44 / 120
レバノン杉騒動
外交問題 その1
しおりを挟む
聖塔の頂上で『供物の儀』を終えた勇男たちは、その足でウルクの飲み屋街に向かった。
またシャマーナが何か呼び止めようとしていたが、『いま行ったらイイ席が取れるから』とビーが急かすので、早々に聖塔を後にしたのだった。
ビーの言っていた通り、確かに店のちょうどいいテーブル席を確保できたのだが、
「ふひゃ~~~」
なぜかビーは自分の席に座らず、勇男の膝の上に座って脱力していた。
「ど、どうしたんだ? ビー」
明らかにいつもの様子と違うビーに困惑する勇男。
「イサオ~」
勇男の胸板を背もたれにしていたビーが、勇男の顔をトロンとした目で見上げた。
「イチジク食べさせて~」
「へ? 何で?」
「食~べ~さ~せ~て~」
「わ、分かった分かった」
ビーが膝に座ったまま手足をバラつかせてくるので、勇男はテーブルの真ん中に置かれたイチジクの皿から一個取り、
「ほら、ビー」
ビーの口元に持ってきた。
「はぷっ」
ビーは差し出されたイチジクを一口で食べたが、
「ちゅう……ちゅぱ……」
イチジクを口に入れた後も、イチジクを持っていた勇男の指をしゃぶっていた。
「ビ、ビー?」
「次はジュース飲みたい~」
一通り勇男の指を舐めたビーは、次にテーブルに置いてあった陶製のカップを指差した。
「は~や~く~」
「お、おう……」
訳がわからないまま、勇男はビーが元々座っていた場所に置いてあったカップに手を伸ばし、飲み口をビーの顔の前まで持っていった。
「ほら、ビー。飲めるか?」
「飲~ま~せ~て~」
飲み口に唇を付けたビーがせがむので、勇男はカップをゆっくりと傾けてやった。
「んく……んく…んく……ぷっひゃ~!」
カップの中身を全て飲み干したビーは、満足そうに大きく息を吐いた。
「イサオやさし~」
上機嫌で笑みを浮かべ、勇男の胸板に後頭部で擦るビー。
「い、一体どうしたんだ? ビー」
ビーは容姿と言動こそ子どもっぽいが、割としっかりしたタイプだと勇男は見ていた。
だが、さっきからの態度はどうにもこれまでのビーとは違う。
見た目相応の子どものようになってしまったビーに、勇男が困惑していると、
「発酵してないか? コレ」
同じテーブル席に座っていたエーラが、咀嚼しながらイチジクを一個摘んでみせた。
「は、発酵!?」
「イチジクの盛り合わせに発酵したヤツが混じってたみたいだな」
「つ、つまり、いまのビーは―――」
「酔っ払ってる」
「イサオやさしいから好き~」
意外な真相が明らかになった勇男は、今度は胸板に頬擦りしているビーを、ちょっと呆れた顔で見下ろした。
よく見れば確かに顔が赤いし、言われれば酔っ払った人間の様子そのままだった。
ただ、意外というか、自然というか、酔っ払ったビーはこういう風になることを、勇男は少し安心した気持ちになっていた。
思えばビーは幼い頃にウルク国の外で暮らすことを余儀なくされて、そこから若返りの霊草を食べて二千年以上を過ごしてきたのだ。
あまり子どもとして誰かに甘えられる機会がなかったのなら、今こうして酔っ払っている間だけでも、子どもとして振舞えるならビーにとって良いことかもしれないと感じられた。
「よっし! ビー! 次は何にする? パンにするか? それとも豆スープにするか?」
「やった~! やっぱりイサオやさし~!」
「お前も酔ってんのか? イサオ」
賑やかさが増した二人を横目に、エーラはイチジクを一個口に含んだ。
「う~む、あまり精鋭を引き抜くわけにもいかぬか……」
「ん?」
イチジクを咀嚼していたエーラの後ろを、聞き覚えのある声が通りかかった。それもつい最近どころか、ついさっき聞いた声が。
「店主、麦酒をもらえるか?」
「ん~?」
品物を注文するその人物を、エーラは振り返って確認した。
「あっ。あんたはさっきの」
「ぬっ!? エーラ殿!?」
エーラの声に振り向いたのは、ウルク国の武官、ハトゥアだった。
