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レバノン杉騒動

女神との取引き その5

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「ビーが一番ビルガメスの力をいでるって……何か特別な理由があるとか?」
「ないわよ。そんなの」
 勇男いさおの質問に、イナンナはまたもあっさりと即答した。
「そこんところは本当に偶然ね。別段、理由や作為はないわ。最後に生まれたビルガメスの子どもが、偶々たまたまビルガメスの力、神としての力を一番強く引き継いじゃっただけの話よ」
「……」
 特に隠された真相や事情もない、あまりにも普通の理由に、勇男は『若返りの霊草』の時とは違う意味で呆気に取られていたが、今度はすぐに正気を取り戻した。
 ビーの事情と、イナンナの事情に違和感を覚えたからだ。
「あれ? それってイナンナ様がしょうグガルアンナを食べ続けてる理由につながらないんじゃ――――――」
 そう言いかけた勇男が顔を上げると、玉座に座ったイナンナは、これまでで一番顔を渋くさせていた。
 それを見れば勇男にも、イナンナにとって最も苦々しい部分に触れているんだろうという感覚があった。
「ビルガメスが……」
「へ?」
「ビルガメスのヤツが……」
「?」
「グガルアンナ殺しちゃったせいでしょうがああああ!」
「うおっ!?」
 おもむろに玉座から立ち上がったイナンナは、空間全体を揺るがすほどの声量で叫び猛った。本当に空間が大きく揺れたので、勇男も驚き、思わず尻餅をついてしまった。
「ハア……ハア……ハア――――――フウ」
 全力で怒りを叫んだイナンナは、肩で息をした後、また玉座に腰を落ち着けた。
「えっと……あの……」
「グガルアンナはビルガメスに殺された。単純に怨みがあるってだけよ」
「へ?」
 いくらか気分が落ち着いたイナンナは、勇男が何かを聞く前にそう呟いた。
「小グガルアンナは、自分を殺したビルガメスに対するグガルアンナの怨みのあらわれ。その具現。だからビルガメスや、それにゆかりのある者を襲うし、それ以外には見向きもしない。そういうことよ」
 イナンナが一転してつまらなそうに語るその理由が、勇男が疑問に思っていた事の全ての真相に繋がっていた。
 なぜ、あれほど純粋で、ウルク国の人々にも慕われているビーが、ウルク国の壁の外で暮らさなければならなかったのか。
「ビルガメスが生きてた頃は、あいつ自身が戦ったり、兵を指揮したり、城壁を作ったりで対処してたけど、死んでからは一番力を強く継いだあのチンチクリンに向かっていくようになったのよね」
 グガルアンナが怨みを持っているのはビルガメスとその血族だけ。ただし、その対象を狙ってくる以上、周りにも確実に被害が及ぶ。街中ならなおさら。
「ビルガメスの他の子どもや、その子孫も、小グガルアンナが狙うほど、ビルガメスの力は引いてなかった。最後に生まれたあのチンチクリンが、偶然にもビルガメスの力を濃く受け継ぎ、同時にグガルアンナの怨みも一番引きつけることになった」
 だから、ウルク国は小グガルアンナの被害を受けないようにするために、
「それだけよ」
 ビーをウルク国の外に追いやったのだ。
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