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竜の恩讐編
三年前にて…… その12
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九木の協力を取り付けた結城と媛寿は、九木が得意とするダウジングの能力で、謎の依頼者の足取りを追うことにした。
「え~と……こっちだな」
結城たちの住むアパートを後にした依頼者は、まっすぐ最寄の駅へと向かっていた。
「で、電車に乗っちゃった!? これじゃもう―――」
「あ~、大丈夫大丈夫。媛寿ちゃん、改札のトコにあるポケット時刻表ちょっと取ってきて」
「んっ」
媛寿が持ってきたポケット時刻表に記されていた路線図の、現在地の駅に九木は紐付き五円玉を垂らすと、
「さ~て、どっちに行ったかな?」
駅の左右に延びた線それぞれに五円玉を動かした。
「こりゃあ……上りに乗ったな。それから―――」
路線図の上り線に五円玉が反応し、そこから路線をさらに追っていく。
「この駅から先は反応がない。ってことはこの駅で降りたな」
九木のダウジングは現在地から八つほど離れた駅を指し示し、結城たちはそこまでの切符を買って乗車した。
「この駅で降りてからだな……」
目当ての駅に下車した結城たちは、改札口から見える光景を見渡した。
大型の駅前ロータリーが敷かれ、色とりどりの看板を掲げた飲食店。奥行きにはビル郡が立ち並ぶ、それなりに大きな街だった。
企業勤めのサラリーマンも多く出入りしており、この中から目当ての依頼者を見つけるのは至難の業に思えるが、
「コンビニかどっかで周辺の地図を買おっか」
九木にとっては地形が分かる物さえ手に入れられれば問題ないことだった。
「え~と、駅前から移動を始めて……ずいぶん遠くに行ってるな。これ街の外れまで行ってんじゃないのか?」
結城が広げた地図の上を、九木が五円玉を垂らして道を追う。
紐に付けられた五円玉は軽く右に回転しながら、例の依頼人が通ったであろう道を辿っていった。
「よく分かりますね。これだけの手がかりで」
「まあね。時間が経っちゃってたり、当人がダウジングを妨害する術とか使ってたらできなかったけど、今回は運がいいね。これも媛寿ちゃんのおかげかな?」
九木はちらりと媛寿に目を向けるが、当の媛寿は特に目を合わせることなく、右手を左の袖に入れてごそごそと探っていた。
「おっ、ここだな……何だこりゃ?」
緩やかながら、五円玉が最も大きく回転している場所を見て、九木は眉をひそめた。
「ここで止まってるけど、これ住宅地からもかなり離れてるな。雑木林か何かじゃないのか?」
結城も地図上の五円玉が指し示した場所を見たが、確かに街並みからも離れていて、周りにも何かあるようには見えなかった。
「こりゃいよいよ怪しくなってきたな。ヤバい物取り引きしてるヤツらか? それとも人身売買組織か? 小林くん、行く前にちょっと応援を呼ぶぜ。またまた大手柄の予感―――」
嬉々として携帯電話を取り出そうとした九木のズボンの裾を、媛寿が小刻みに引っ張り、九木はそちらに振り返った。
「んお? 媛寿ちゃん、どうかした?」
媛寿は言葉で答える代わりに、左手の人差し指を手前に引く動作をした。いわゆる『耳を貸せ』のサインだった。
「え? 何?」
無警戒に腰を落とした九木だったが、その隙こそ媛寿が狙っていたものだった。
媛寿の言葉を聞こうと耳を傾けた九木の頭に、『いちまんきろ』と書かれた木槌を振り下ろした。
「ぐげっ!」
頭頂に木槌を食らった九木は、短く声を上げるとその場にくず折れた。
「え、媛寿!?」
「きおくをけした。これできょうのことはおぼえてない……たぶん」
木槌を左袖に収めながら、媛寿は静かにそう呟いた。
「な、何で九木刑事を!?」
「……ぴおにーあ、あんまりけいさつにあいたくないっていってた」
「あっ―――」
媛寿に言われ、結城も思い当たる節があった。
ピオニーアは警察嫌いというわけではなかったが、あまり警察には会いたくないような素振りを見せていた。
ピオニーア自身は『毎回、外国人登録証明書を見せるのが億劫だから』と言っていたが、詳しい事情までは聞いていなかった。
「ん~、協力してもらったのに九木刑事には悪いことしたな」
「だいじょうぶ。なにもおぼえてないから……たぶん」
(たぶん?)
