上 下
39 / 120
レバノン杉騒動

ウルク国の朝 その1

しおりを挟む
「ん~~~! イイ朝だな~」
「んっぐぐ~! ホント、気ぃ持ちいい~」
 家の外に出たエーラとビーは、そろって大きく体を伸ばし、朝の爽やかさを満喫していた。
「イサオも早く出てこいよ~。朝の空気が美味いぞ~」
 エーラは振り返って勇男いさおを呼ぶが、当の勇男は陰からそろっと顔を半分出すだけで、一向に出てこようとしない。
「どうしたんだよ、イサオ? そんな風に物陰にいると体にこけが生えるぞ?」
「だったらせめてコレ着けてくれよ、エーラ!」
 叫びながら勇男は右手に持ったものをエーラに向けて突き出す。エーラが胸に巻いている布(元は服の破片)だった。
 起き抜けにそれが肌蹴はだけて以降、エーラは上半身に何も身に着けていないままだった。
 それも全く隠そうとしないものだから、勇男としてはかなり出て行きづらい状況だった。
「街中でもないし、人目もないからいいだろ?」
「あるだろ! 人目! オレ!」
「って言ったって今さらだろ? もう何度も一緒に風呂入ってる仲だし」
 エーラは勇男の考えがわかりかねると言うように、両手を頭の上に置いて困った顔をした。それが一層色っぽいポージングになってしまったので、ますます勇男は出て行きづらくなった。
「風呂か~。顔だけ洗うより朝風呂に入れたらもっと気持ちイイだろうな~」
 勇男の懊悩おうのうをよそに、エーラは自分で言った風呂という単語に思いを馳せていると、
「冷たいのでいいなら入れるよ~」
 ビーが右手をぱっと上げてそう言った。
「おっ、いけるのか?」
「だいじょ~ぶ~」
 ビーは昨夜、風呂の水を用意するのに使った戸板を持つと、また泉の中心付近まで入っていった。
「とぉえっりゃっ!」
 戸板を振るって大量の水を弾き飛ばすと、湯が抜かれていた風呂に再び水が張られた。
「これで入れる~」
 泉から上がってきたビーは、早速着ているものをぱっぱと脱ぎ始めた。
「ビーと一緒にいると風呂にすぐ入れていいな。イサオ~、朝風呂入れるからお前も出てこいよ~」
「オ、オレは後でいいよ! こ、今度はお湯じゃないから冷めるとかないだろ?」
「皆で一緒に入った方がいいだろ――――――って、ああ、そうか」
 渋っている勇男に声をかけていたエーラは、何かに勘付いて一人で納得していた。
「気にするなよイサオ~。男は朝そうなる・・・・モンなんだろ~」
「ちょっ!?」
 エーラのいきなりの言葉に、勇男は言葉を詰まらせてしまった。思いっきり図星だった。
「知ってるから安心しろ~。大丈夫だ~」
「安心できるかい! むしろ余計に気にするわ!」
 もはや恥ずかしいのか怒っているのかわからなくなった勇男は、真っ赤になった顔だけ出して叫んでいた。
 実際のところ、朝の状態というのもあるが、エーラの格好のせいで治まりがつかないというのもある。
「イサオ、お風呂入んないの?」
 もういつでも風呂に飛び込める準備ができたビーは、不思議そうにしながらエーラの横に並んだ。
「イサオはこーゆートコ、男らしくないよなぁ。よし、ビー。またイサオのヤツいて風呂に放り込むぞ」
「分かったー」
 結局またエーラとビーに身ぐるみがされた勇男は、すっぽんぽんで風呂に投げ込まれ、落ち着かない入浴を過ごすことになってしまったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...