95 / 120
亡国の残光
脱獄計画 その5
しおりを挟む
そうして、勇男たちとミトラが出会ってから三日後、修正された計画に則た作業が進められていた。
本来、ミトラが単独で脱獄用の地下道を掘り、勇男たちが見廻りの兵士が来ないか見張って知らせる、というものだった。
しかし、ビーの予想外の器用さが発覚したので、ミトラは分担を大幅に変更した。
まずメインでの掘削はビーが行うことになった。
ビー自身、ウルク国にいた頃から野良仕事をはじめ、建築作業までもこなした経験があった。それも積み重ねた年数が尋常ではない。
ミトラが作業するよりも遥かに効率的だった。
そしてサブにはエーラが入ることになった。
ビーには流石に敵わないが、エーラも英雄ヘラクレスの血を引くだけあり、優れた膂力を持っていた。
ビーが掘削した土を、地下道の壁や天井に鏝を使って圧着、補強する役割を担う。
見廻りの兵士に対する見張りは、勇男一人が任されることになった。
ミトラは勇男とエーラの中継役兼作業の進捗状況を監督する立ち位置に移行した。
勇男が兵士の接近を感知すると、ミトラの元に伸ばした縄―――ミトラが長年かけて自分の髪の毛を使って編んだ物―――を引いて知らせる。
さらにミトラからエーラの元に伸ばした縄で、さらにエーラからビーに伸ばした縄で順繰りに知らせ、素早く上階の牢屋に戻る。
あとは兵士が去るまで他愛のない話でもして、脱獄など毛ほども考えていない、人畜無害な模範囚を演じるという寸法だ。
修正された計画では、これらが一連の流れとなっていた。
「見廻りの人、行っちゃった?」
「ああ、行ったみたいだな」
ビーと勇男は牢屋の格子から、兵士が曲がり角の向こうへ姿を消したことを確認した。
「むふふ、こういうのってワクワクするね」
「ビー、オレたち結構際どい立場にいること忘れないでくれよ。もし脱獄がバレたら即極刑なんだから」
「そうなった時は、妾が全力で弁明してあなたたちのことを守るわ」
一緒になって廊下の様子を窺っていたミトラが、勇男たちの後ろからそう言った。
「ミトラ……」
「巻き込んだのは重々承知しているわ。だからもし、脱獄が露見してしまった場合は、妾が裁判で持てる全ての弁論で抗する。だから安心してくれていいわ」
(裁判にかかることなく即行で首刎ね飛ばされなきゃいいが)
ミトラは自信満々に語るが、できれば何事もなく釈放されるようにと、密かに心の中で祈る勇男だった。
「ビー、今の地点から6キュビットほど掘り進めてから、左方向に直角に折れてくれるかしら?」
「大丈夫だけど、どして?」
「ここまで予想以上に進み具合が良いから、あなたたちにちょっとしたお礼をしようと思って」
相変わらず顔は髪で隠れて見えないが、勇男たちも少し慣れてきたので、ミトラが笑みを浮かべているのが判った。
脱獄という全く褒められたことではない行いに協力しているわけだが、こうなってくるとある種の連帯感のようなものが芽生えつつあった。
ただ、その中でエーラだけが、わずかにミトラを探るような目で見ていた。
本来、ミトラが単独で脱獄用の地下道を掘り、勇男たちが見廻りの兵士が来ないか見張って知らせる、というものだった。
しかし、ビーの予想外の器用さが発覚したので、ミトラは分担を大幅に変更した。
まずメインでの掘削はビーが行うことになった。
ビー自身、ウルク国にいた頃から野良仕事をはじめ、建築作業までもこなした経験があった。それも積み重ねた年数が尋常ではない。
ミトラが作業するよりも遥かに効率的だった。
そしてサブにはエーラが入ることになった。
ビーには流石に敵わないが、エーラも英雄ヘラクレスの血を引くだけあり、優れた膂力を持っていた。
ビーが掘削した土を、地下道の壁や天井に鏝を使って圧着、補強する役割を担う。
見廻りの兵士に対する見張りは、勇男一人が任されることになった。
ミトラは勇男とエーラの中継役兼作業の進捗状況を監督する立ち位置に移行した。
勇男が兵士の接近を感知すると、ミトラの元に伸ばした縄―――ミトラが長年かけて自分の髪の毛を使って編んだ物―――を引いて知らせる。
さらにミトラからエーラの元に伸ばした縄で、さらにエーラからビーに伸ばした縄で順繰りに知らせ、素早く上階の牢屋に戻る。
あとは兵士が去るまで他愛のない話でもして、脱獄など毛ほども考えていない、人畜無害な模範囚を演じるという寸法だ。
修正された計画では、これらが一連の流れとなっていた。
「見廻りの人、行っちゃった?」
「ああ、行ったみたいだな」
ビーと勇男は牢屋の格子から、兵士が曲がり角の向こうへ姿を消したことを確認した。
「むふふ、こういうのってワクワクするね」
「ビー、オレたち結構際どい立場にいること忘れないでくれよ。もし脱獄がバレたら即極刑なんだから」
「そうなった時は、妾が全力で弁明してあなたたちのことを守るわ」
一緒になって廊下の様子を窺っていたミトラが、勇男たちの後ろからそう言った。
「ミトラ……」
「巻き込んだのは重々承知しているわ。だからもし、脱獄が露見してしまった場合は、妾が裁判で持てる全ての弁論で抗する。だから安心してくれていいわ」
(裁判にかかることなく即行で首刎ね飛ばされなきゃいいが)
ミトラは自信満々に語るが、できれば何事もなく釈放されるようにと、密かに心の中で祈る勇男だった。
「ビー、今の地点から6キュビットほど掘り進めてから、左方向に直角に折れてくれるかしら?」
「大丈夫だけど、どして?」
「ここまで予想以上に進み具合が良いから、あなたたちにちょっとしたお礼をしようと思って」
相変わらず顔は髪で隠れて見えないが、勇男たちも少し慣れてきたので、ミトラが笑みを浮かべているのが判った。
脱獄という全く褒められたことではない行いに協力しているわけだが、こうなってくるとある種の連帯感のようなものが芽生えつつあった。
ただ、その中でエーラだけが、わずかにミトラを探るような目で見ていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる