儚い命の灯

なな

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日常の崩壊

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第1章:日常の崩壊

梨奈は静かな朝を迎えた。窓の外から聞こえる鳥のさえずりが、いつも通りの一日を予感させる。17歳の高校生として、何の変哲もない日常がそこにあった。母がキッチンで朝食を作り、父は新聞を広げながらコーヒーを飲んでいる。リビングには、そんな穏やかな空気が流れていた。

「梨奈、早くしないと学校に遅れるわよ!」

母の声が階下から響き、梨奈は慌てて布団を跳ね除けた。まだ眠気が残る体を引きずりながら、鏡の前に立つ。昨日の疲れが少し残っているが、それでもいつも通りの顔がそこにあった。

「今日も普通に過ごせるよね…」

梨奈は自分にそう言い聞かせ、制服に袖を通す。学校は好きでも嫌いでもなかったが、友人たちと過ごす時間は何よりも楽しかった。特に、幼なじみの翔太と一緒にいるときは、時間があっという間に過ぎていく。

学校に到着すると、いつものように翔太が校門の前で待っていた。身長が少し高くなった翔太は、昔と比べて大人びた印象を受けるが、彼の優しい笑顔は変わらなかった。

「おはよう、梨奈。」

「おはよう、翔太!今日も早いね。」

「うん、今日は少し早起きできたからさ。行こうか。」

二人は並んで校舎へ向かう。教室に入ると、クラスメートたちが元気に挨拶をしてくれた。梨奈はその声に応じながら、自分の席に着く。

一見、何の変わりのない日常だった。
けれど、その日から梨奈の体に異変が現れ始めるのだった。

午前中の授業が進むにつれ、梨奈はふと、体がだるいことに気がついた。集中しようとしても、頭がぼんやりと重く感じ、手元のノートに何度も視線を落としては、次第にその文字がかすんでいく。

「なんだろう、ただの疲れかな…」

少し寝不足だったことを思い出し、梨奈は自分を納得させる。だが、午後の授業が始まる頃には、ますます体の異変が大きくなっていた。胸の奥にかすかな痛みを感じ、呼吸が浅くなる。教室のざわめきが遠くに感じられ、目の前が暗くなり始めた。

「梨奈、大丈夫?」

隣に座っていた翔太が、心配そうに声をかける。梨奈は無理やり笑顔を作り、気にしないでと手を振ったが、体は言うことを聞かなかった。次の瞬間、視界が完全に暗くなり、机に伏せてしまった。


---

目が覚めると、梨奈は保健室のベッドに横たわっていた。白い天井が目に入り、しばらくの間、自分がどこにいるのかがわからなかった。やがて、保健の先生の声が聞こえてくる。

「大丈夫?少し貧血みたいね。でも、念のために病院に行って検査してもらったほうがいいわ。」

翔太が心配そうに梨奈を見つめていた。保健室に駆けつけてくれたのだろう。梨奈はふわっとした意識の中で、彼の顔を見上げた。

「ごめんね、心配かけちゃって。」

「何言ってるんだよ。しっかり休まないと、また倒れるぞ。」

翔太のその言葉に少し安心しながらも、梨奈の胸の中には不安が広がっていく。たしかに体調が悪い日はあったが、こんなふうに倒れることは今まで一度もなかった。

家に帰ると、母がすぐに病院の予約を取ってくれた。次の日、梨奈は学校を休んで精密検査を受けることになった。


---

第2章:受け入れられない現実

病院の白い廊下を歩くと、心の中が不安でいっぱいになった。梨奈はまだ、「ただの疲れだ」と思い込もうとしていたが、どこかで違うと感じていた。

「こんなはずじゃない…ただの風邪とか、そんなことだよね?」

検査が終わり、診察室に呼ばれるまでの時間が長く感じられた。母も少し緊張している様子で、何度も腕時計を確認していた。

やがて、担当医が静かに口を開いた。

「梨奈さん、検査の結果ですが…」

その言葉に梨奈は息をのんだ。医師の表情から、ただの風邪ではないことが伝わってきた。

「結果として、あなたは非常に稀な病気にかかっていることがわかりました。具体的には、遺伝的要因で発症する自己免疫疾患の一種で、現在の医学では完治が難しい病気です。」

医師の説明が続くが、梨奈の頭の中は真っ白になった。余命についても話が続いたが、言葉がどんどん遠くなり、音が消えていくような感覚だった。

「余命…半年…」

その言葉が耳に届いた瞬間、梨奈は現実感を失った。



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