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竜の恩讐編
鬼と姫と女神と・・・ その3
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唐突に現れた高級車から降りてきた男を、キュウは品定めでもするように観察した。
ダークブルーのスーツを着込み、少し白髪の混ざった髪を首の後ろで束ねた壮年の男。
まだ初老というには早いが、頬が窪んだ痩せ気味な風貌からか、体格が立派な割には老けて見える。
キュウは十五分ほど前から、その車両の接近を感知していた。
天逐山周辺はキュウの私有地であると同時に、通常の道順ではまず辿り着かない立地だ。
真っ直ぐに向かってきているというなら、確実に目的があって近付いてきているという証左だった。
このタイミングで来るのが何者なのか気になったので、キュウは何もせずに来させたわけだが、単純な容姿だけならあまり面白くなさそうに思えた。
「もう戻るんだ、リズベル。これ以上はオレも看過できないぞ」
壮年の男、繋鴎はリズベルに詰め寄りながら言う。
「まだ戻れない。あの小林結城の苦しみ抜いた死に顔を見るまでは」
リズベルは繋鴎に一瞥することもなく返す。
「オレが見逃したとしても、パーシアンやアガット王が許すと思うのか!」
繋鴎はリズベルの肩を掴み、強引に振り向かせる。
リズベルの表情はわずかに眉根を寄せているだけだったが、その眼の奥にはこれまで以上の黒い憎悪が滾り、一瞬繋鴎も圧されそうになった。
「―――目的は果たしただろ! ここで終いにしろ! 日本国だって赤の一族に無制限で協力できるわけじゃないんだ! こっちだってなぁ―――」
「私は!」
やや感情的になりかけていた繋鴎の言葉を、リズベルの語気が遮り止めた。
「元より赤の一族にとっての『忌み子』。どこにも居場所なんて無い。唯一の居場所だったのは、あの人の、ピオニーアの傍だけ。それを! それをあの小林結城は奪った!」
リズベルは繋鴎の手を払いのけると、憎悪を湛えた視線で睨んだ。
「だから私は復讐する! ピオニーアの痛みを! ピオニーアを奪われた私の苦しみを! あの小林結城に味わわせてやる!」
「リズベル! あいつは―――」
感情的になった繋鴎は何かを言いかけたが、頭の隅に残っていた理性がそれを思い止まらせた。
「……もうあいつが死ぬのは決まっている。それでいいだろ」
「さっきも言った。あの小林結城の死に顔を見るまでは、ここから動かない」
静かな口調に反して、リズベルの意思はあまりにも強固だった。
ここにきて繋鴎は、自分が完全に見誤っていたことを悟った。
小林結城の命さえ取れれば、リズベルは納得すると思っていた。
だが、繋鴎は播海家として、赤の一族という枠組みだけでしか見ていなかった。
リズベル個人の怨みの深さまでは、見極められていなかったのだ。
そう知らしめられて歯噛みする繋鴎を、キュウは細まった獣の目で観察し続けていた。
(ほほぅ? この方、何か知ってそうですね~)
(あの長さ、まさか……)
千春が取り出した3メートルを超える日本刀を目にし、アテナは思い当たる節が一つあった。
以前、日本刀について調べていた際、資料で見たことがある。
南北朝時代に作られたとされる、製作者不明の極大の太刀。
だが、それは今、栃木県の神社に納められているはずだった。
そして千春が持つ一振りは、本来の日本刀にはない、鞘の端に鋭利な突起物が付いた特殊な造りになっていた。
「しゅっ!」
千春は左斜め後ろにあった木の幹に、鞘尻の突起を突き刺した。
そこからいつでも駆け出せるように足の体勢を整えると、左手の親指で鍔を押し、右手を刀の柄に添えた。
「さぁ、久々の出番よ――――――祢々切丸」
ダークブルーのスーツを着込み、少し白髪の混ざった髪を首の後ろで束ねた壮年の男。
まだ初老というには早いが、頬が窪んだ痩せ気味な風貌からか、体格が立派な割には老けて見える。
キュウは十五分ほど前から、その車両の接近を感知していた。
天逐山周辺はキュウの私有地であると同時に、通常の道順ではまず辿り着かない立地だ。
真っ直ぐに向かってきているというなら、確実に目的があって近付いてきているという証左だった。
このタイミングで来るのが何者なのか気になったので、キュウは何もせずに来させたわけだが、単純な容姿だけならあまり面白くなさそうに思えた。
「もう戻るんだ、リズベル。これ以上はオレも看過できないぞ」
壮年の男、繋鴎はリズベルに詰め寄りながら言う。
「まだ戻れない。あの小林結城の苦しみ抜いた死に顔を見るまでは」
リズベルは繋鴎に一瞥することもなく返す。
「オレが見逃したとしても、パーシアンやアガット王が許すと思うのか!」
繋鴎はリズベルの肩を掴み、強引に振り向かせる。
リズベルの表情はわずかに眉根を寄せているだけだったが、その眼の奥にはこれまで以上の黒い憎悪が滾り、一瞬繋鴎も圧されそうになった。
「―――目的は果たしただろ! ここで終いにしろ! 日本国だって赤の一族に無制限で協力できるわけじゃないんだ! こっちだってなぁ―――」
「私は!」
やや感情的になりかけていた繋鴎の言葉を、リズベルの語気が遮り止めた。
「元より赤の一族にとっての『忌み子』。どこにも居場所なんて無い。唯一の居場所だったのは、あの人の、ピオニーアの傍だけ。それを! それをあの小林結城は奪った!」
リズベルは繋鴎の手を払いのけると、憎悪を湛えた視線で睨んだ。
「だから私は復讐する! ピオニーアの痛みを! ピオニーアを奪われた私の苦しみを! あの小林結城に味わわせてやる!」
「リズベル! あいつは―――」
感情的になった繋鴎は何かを言いかけたが、頭の隅に残っていた理性がそれを思い止まらせた。
「……もうあいつが死ぬのは決まっている。それでいいだろ」
「さっきも言った。あの小林結城の死に顔を見るまでは、ここから動かない」
静かな口調に反して、リズベルの意思はあまりにも強固だった。
ここにきて繋鴎は、自分が完全に見誤っていたことを悟った。
小林結城の命さえ取れれば、リズベルは納得すると思っていた。
だが、繋鴎は播海家として、赤の一族という枠組みだけでしか見ていなかった。
リズベル個人の怨みの深さまでは、見極められていなかったのだ。
そう知らしめられて歯噛みする繋鴎を、キュウは細まった獣の目で観察し続けていた。
(ほほぅ? この方、何か知ってそうですね~)
(あの長さ、まさか……)
千春が取り出した3メートルを超える日本刀を目にし、アテナは思い当たる節が一つあった。
以前、日本刀について調べていた際、資料で見たことがある。
南北朝時代に作られたとされる、製作者不明の極大の太刀。
だが、それは今、栃木県の神社に納められているはずだった。
そして千春が持つ一振りは、本来の日本刀にはない、鞘の端に鋭利な突起物が付いた特殊な造りになっていた。
「しゅっ!」
千春は左斜め後ろにあった木の幹に、鞘尻の突起を突き刺した。
そこからいつでも駆け出せるように足の体勢を整えると、左手の親指で鍔を押し、右手を刀の柄に添えた。
「さぁ、久々の出番よ――――――祢々切丸」
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