またシャマーナが何か呼び止めようとしていたが、『いま行ったらイイ席が取れるから』とビーが急かすので、早々に聖塔を後にしたのだった。
ビーの言っていた通り、確かに店のちょうどいいテーブル席を確保できたのだが、
「ふひゃ~~~」
なぜかビーは自分の席に座らず、勇男の膝の上に座って脱力していた。
「ど、どうしたんだ? ビー」
明らかにいつもの様子と違うビーに困惑する勇男。
「イサオ~」
勇男の胸板を背もたれにしていたビーが、勇男の顔をトロンとした目で見上げた。
「イチジク食べさせて~」
「へ? 何で?」
「食~べ~さ~せ~て~」
「わ、分かった分かった」
ビーが膝に座ったまま手足をバラつかせてくるので、勇男はテーブルの真ん中に置かれたイチジクの皿から一個取り、
「ほら、ビー」
ビーの口元に持ってきた。
「はぷっ」
ビーは差し出されたイチジクを一口で食べたが、
「ちゅう……ちゅぱ……」
イチジクを口に入れた後も、イチジクを持っていた勇男の指をしゃぶっていた。
「ビ、ビー?」
「次はジュース飲みたい~」
一通り勇男の指を舐めたビーは、次にテーブルに置いてあった陶製のカップを指差した。
「は~や~く~」
「お、おう……」
訳がわからないまま、勇男はビーが元々座っていた場所に置いてあったカップに手を伸ばし、飲み口をビーの顔の前まで持っていった。
「ほら、ビー。飲めるか?」
「飲~ま~せ~て~」
飲み口に唇を付けたビーがせがむので、勇男はカップをゆっくりと傾けてやった。
「んく……んく…んく……ぷっひゃ~!」
カップの中身を全て飲み干したビーは、満足そうに大きく息を吐いた。
「イサオやさし~」
上機嫌で笑みを浮かべ、勇男の胸板に後頭部で擦るビー。
「い、一体どうしたんだ? ビー」
ビーは容姿と言動こそ子どもっぽいが、割としっかりしたタイプだと勇男は見ていた。
だが、さっきからの態度はどうにもこれまでのビーとは違う。
見た目相応の子どものようになってしまったビーに、勇男が困惑していると、
「発酵してないか? コレ」
同じテーブル席に座っていたエーラが、咀嚼しながらイチジクを一個摘んでみせた。
「は、発酵!?」
「イチジクの盛り合わせに発酵したヤツが混じってたみたいだな」
「つ、つまり、いまのビーは―――」
「酔っ払ってる」
「イサオやさしいから好き~」
意外な真相が明らかになった勇男は、今度は胸板に頬擦りしているビーを、ちょっと呆れた顔で見下ろした。
よく見れば確かに顔が赤いし、言われれば酔っ払った人間の様子そのままだった。
ただ、意外というか、自然というか、酔っ払ったビーはこういう風になることを、勇男は少し安心した気持ちになっていた。
思えばビーは幼い頃にウルク国の外で暮らすことを余儀なくされて、そこから若返りの霊草を食べて二千年以上を過ごしてきたのだ。
あまり子どもとして誰かに甘えられる機会がなかったのなら、今こうして酔っ払っている間だけでも、子どもとして振舞えるならビーにとって良いことかもしれないと感じられた。
「よっし! ビー! 次は何にする? パンにするか? それとも豆スープにするか?」
「やった~! やっぱりイサオやさし~!」
「お前も酔ってんのか? イサオ」
賑やかさが増した二人を横目に、エーラはイチジクを一個口に含んだ。
「う~む、あまり精鋭を引き抜くわけにもいかぬか……」
「ん?」
イチジクを咀嚼していたエーラの後ろを、聞き覚えのある声が通りかかった。それもつい最近どころか、ついさっき聞いた声が。
「店主、麦酒をもらえるか?」
「ん~?」
品物を注文するその人物を、エーラは振り返って確認した。
「あっ。あんたはさっきの」
「ぬっ!? エーラ殿!?」
エーラの声に振り向いたのは、ウルク国の武官、ハトゥアだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる