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竜の恩讐編
鬼と姫と女神と・・・ その4
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千春が疾駆すると同時に、祢々切丸が鞘から引き抜かれる。
刀身だけでも2メートルを超える長大な太刀は、通常の方法では抜刀すら覚束ない。
千春が一本ダタラに作らせた複製品には、すぐさま戦闘が開始できるよう、特別な工夫が成されていた。
鞘尻に付けられた金属製の突起を、周囲の物体に突き刺すことで、鞘ひいては刀全体を容易に安定化させる。
あとは敵に対して疾駆するだけで、全長3メートルを超える太刀を難なく引き抜くことができるという仕組みだ。
「ええぃやあああ!」
狂喜に満ちた裂帛の気合とともに、千春は祢々切丸を右薙ぎに振り抜こうとする。
鋭い刀身は山の木々をものともせずに斬り裂きながら、アテナの右脇目がけて迫っていた。
千春の踏み込みも斬撃も、祢々切丸という巨大な得物を持ちながら恐ろしく速い。
その上、千春自身の膂力と祢々切丸の重さ、切れ味が合わさり、通常では考えられない破壊力を発揮している。
そして狙いもまた、千春にとっては有利であり、アテナにとって不利になった。
槍を持つ右側を斬りつけられれば、アテナはまともに防御体勢が取れない。
仮に神盾で防御しようものなら、盾が邪魔になって返し技を放てない。
長大とはいえ一本の得物で戦う千春の方が、その間に一拍速くアテナに攻撃を仕掛けるだろう。
意外なところで神盾が仇になったアテナは、千春の右薙ぎを一歩退いて回避するほかなかった。
念のため神盾を前に構えながら、祢々切丸の間合いから一歩だけ外に出るアテナ。
だが、ほんの数ミリ程度、祢々切丸の切っ先が神盾に触れた。
「!?」
もちろんそれだけでは、神盾もアテナも大した影響など受けない。
ただ、盾を通して伝わったわずかな衝撃から、アテナは理解してしまった。
それを証明するように、アテナたちの周囲を覆っていた霧が、斬撃の余波で悉く吹き飛ばされた。
その事実が、マスクマンの霧を薙ぎ払った衝撃と風圧が、祢々切丸の、さらには千春の斬撃の威力を物語っていた。
そして、それ以上に、アテナは盾から感じ取った衝撃から逆算し、本来命中していた場合の威力を噛み締めていた。
(この者の力、チナツ、ケイザブロウ、クスジロウ、これまで戦ったどのオニよりも――――――――――強い!)
「……くそ! もういい!」
繋鴎は脳内でない交ぜになっていた葛藤を振り払おうように声を荒げた。
「こっちは赤の一族への便宜は充分図った。赤の一族も報復は果たした。文句はないはずだ――――――お前がどう言おうとな」
繋鴎はリズベルを一睨みすると、
「稔丸くん!」
まだ高級車から降りていなかった多珂倉家の当主を呼びつけた。
「はいはーい」
稔丸はやや気だるそうな返事をしながら降車する。手に持ったスマートフォンのGPS機能をONにして。
「え~と、赤の一族のお姫様、だっけ? 悪いんだけど繋鴎さんと一緒にボクの自動車に乗ってくんないかな? 素直に乗ってくれたら嬉しいなぁ。運転手に強引なことさせずに済むから」
なるべく穏便な口調で諭しながら、稔丸は自動車の内部を指し示した。
運転手もまた、事と次第によってはいつでも動くという気配を見せている。
「あとのことは何とかしとく。『ナラカ』の連中もボクが説得しておくから、君は中立国でもどこでも高飛びしちゃって―――」
「そのお話、聞き捨てなりませんね~」
滔々と語っていた稔丸の背後に、獣の眼をしたキュウが音もなく現れた。
(やっぱ、そう来るよね)
刀身だけでも2メートルを超える長大な太刀は、通常の方法では抜刀すら覚束ない。
千春が一本ダタラに作らせた複製品には、すぐさま戦闘が開始できるよう、特別な工夫が成されていた。
鞘尻に付けられた金属製の突起を、周囲の物体に突き刺すことで、鞘ひいては刀全体を容易に安定化させる。
あとは敵に対して疾駆するだけで、全長3メートルを超える太刀を難なく引き抜くことができるという仕組みだ。
「ええぃやあああ!」
狂喜に満ちた裂帛の気合とともに、千春は祢々切丸を右薙ぎに振り抜こうとする。
鋭い刀身は山の木々をものともせずに斬り裂きながら、アテナの右脇目がけて迫っていた。
千春の踏み込みも斬撃も、祢々切丸という巨大な得物を持ちながら恐ろしく速い。
その上、千春自身の膂力と祢々切丸の重さ、切れ味が合わさり、通常では考えられない破壊力を発揮している。
そして狙いもまた、千春にとっては有利であり、アテナにとって不利になった。
槍を持つ右側を斬りつけられれば、アテナはまともに防御体勢が取れない。
仮に神盾で防御しようものなら、盾が邪魔になって返し技を放てない。
長大とはいえ一本の得物で戦う千春の方が、その間に一拍速くアテナに攻撃を仕掛けるだろう。
意外なところで神盾が仇になったアテナは、千春の右薙ぎを一歩退いて回避するほかなかった。
念のため神盾を前に構えながら、祢々切丸の間合いから一歩だけ外に出るアテナ。
だが、ほんの数ミリ程度、祢々切丸の切っ先が神盾に触れた。
「!?」
もちろんそれだけでは、神盾もアテナも大した影響など受けない。
ただ、盾を通して伝わったわずかな衝撃から、アテナは理解してしまった。
それを証明するように、アテナたちの周囲を覆っていた霧が、斬撃の余波で悉く吹き飛ばされた。
その事実が、マスクマンの霧を薙ぎ払った衝撃と風圧が、祢々切丸の、さらには千春の斬撃の威力を物語っていた。
そして、それ以上に、アテナは盾から感じ取った衝撃から逆算し、本来命中していた場合の威力を噛み締めていた。
(この者の力、チナツ、ケイザブロウ、クスジロウ、これまで戦ったどのオニよりも――――――――――強い!)
「……くそ! もういい!」
繋鴎は脳内でない交ぜになっていた葛藤を振り払おうように声を荒げた。
「こっちは赤の一族への便宜は充分図った。赤の一族も報復は果たした。文句はないはずだ――――――お前がどう言おうとな」
繋鴎はリズベルを一睨みすると、
「稔丸くん!」
まだ高級車から降りていなかった多珂倉家の当主を呼びつけた。
「はいはーい」
稔丸はやや気だるそうな返事をしながら降車する。手に持ったスマートフォンのGPS機能をONにして。
「え~と、赤の一族のお姫様、だっけ? 悪いんだけど繋鴎さんと一緒にボクの自動車に乗ってくんないかな? 素直に乗ってくれたら嬉しいなぁ。運転手に強引なことさせずに済むから」
なるべく穏便な口調で諭しながら、稔丸は自動車の内部を指し示した。
運転手もまた、事と次第によってはいつでも動くという気配を見せている。
「あとのことは何とかしとく。『ナラカ』の連中もボクが説得しておくから、君は中立国でもどこでも高飛びしちゃって―――」
「そのお話、聞き捨てなりませんね~」
滔々と語っていた稔丸の背後に、獣の眼をしたキュウが音もなく現れた。
(やっぱ、そう来るよね)
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