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亡国の残光
脱獄の行方 その3
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「へ? まともな方法で出られないって……どういう意味だ?」
ミトラの突然の言葉が理解できず、勇男は目を瞬かせて聞き返した。
「正確にどういう意味かは妾も答えられない。ただ……」
ミトラは再び、格子窓の向こうにある星空を見た。
「星の巡りが、あなたたちの少し先の運命を示している。このまま待っても牢屋からは出られない、と」
「それ、聞き捨てならないな」
腹を擦りながら話を聞いていたエーラは、立ち上がると足早にミトラの前まで歩み寄った。
「ミトラ、念のために聞くけど、最初にあたしたちが交わした約束、ちゃんと憶えてるよな?」
「無論。妾の脱獄を手助けしてくれる代わりに、あなたたちの無事を保障する、と」
「結構。だけどな、もし脱獄用の穴が監獄の警備兵たちにバレた時、お前は連中をどう丸め込むつもりなんだ?」
「……」
エーラの問いに、ミトラは真顔のまま答えず、勇男は驚きの表情で固まり、ビーは何が起きているのか解らず右往左往している。
「『ただの囚人』のお前がどう言ったところで、警備兵はあたしたちが無関係だなんて信じてくれるわけないだろ。一週間以上も同じ牢屋にいて、気付かないわけがないんだからな」
「……」
「あたしたちは二週間前後我慢してれば大手を振って外に出られる身なんだよ。ただお前の脱獄とかち合って、それがバレるとマズいから協力していたんだ。なのにここに来て『まともに出られないかもしれない』っていうのは、どういう了見なんだ? いよいよ話がおかしくなってきてるだろ」
「……」
ミトラはまだ答えないが、エーラの問いに気まずそうにはしていない。
だが、それが却ってエーラの精神を逆撫でしたらしい。
エーラはミトラの襟首を掴もうとしたが、寸でのところで手を止め、ミトラの肩に手を置いた。
「なぁミトラ、あたしもお前が悪人じゃないのは分かってる。何で監獄にいるのかは知らないが、罪人じゃないのも判ってる。けどな―――」
ミトラの肩を掴む手に、エーラは少し力を込めた。
「―――何かを隠してるってのも分かってるんだ。お前、いったい誰なんだ? 本当は何が目的で、何を知ってるっていうんだ?」
エーラらしからぬ、震える声でそう問うた。
しかし、相手を信じきれない気持ちと、疑いたくない気持ちが葛藤するエーラの目を、ミトラは一切視線を外すことなく見続けている。
しばらくの間、沈黙が続いた後、ミトラが口を開こうとしたのと、勇男の右手が動こうとしたのは同時だった。
が、どちらも途中でその行動を止めてしまった。
廊下の突き当たりの階段を、誰かが上がってくる足音が聞こえたからだ。
「―――来た。エーラ、イサオ、ビー、申し訳ないんだけど、少しの間、階下の牢屋に行ってて」
ミトラはエーラを振り払うと、階下に繋がる石畳の元へ行き、その石畳を持ち上げた。
「行っててって言われても……ここにオレたちがいないって知られたらマズいんじゃ―――」
「今回は大丈夫だから。早く」
小声ではあったが、ミトラの声色から何か深刻なものを感じ、勇男とビーは急いで階下へ通じる穴に飛び込んだ。
「エーラ、必ず事情は説明する。今だけは妾を信じてほしい」
「……」
エーラは特に返答しなかったが、ミトラの目が嘘を言っていないと判断したので、勇男たちに続いて穴に入った。
三人が階下に着地したのを確認し、ミトラは再び石畳を置いて穴を塞いだ。
「……来る頃だと思っていましたよ」
牢屋の前で足を止めた人物に、ミトラはそう言いながら振り向いた。
ミトラの突然の言葉が理解できず、勇男は目を瞬かせて聞き返した。
「正確にどういう意味かは妾も答えられない。ただ……」
ミトラは再び、格子窓の向こうにある星空を見た。
「星の巡りが、あなたたちの少し先の運命を示している。このまま待っても牢屋からは出られない、と」
「それ、聞き捨てならないな」
腹を擦りながら話を聞いていたエーラは、立ち上がると足早にミトラの前まで歩み寄った。
「ミトラ、念のために聞くけど、最初にあたしたちが交わした約束、ちゃんと憶えてるよな?」
「無論。妾の脱獄を手助けしてくれる代わりに、あなたたちの無事を保障する、と」
「結構。だけどな、もし脱獄用の穴が監獄の警備兵たちにバレた時、お前は連中をどう丸め込むつもりなんだ?」
「……」
エーラの問いに、ミトラは真顔のまま答えず、勇男は驚きの表情で固まり、ビーは何が起きているのか解らず右往左往している。
「『ただの囚人』のお前がどう言ったところで、警備兵はあたしたちが無関係だなんて信じてくれるわけないだろ。一週間以上も同じ牢屋にいて、気付かないわけがないんだからな」
「……」
「あたしたちは二週間前後我慢してれば大手を振って外に出られる身なんだよ。ただお前の脱獄とかち合って、それがバレるとマズいから協力していたんだ。なのにここに来て『まともに出られないかもしれない』っていうのは、どういう了見なんだ? いよいよ話がおかしくなってきてるだろ」
「……」
ミトラはまだ答えないが、エーラの問いに気まずそうにはしていない。
だが、それが却ってエーラの精神を逆撫でしたらしい。
エーラはミトラの襟首を掴もうとしたが、寸でのところで手を止め、ミトラの肩に手を置いた。
「なぁミトラ、あたしもお前が悪人じゃないのは分かってる。何で監獄にいるのかは知らないが、罪人じゃないのも判ってる。けどな―――」
ミトラの肩を掴む手に、エーラは少し力を込めた。
「―――何かを隠してるってのも分かってるんだ。お前、いったい誰なんだ? 本当は何が目的で、何を知ってるっていうんだ?」
エーラらしからぬ、震える声でそう問うた。
しかし、相手を信じきれない気持ちと、疑いたくない気持ちが葛藤するエーラの目を、ミトラは一切視線を外すことなく見続けている。
しばらくの間、沈黙が続いた後、ミトラが口を開こうとしたのと、勇男の右手が動こうとしたのは同時だった。
が、どちらも途中でその行動を止めてしまった。
廊下の突き当たりの階段を、誰かが上がってくる足音が聞こえたからだ。
「―――来た。エーラ、イサオ、ビー、申し訳ないんだけど、少しの間、階下の牢屋に行ってて」
ミトラはエーラを振り払うと、階下に繋がる石畳の元へ行き、その石畳を持ち上げた。
「行っててって言われても……ここにオレたちがいないって知られたらマズいんじゃ―――」
「今回は大丈夫だから。早く」
小声ではあったが、ミトラの声色から何か深刻なものを感じ、勇男とビーは急いで階下へ通じる穴に飛び込んだ。
「エーラ、必ず事情は説明する。今だけは妾を信じてほしい」
「……」
エーラは特に返答しなかったが、ミトラの目が嘘を言っていないと判断したので、勇男たちに続いて穴に入った。
三人が階下に着地したのを確認し、ミトラは再び石畳を置いて穴を塞いだ。
「……来る頃だと思っていましたよ」
牢屋の前で足を止めた人物に、ミトラはそう言いながら振り向いた。
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