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レバノン杉騒動

女神との取引き その4

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「若返りの……霊草?」
「そう」
 イナンナは事も無げにそう答えるが、勇男いさおはしばらく言葉の意味がわからずほうけていた。
「…………そんなものあるんですか?」
「あるわよ」
 勇男はようやく頭の中での反芻が終えるも、またもイナンナが事も無げに言ってきたので、再び言葉が出なくなってしまった。
 よくファンタジー物で『若返りの秘薬』といった物が出てきたり、地球の歴史でも若返りや不老不死が求められたことはあったが、勇男の感覚ではそういった物は突飛すぎてピンと来なかった。
 しかし、今まさに異世界で、おまけに女神がその存在を認める発言をしている。
 ならば、それは正真正銘、若返りの霊草であるということだ。
「ふおっふぉおおお☆Δ‡‰♭♯!」
「な、なによ!?」
 雄叫びが途中から意味不明な言葉の羅列になり、イナンナは勇男の異様な雰囲気に少し引いてしまっていた。
「スンゲエ! スンゲエ! そんなのあるんだ! ファンタジーの中のアイテム! やっぱココ異世界だ! スンゲエ!」
「……」
 飛び跳ねながら諸手を上げて喜ぶ勇男を、イナンナはちょっと変なものを見るような目で見ていた。
 別に勇男は若返りにも不老不死にも興味はない。
 だが、実質的な効果は別として、『○○の宝剣』とか『××の妙薬』といった、いわゆるファンタジー世界に出てくるアイテム自体に関して言えば、一定の興味や憧れはあった。
 場違いな遺留品オーパーツなんかも好きなタイプである。
 異世界に飛ばされてきて巨大モンスターの類にはそこそこ遭遇してきたが、地球ではお目にかかれない、本物の魔法のアイテムに行き当たったのは、これが初めてだった。
 ヘラクレスの娘であるエーラに出会った時と同等の衝撃と喜びだった。
「ソレどこにあるんですか!?」
「あなたたちが寝泊りしてる泉の水底よ」
「そんな近くに!?」
「でも言っておくけど、もう『若返りの霊草』じゃなくなってるわよ」
「へ?」
 イナンナの思わぬ言葉に、勇男はようやく我に返った。
「『若返りの霊草』じゃなくなってるって……賞味期限切れとか?」
「ちょっと違うわね。あれって元は海に生えてたものだから、泉の水で育つようになって効能が変わっちゃったのよ」
 そう聞いた勇男は、海水と淡水の違いだろうかと思い浮かべた。
「ビルガメスのヤツが大洪水を生き延びた大賢者ジウスドゥラのところから帰って来る時、あの泉で水浴びしてる間に、持ってきた若返りの霊草を蛇に食べられちゃってね。ビルガメスはそれで不死を諦めて、根だけ残った霊草を泉に捨ててったのよ。けど、そうしたら水底に着いた根から霊草がまた生えてきた。でも海じゃなくて泉で育ったから、効能が変わっちゃったわけ」
「効能が変わったって、どんな風にですか?」
「若返りはしなくなったわね。ただ食べたら一定期間だけ若さを保てるようになったから、効能は落ちてるわ」
(それでも結構スゴいことなんじゃ……)
「ん? じゃあビーはあの年齢としから若さを保つ霊草を食べ続けて、二千年以上も過ごしてきたっていうんですか!?」
「そうよ。だから時を越えてきたって意味なら、見方によってはタイムスリップってことになるわ。そのおかげで私は二千年以上も鉄の味のする肉グガルアンナを食べ続ける羽目になったんだけどね。まったく! 運命の石版の保持者ナブーが介在してないとはいえ、運命の悪戯いたずらを呪いたくなるわよ!」
「あっ、そういえば――――――」
 苦虫を噛み潰したような顔で歯軋りするイナンナに、勇男は一番気になっていたことを聞いてみることにした。
「その二千年間、しょうグガルアンナを食べ続けてるっていう話ですけど、そもそもどうしてビーは二千年以上も小グガルアンナを獲ることになってるんですか?」
「それなら一番簡単な話よ」
 イナンナはさらに苦々しげな顔をすると、明後日あさっての方向を向いて忌々しげに答えた。
「あのチンチクリンが一番ビルガメスの力をいじゃってるからよ」
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