媛寿の言葉に一抹の不安を感じつつ、結城は再び地図に目を落とした。九木が探り当てた場所を、改めて凝視する。
「ゆうき、いこ」
気絶した九木を電柱に引っかけ、手にあんパンと牛乳を持たせる工作を終えた媛寿は、結城の手を少し強めに引いた。
「ぴおにーあがあぶないなら、えんじゅたちがたすける」
そう告げる媛寿の目は、結城が今まで見たことがないほどに真剣そのものだった。
それだけ媛寿もピオニーアの身を案じているのだ。
「うん、そうだね」
結城も媛寿の気持ちがよく解るからこそ、地図で順路を確認し、目当ての場所への一歩を踏み出した。
小気味よくドアをノックする音がした後、A4サイズの封筒を持った男が入室してきた。
「資料、届いたよ。入国管理局を説得するのは骨が折れたけどな」
「無理を言ってすみません、繋鴎さん」
「これであっさり片付いてくれるなら安いもんさ。君が頼んできたことに比べたら、な」
ピオニーアは椅子から立ち上がると、封筒を受け取るべく、繋鴎の元へ歩いていった。
その際、またもテーブルの上を風が吹き抜け、本のページを捲った。
『十三番目の竜は旅をした。旅は楽しかったが、竜はどこか寂しいとも思っていた。そんな時、竜は人間の少年と出逢った。少年の名はテルマーと言った』
「え~と……こっちだな」
結城たちの住むアパートを後にした依頼者は、まっすぐ最寄の駅へと向かっていた。
「で、電車に乗っちゃった!? これじゃもう―――」
「あ~、大丈夫大丈夫。媛寿ちゃん、改札のトコにあるポケット時刻表ちょっと取ってきて」
「んっ」
媛寿が持ってきたポケット時刻表に記されていた路線図の、現在地の駅に九木は紐付き五円玉を垂らすと、
「さ~て、どっちに行ったかな?」
駅の左右に延びた線それぞれに五円玉を動かした。
「こりゃあ……上りに乗ったな。それから―――」
路線図の上り線に五円玉が反応し、そこから路線をさらに追っていく。
「この駅から先は反応がない。ってことはこの駅で降りたな」
九木のダウジングは現在地から八つほど離れた駅を指し示し、結城たちはそこまでの切符を買って乗車した。
「この駅で降りてからだな……」
目当ての駅に下車した結城たちは、改札口から見える光景を見渡した。
大型の駅前ロータリーが敷かれ、色とりどりの看板を掲げた飲食店。奥行きにはビル郡が立ち並ぶ、それなりに大きな街だった。
企業勤めのサラリーマンも多く出入りしており、この中から目当ての依頼者を見つけるのは至難の業に思えるが、
「コンビニかどっかで周辺の地図を買おっか」
九木にとっては地形が分かる物さえ手に入れられれば問題ないことだった。
「え~と、駅前から移動を始めて……ずいぶん遠くに行ってるな。これ街の外れまで行ってんじゃないのか?」
結城が広げた地図の上を、九木が五円玉を垂らして道を追う。
紐に付けられた五円玉は軽く右に回転しながら、例の依頼人が通ったであろう道を辿っていった。
「よく分かりますね。これだけの手がかりで」
「まあね。時間が経っちゃってたり、当人がダウジングを妨害する術とか使ってたらできなかったけど、今回は運がいいね。これも媛寿ちゃんのおかげかな?」
九木はちらりと媛寿に目を向けるが、当の媛寿は特に目を合わせることなく、右手を左の袖に入れてごそごそと探っていた。
「おっ、ここだな……何だこりゃ?」
緩やかながら、五円玉が最も大きく回転している場所を見て、九木は眉をひそめた。
「ここで止まってるけど、これ住宅地からもかなり離れてるな。雑木林か何かじゃないのか?」
結城も地図上の五円玉が指し示した場所を見たが、確かに街並みからも離れていて、周りにも何かあるようには見えなかった。
「こりゃいよいよ怪しくなってきたな。ヤバい物取り引きしてるヤツらか? それとも人身売買組織か? 小林くん、行く前にちょっと応援を呼ぶぜ。またまた大手柄の予感―――」
嬉々として携帯電話を取り出そうとした九木のズボンの裾を、媛寿が小刻みに引っ張り、九木はそちらに振り返った。
「んお? 媛寿ちゃん、どうかした?」
媛寿は言葉で答える代わりに、左手の人差し指を手前に引く動作をした。いわゆる『耳を貸せ』のサインだった。
「え? 何?」
無警戒に腰を落とした九木だったが、その隙こそ媛寿が狙っていたものだった。
媛寿の言葉を聞こうと耳を傾けた九木の頭に、『いちまんきろ』と書かれた木槌を振り下ろした。
「ぐげっ!」
頭頂に木槌を食らった九木は、短く声を上げるとその場にくず折れた。
「え、媛寿!?」
「きおくをけした。これできょうのことはおぼえてない……たぶん」
木槌を左袖に収めながら、媛寿は静かにそう呟いた。
「な、何で九木刑事を!?」
「……ぴおにーあ、あんまりけいさつにあいたくないっていってた」
「あっ―――」
媛寿に言われ、結城も思い当たる節があった。
ピオニーアは警察嫌いというわけではなかったが、あまり警察には会いたくないような素振りを見せていた。
ピオニーア自身は『毎回、外国人登録証明書を見せるのが億劫だから』と言っていたが、詳しい事情までは聞いていなかった。
「ん~、協力してもらったのに九木刑事には悪いことしたな」
「だいじょうぶ。なにもおぼえてないから……たぶん」
(たぶん?)
媛寿の言葉に一抹の不安を感じつつ、結城は再び地図に目を落とした。九木が探り当てた場所を、改めて凝視する。
「ゆうき、いこ」
気絶した九木を電柱に引っかけ、手にあんパンと牛乳を持たせる工作を終えた媛寿は、結城の手を少し強めに引いた。
「ぴおにーあがあぶないなら、えんじゅたちがたすける」
そう告げる媛寿の目は、結城が今まで見たことがないほどに真剣そのものだった。
それだけ媛寿もピオニーアの身を案じているのだ。
「うん、そうだね」
結城も媛寿の気持ちがよく解るからこそ、地図で順路を確認し、目当ての場所への一歩を踏み出した。
小気味よくドアをノックする音がした後、A4サイズの封筒を持った男が入室してきた。
「資料、届いたよ。入国管理局を説得するのは骨が折れたけどな」
「無理を言ってすみません、繋鴎さん」
「これであっさり片付いてくれるなら安いもんさ。君が頼んできたことに比べたら、な」
ピオニーアは椅子から立ち上がると、封筒を受け取るべく、繋鴎の元へ歩いていった。
その際、またもテーブルの上を風が吹き抜け、本のページを捲った。
『十三番目の竜は旅をした。旅は楽しかったが、竜はどこか寂しいとも思っていた。そんな時、竜は人間の少年と出逢った。少年の名はテルマーと言った』
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