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竜の恩讐編
凶兆 その2
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「へぇ~」
天逐山に分け入り、ある程度登ったところで、先頭を歩いていた千春は足を止めた。
「千春、これって……」
後ろを歩いていたルーシーも、周囲の空気が変わったことを察知した。千秋とヴィクトリアも同様に。
「どうやらお誘いが来たみたい」
進行方向から這うように降ってくる霧を見て、千春は歯を剥き出して微笑った。
山に登り始めてから降ってきた小雨によって発生したであろう霧だが、それは天逐山に来る際に飲まれた霧とは違い、まるで意思があるように千春たちに接近してくる。
おそらくそれ自体に害はないだろうが、無視をするにも危険が伴う予感があった。
そして、千春が『お誘い』と言い表したように、霧のカーテンには人一人分が通れそうな穴が四つ空いていた。『道』を作ってやったと言わんばかりに。
「『お誘い』、ね。どうするの? 千春」
「こういうのはノってあげるのがスジってもんでしょ?」
後ろの三人を振り返り、千春はさも嬉しそうに笑みを浮かべた。危険な状況にむしろ愉しみを見出す『鬼』の性が顕れている。
「じゃ、先に小林結城に辿り着いた人が殺るってことで」
「分かったわ。なるべく死なずに済めばいいけど」
「了、解、した」
「ここより続く闇の導きに従うまで」
四人はそれぞれで道を選ぶと、何ら緊張する様子もなく、再び山を登っていった。
立ち込める霧のさらに奥で、戦士の衣装とペイントを施したマスクマンが、普段は閉じている単眼を開き輝かせていた。
マスクマンが呼んだ雨雲と、そこから降らせた小雨によって発生した霧は、マスクマンの目となり手足となる。
千春たちが分散したことを知ると、マスクマンもまた移動のため、霧の中へと消えていった。
慌しくなった多珂倉家邸宅の前庭に、シトローネが運転する高級車が回された。
ドイツの有名メーカーが出しているモデルの一つだが、その実エンジンから外装まで特注で作らせた、多珂倉家が緊急時に使用する高性能カスタムカーだった。
「そうだ蓮吏。いま言った場所の半径5キロを県警に頼んで封鎖してもらってくれ。それといまから言うナンバーの自動車はIRシステムから除外を―――緊急事態なんだ! 播海家から佐権院家への正式な協力要請だと受け取ってくれ!」
声を荒げてスマートフォンの通信を切ると、繋鴎はカスタムカーの後部座席に座ろうとする。が、
「何をしているんだ稔丸くん! 早く!」
まだ屋敷の扉の前で背を向けている稔丸に対し一喝する。
「ちょっ! ちょっと待って!」
稔丸は急かされながらも、何とかメールの内容を打ち終わり、『送信』の表示をタップしてスマートフォンを収めた。
「お、お待たせ!」
ようやく稔丸も後部座席に乗り込む。
その上着のポケットの中で、一本のメールが『送信中』の表示を出していた。
天逐山に分け入り、ある程度登ったところで、先頭を歩いていた千春は足を止めた。
「千春、これって……」
後ろを歩いていたルーシーも、周囲の空気が変わったことを察知した。千秋とヴィクトリアも同様に。
「どうやらお誘いが来たみたい」
進行方向から這うように降ってくる霧を見て、千春は歯を剥き出して微笑った。
山に登り始めてから降ってきた小雨によって発生したであろう霧だが、それは天逐山に来る際に飲まれた霧とは違い、まるで意思があるように千春たちに接近してくる。
おそらくそれ自体に害はないだろうが、無視をするにも危険が伴う予感があった。
そして、千春が『お誘い』と言い表したように、霧のカーテンには人一人分が通れそうな穴が四つ空いていた。『道』を作ってやったと言わんばかりに。
「『お誘い』、ね。どうするの? 千春」
「こういうのはノってあげるのがスジってもんでしょ?」
後ろの三人を振り返り、千春はさも嬉しそうに笑みを浮かべた。危険な状況にむしろ愉しみを見出す『鬼』の性が顕れている。
「じゃ、先に小林結城に辿り着いた人が殺るってことで」
「分かったわ。なるべく死なずに済めばいいけど」
「了、解、した」
「ここより続く闇の導きに従うまで」
四人はそれぞれで道を選ぶと、何ら緊張する様子もなく、再び山を登っていった。
立ち込める霧のさらに奥で、戦士の衣装とペイントを施したマスクマンが、普段は閉じている単眼を開き輝かせていた。
マスクマンが呼んだ雨雲と、そこから降らせた小雨によって発生した霧は、マスクマンの目となり手足となる。
千春たちが分散したことを知ると、マスクマンもまた移動のため、霧の中へと消えていった。
慌しくなった多珂倉家邸宅の前庭に、シトローネが運転する高級車が回された。
ドイツの有名メーカーが出しているモデルの一つだが、その実エンジンから外装まで特注で作らせた、多珂倉家が緊急時に使用する高性能カスタムカーだった。
「そうだ蓮吏。いま言った場所の半径5キロを県警に頼んで封鎖してもらってくれ。それといまから言うナンバーの自動車はIRシステムから除外を―――緊急事態なんだ! 播海家から佐権院家への正式な協力要請だと受け取ってくれ!」
声を荒げてスマートフォンの通信を切ると、繋鴎はカスタムカーの後部座席に座ろうとする。が、
「何をしているんだ稔丸くん! 早く!」
まだ屋敷の扉の前で背を向けている稔丸に対し一喝する。
「ちょっ! ちょっと待って!」
稔丸は急かされながらも、何とかメールの内容を打ち終わり、『送信』の表示をタップしてスマートフォンを収めた。
「お、お待たせ!」
ようやく稔丸も後部座席に乗り込む。
その上着のポケットの中で、一本のメールが『送信中』の表示を出していた。
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