はそれどころじゃないんだよ。
 お嬢様モードのまま口止めする方法を考えなくちゃいけないんだから。

 「磯鷲さん?どうしました?」

 よく名前を呼ばれるな。私の話でもしてるのか?

 「磯鷲さん?」

 「先生!エマ様は今体調が悪いみたいなので、私が答えてもいいですか?」

 赤石が急に立ち上がった。どうやら私を庇っているらしい。
 でも何が起きてるんだ?

 「そうですか?じゃあ赤石さんでお願いします」

 「えっと、電気分解は電流を流して化合物を電離させることです……多分」

 電気分解?なんだその単語は?日本語なの?

 「大体合ってますね。今日はそれを各班ごとに協力してやってもらいます。実験器具は各班のテーブルの上にすでに置いてあるので、それを使ってくださいね。今回の目的は固体の銅を取り出すこととします。発生した銅の重さを測って……」

 ダメだ。最初から聞いてなさすぎて何を言ってるのか分からない。と言うか最初から聞いてても分かってたどうか怪しいわね。
 まぁ、班のみんなに合わせてやればいいか。

 「では早速始めてください」

 何も分からないまま実験が始まった。私は特に何もしてない。みんな体調が悪いと思ってくれてるらしい。少し好都合だ。

 「エマ様、そこの皿みたいなのとってくれる?」

 皿?ああ、このガラスでできたやつね。簡単な仕事でよかった。
 
 バリンっ!何かが割れた音がした、って私が落とした皿か。と言うか今私皿を手にとってたのね。気がつかなかった。

 「大丈夫ですか!?」「エマ様怪我は?」

 「ごめんなさい。少し手が滑ってしまって。片付けは自分でやりますよ」

 ああ、完全に無意識だった。どうやらかなり気が動転しているらしい。

 そして私がガラスの破片を集め終わる頃には実験も終了していた。こんなことになってるのも全部あいつのせいだ。私の授業時間を返して欲しいよ。全く。

 ◇◇◇

 気がつけば放課後になっていた。いくら考えてもこの場を乗り切る方法が思いつかない。今日は諦めてもう帰ろう……

 ガラガラっ。私が教室のドアを開けようとするとまるで自動ドアのように開いた。

 「お、エマちゃん。もうみんな帰ってるだろう?こんな時間まで何してたんだ?」

 エマちゃんと呼ぶのは1人しかいない。そう、目の前にいる壁は私の天敵。

 「今日の授業内容の復習を帰る前にしておこうかと……」

 なんとも大胆な嘘だろうか。自分で言ってて笑いたくなるよ。

 「顔色悪いけど大丈夫か?」

 心配するなら早く教室から出してくれよ。

 「大丈夫です。少し体調が優れないだけなので……」

 もう私の心は混乱しまくりよ。

 「……もしかして、俺のせいか?」

 なんと言う自意識過剰っぷり。でもその通りですよ。分かってるならさっさとそこを通してくれ。

 「そ、そんなことはないですよ?」

 そこははっきりと言わせてくれないのがお嬢様モード。やはり使えないかもしれない。

 「そうか?じゃあお大事に」

 やっと道を開けてくれた。背を低くして早足で教室を出る。視線を合わせないようにしないと。

 「

 私の背後で天敵が呟いた。そしてビクッと反応して止まる私の体。反射とは恐ろしい。

 「やっぱそうなんじゃないか。今朝も隠してるみたいだったし、なんか理由があんの?」

 核心をついてくる奴だなぁー。どうする?どう答えるのが正解なの?

 「いや、言いたくないならいいんだ。俺も隠したいことくらいあるからな」

 黙ってたら許してくれた。助かったのか?いやでも気を引き締めないと。まだ後ろは振り向けない。
 
 「でも好きなものを隠してるのは辛いだろ?」

 何を分かったような口を聞いてくるんだこの男は。私は沈黙を続ける。

 「そんなに怯えるなって。誰にも言ったりしないよ。俺はそこまで嫌な奴じゃない」

 いやいや、今朝の鋭すぎる視線は嫌がらせとしか言いようがなかったが?
 私はまだ沈黙を続ける。

 「でも俺だったら好きな物の話できないのは嫌だからさ」

 だからなんなんだ?勝手に価値観を押し付けてくるんじゃない。
 お嬢様モードよ、私を助けて。

 「だから話したくなったらいつでも話し相手になってなるぜ?」

 え?どう言う提案?てかなんで上から目線?また更に私の乏しい脳みそを刺激してくるな。本当に天敵だ。さっさと逃げないと。

 「ど、どうも……」

 私は軽く会釈してから教室を離れた。あんな返事でよかったのか?て言うか「どうも」って肯定的に捉えられないよね? 

 はぁー。ため息が出る。もうすぐ岡本さんに会えるや……
 でも本当にお嬢様モードさん。もうちょっと真面目に仕事してください。
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