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レバノン杉騒動

外交問題 その1

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 聖塔エ・ウ・ニルの頂上で『供物の儀』を終えた勇男いさおたちは、その足でウルクの飲み屋街に向かった。
 またシャマーナが何か呼び止めようとしていたが、『いま行ったらイイ席が取れるから』とビーがかすので、早々に聖塔を後にしたのだった。
 ビーの言っていた通り、確かに店のちょうどいいテーブル席を確保できたのだが、
「ふひゃ~~~」
 なぜかビーは自分の席に座らず、勇男のひざの上に座って脱力していた。
「ど、どうしたんだ? ビー」
 明らかにいつもの様子と違うビーに困惑する勇男。
「イサオ~」
 勇男の胸板を背もたれにしていたビーが、勇男の顔をトロンとした目で見上げた。
「イチジク食べさせて~」
「へ? 何で?」
「食~べ~さ~せ~て~」
「わ、分かった分かった」
 ビーが膝に座ったまま手足をバラつかせてくるので、勇男はテーブルの真ん中に置かれたイチジクの皿から一個取り、
「ほら、ビー」
 ビーの口元に持ってきた。
「はぷっ」
 ビーは差し出されたイチジクを一口で食べたが、
「ちゅう……ちゅぱ……」
 イチジクを口に入れた後も、イチジクを持っていた勇男の指をしゃぶっていた。
「ビ、ビー?」
「次はジュース飲みたい~」
 一通り勇男の指をめたビーは、次にテーブルに置いてあった陶製のカップを指差した。
「は~や~く~」
「お、おう……」
 訳がわからないまま、勇男はビーが元々座っていた場所に置いてあったカップに手を伸ばし、飲み口をビーの顔の前まで持っていった。
「ほら、ビー。飲めるか?」
にょ~ま~しぇ~て~」
 飲み口にくちびるを付けたビーがせがむので、勇男はカップをゆっくりとかたむけてやった。
「んく……んく…んく……ぷっひゃ~!」
 カップの中身を全て飲み干したビーは、満足そうに大きく息を吐いた。
「イサオやさし~」
 上機嫌で笑みを浮かべ、勇男の胸板に後頭部でこするビー。
「い、一体どうしたんだ? ビー」
 ビーは容姿と言動こそ子どもっぽいが、割としっかりしたタイプだと勇男は見ていた。
 だが、さっきからの態度はどうにもこれまでのビーとは違う。
 見た目相応の子どものようになってしまったビーに、勇男が困惑していると、
「発酵してないか? コレ」
 同じテーブル席に座っていたエーラが、咀嚼そしゃくしながらイチジクを一個つまんでみせた。
「は、発酵!?」
「イチジクの盛り合わせに発酵したヤツが混じってたみたいだな」
「つ、つまり、いまのビーは―――」
「酔っ払ってる」
「イサオやさしいから好き~」
 意外な真相が明らかになった勇男は、今度は胸板に頬擦ほおずりしているビーを、ちょっと呆れた顔で見下ろした。
 よく見れば確かに顔が赤いし、言われれば酔っ払った人間の様子そのままだった。
 ただ、意外というか、自然というか、酔っ払ったビーはこういう風・・・・・になることを、勇男は少し安心した気持ちになっていた。
 思えばビーは幼い頃にウルク国の外で暮らすことを余儀なくされて、そこから若返りの霊草を食べて二千年以上を過ごしてきたのだ。
 あまり子どもとして誰かに甘えられる機会がなかったのなら、今こうして酔っ払っている間だけでも、子どもとして振舞えるならビーにとって良いことかもしれないと感じられた。
「よっし! ビー! 次は何にする? パンにするか? それとも豆スープにするか?」
「やった~! やっぱりイサオやさし~!」
「お前も酔ってんのか? イサオ」
 にぎやかさが増した二人を横目に、エーラはイチジクを一個口に含んだ。
「う~む、あまり精鋭を引き抜くわけにもいかぬか……」
「ん?」
 イチジクを咀嚼していたエーラの後ろを、聞き覚えのある声が通りかかった。それもつい最近どころか、ついさっき聞いた声が。
「店主、麦酒ビールをもらえるか?」
「ん~?」
 品物を注文するその人物を、エーラは振り返って確認した。
「あっ。あんたはさっきの」
「ぬっ!? エーラ殿!?」
 エーラの声に振り向いたのは、ウルク国の武官、ハトゥアだった。
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