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レバノン杉騒動
外交問題 その2
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「んぐ……んぐ……ぷはぁ! やはり麦酒は美味い。呷ればまさに冥界から生還した気分になれる」
陶製のジョッキになみなみと注がれた麦酒を飲み干したハトゥアは、心地良さげに大きく息を吐いた。
飲み屋でハトゥアと偶然にも再会した勇男たちは、せっかくなので席をともにすることにしたのだった。
「イサオ殿、エーラ殿。ここの払いは私が持つゆえ、好きな品を頼んでくれていい。今なら魚料理も旬であるな。ビーも――――――ビーは眠ってしまったのだな」
発酵したイチジクを食べてしまっていたビーは、しばらく酔っ払った後、勇男の膝の上ですやすやと寝てしまっていた。
「ビーにも好きなものを飲み食いしてほしかったのだが、仕方がない。またの機会をもうけるとしよう。店主、麦酒の替えを頼めるか?」
眠っているビーを見て少し残念そうなハトゥアだったが、気を取り直して麦酒のおかわりを注文した。
「それにしてもビーが酔っ払ってたとは。酒癖が悪い方じゃなくて助かったぜ。ビーの怪力で暴れられたら誰も止められないだろうからな」
「そうなったらあたしでも敵わないな」
ビーの寝顔を見て安心した風の勇男に、エーラもジョッキを傾けながら相槌を打った。
「酔ったビーは普段の力が出せなくなってしまうようなのだ。私もビーにレスリングで勝てたのは、ビーが酔っていた時だけだった」
「ンなことあったのか!?」
「ああ。偶々おやつに食べた果物の一つが発酵していて、それをビーが食べて酔ってしまった時が何度かあった。今となっては懐かしい思い出だ」
ハトゥアは遠い目をしながら、新たに運ばれてきた麦酒のジョッキを呷った。
「ハトゥアさんはビーの幼なじみって感じだな。ビーもハトゥアさんとの接し方が他とはちょっと違うっていうか、友達感覚っていうか」
「幼なじみ、友達、か」
勇男の言葉を聞いたハトゥアは、ゆっくりとジョッキをテーブルの上に置いた。
「何も知らずに、ただの幼なじみで、友達であれたならと、幾度も思うよ。今さら虫のいい話ではあるが。ビーはこんな小さな体で、小グガルアンナをウルク国から遠ざけ、それを狩り、ウルク国に塁が及ばぬようにと、二千年を超えてなお力を尽くしてくれている。ビーを追放同然の扱いにしたのは、私たちの先祖であったというのに」
ハトゥアはもの悲しげな目を向けながら、ビーの前髪を指先で触れる程度に撫
でた。
「本当に幼なじみであり、友達であったら、もっとビーに寄り添い、力になってやれたはずだった。私には、その資格が最初からなかったよ」
ビーの前髪を撫でていた指が、名残惜しそうに離れていく。その様子が、なぜかハトゥアの言葉に重なるように、勇男には思えていた。
「ハトゥアさん?」
「いや失敬。酔ってうっかり愚痴をこぼしてしまったな。ビーに対する思いはウルクの民なら少なからず誰しも持っている。そこに依らずビーの友になってくれた二人には感謝しているということだ」
再び明るさを取り戻したハトゥアは、その感謝を意を伝えるように二人にニッコリと微笑微笑んだ。
「先程も言った通り、ここの払いは私持ちだ。ささ、二人とも遠慮せずに」
「じゃあ遠慮せずに聞きたいんだが」
話を切り出したのは、ジョッキに残っていた葡萄ジュースを飲み干したエーラだった。
「さっき言ってた『あまり精鋭を引き抜けない』ってのは何の話なんだ?」
それを聞いたハトゥアの顔は一瞬だけ強張った。
「あんた武官だったよな? 何かオモシロそうなことあるなら協力するぞ?」
ハトゥアの言葉から『何か』を感じ取っていたエーラは、期待感から口元を吊り上げた。
そしてまだ話に加わっていなかった勇男もまた、誰に気付かれることなく目を光らせた。
陶製のジョッキになみなみと注がれた麦酒を飲み干したハトゥアは、心地良さげに大きく息を吐いた。
飲み屋でハトゥアと偶然にも再会した勇男たちは、せっかくなので席をともにすることにしたのだった。
「イサオ殿、エーラ殿。ここの払いは私が持つゆえ、好きな品を頼んでくれていい。今なら魚料理も旬であるな。ビーも――――――ビーは眠ってしまったのだな」
発酵したイチジクを食べてしまっていたビーは、しばらく酔っ払った後、勇男の膝の上ですやすやと寝てしまっていた。
「ビーにも好きなものを飲み食いしてほしかったのだが、仕方がない。またの機会をもうけるとしよう。店主、麦酒の替えを頼めるか?」
眠っているビーを見て少し残念そうなハトゥアだったが、気を取り直して麦酒のおかわりを注文した。
「それにしてもビーが酔っ払ってたとは。酒癖が悪い方じゃなくて助かったぜ。ビーの怪力で暴れられたら誰も止められないだろうからな」
「そうなったらあたしでも敵わないな」
ビーの寝顔を見て安心した風の勇男に、エーラもジョッキを傾けながら相槌を打った。
「酔ったビーは普段の力が出せなくなってしまうようなのだ。私もビーにレスリングで勝てたのは、ビーが酔っていた時だけだった」
「ンなことあったのか!?」
「ああ。偶々おやつに食べた果物の一つが発酵していて、それをビーが食べて酔ってしまった時が何度かあった。今となっては懐かしい思い出だ」
ハトゥアは遠い目をしながら、新たに運ばれてきた麦酒のジョッキを呷った。
「ハトゥアさんはビーの幼なじみって感じだな。ビーもハトゥアさんとの接し方が他とはちょっと違うっていうか、友達感覚っていうか」
「幼なじみ、友達、か」
勇男の言葉を聞いたハトゥアは、ゆっくりとジョッキをテーブルの上に置いた。
「何も知らずに、ただの幼なじみで、友達であれたならと、幾度も思うよ。今さら虫のいい話ではあるが。ビーはこんな小さな体で、小グガルアンナをウルク国から遠ざけ、それを狩り、ウルク国に塁が及ばぬようにと、二千年を超えてなお力を尽くしてくれている。ビーを追放同然の扱いにしたのは、私たちの先祖であったというのに」
ハトゥアはもの悲しげな目を向けながら、ビーの前髪を指先で触れる程度に撫
でた。
「本当に幼なじみであり、友達であったら、もっとビーに寄り添い、力になってやれたはずだった。私には、その資格が最初からなかったよ」
ビーの前髪を撫でていた指が、名残惜しそうに離れていく。その様子が、なぜかハトゥアの言葉に重なるように、勇男には思えていた。
「ハトゥアさん?」
「いや失敬。酔ってうっかり愚痴をこぼしてしまったな。ビーに対する思いはウルクの民なら少なからず誰しも持っている。そこに依らずビーの友になってくれた二人には感謝しているということだ」
再び明るさを取り戻したハトゥアは、その感謝を意を伝えるように二人にニッコリと微笑微笑んだ。
「先程も言った通り、ここの払いは私持ちだ。ささ、二人とも遠慮せずに」
「じゃあ遠慮せずに聞きたいんだが」
話を切り出したのは、ジョッキに残っていた葡萄ジュースを飲み干したエーラだった。
「さっき言ってた『あまり精鋭を引き抜けない』ってのは何の話なんだ?」
それを聞いたハトゥアの顔は一瞬だけ強張った。
「あんた武官だったよな? 何かオモシロそうなことあるなら協力するぞ?」
ハトゥアの言葉から『何か』を感じ取っていたエーラは、期待感から口元を吊り上げた。
そしてまだ話に加わっていなかった勇男もまた、誰に気付かれることなく目を光らせた。
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