上 下
338 / 404
竜の恩讐編

三年前にて…… その8

しおりを挟む
「ピオニーアさんとはそんな風に、夏の少し前から数ヶ月間、一緒に依頼をこなしていました」
 一通りピオニーアのことを話した結城ゆうきは、そう言って一段落をくくった。
 その場にいた誰もが、結城と媛寿えんじゅしか知らなかったメンバーの存在を聞き、複雑な気分で押し黙っていたが、
「一つ、気がかりなことがあります」
 真っ先にアテナが口を開いた。
「そのピオニーアなる者が、ユウキ、エンジュとともに依頼を受けていた過去は理解しました。が、今回ユウキが襲撃された件について、どのようにつながるのですか? 聞いていれば、ユウキに矛先ほこさきが向く理由が見当たりません」
(それも、これほどむごい方法を用いて)
 アテナの指摘を受け、結城は包帯が巻かれた胸の傷にわずかに触れると、三年前の『あの日』を思い浮かべた。
 叩きつけるような雨音を聞きながら、媛寿からげられた事実に、心臓を鷲掴わしづかまれた感覚を。その時の衝撃、喪失感、悲しみを。
「ピオニーアさんが亡くなったのは……僕が原因だったんです」

 三年前。十月一日。
人捜ひとさがし、ですか?」
 結城が借りているボロアパートを訪ねてきた依頼者からの内容を、結城は復唱する形で確かめた。
「ええ。どうしても、一目ひとめだけでもいいのでお会いしたい方がいまして。ここなら普通の探偵興信所では成しえないような依頼も達成してくれるとうかがったもので」
 黒のスーツに七三分け、銀縁ぎんぶちメガネまでかけた、いかにもサラリーマン風の男は答えた。
「え~と……そういうのは警察の人に捜してもらうのがいいと思いますけど」
 結城としては『潜入』と同じくらい、『人捜し』はあまり受けたくないたぐいの依頼だった。これまでも何度か人を捜してほしいと依頼を受けたことはあったが、ほとんどが昔の復讐目的だったり、でなくばストーカー目的に近いようなものばかりだった。
 ちなみに目的が明らかになった時点で、依頼者はもれなく媛寿にお仕置おしおきされ、依頼料もしっかり徴収ちょうしゅうしている。
 そういう理由から、結城としてはできれば人捜しは警察に任せてほしいところではあった。あったのだが、
「お願いします! いまは亡き親友が残していった子どもなのかもしれないんです! これは小さい時の写真ですが、知人から似ている人を見たと聞いたんです!」
 男はふところから勢いよく写真を取り出すと、結城とはさんで置かれた卓袱台ちゃぶだいに差し出した。
「ん~……ん?」
 写真をのぞき込んだ結城は、そこに写っている人物に不思議な既視感きしかんおぼえた。
「この人を捜すんですか?」
「そう! そうです!」
「これって、何年前くらいに撮られた写真ですか?」
「え? じゅ、十年くらい前かと……」
「う~ん……」
 結城は十秒ほど卓袱台の写真とにらめっこをして、
「ちょっとお時間をいただけますか?」
 何か考えがまとまったのか、そう提案した。
「か、構いませんが……」
「それと、この写真ってお借りできますか?」
「そ、それは困るのでコピーか何かで……」
「分かりました。じゃあ―――」
 結城は携帯電話のカメラ機能で写真を複写すると、原本を男に返した。
「では、お返事は名刺にある電話番号にお願いします。できれば早急に」
 そう念を押すと、男はそそくさと写真を受け取り、結城の部屋を後にした。
「ん~……」
 結城としては、もう依頼者の素性等々よりも、写真に写っていた人物の方が気になったので、携帯電話の画像データと再び睨めっこしていた。
「ゆうき、これ……」
 結城の肩越しに姿を現した媛寿もまた、写真の人物に見覚えがあるようだった。
「うん。僕もそうじゃないかな~って」
 二人とも、その十年前・・・に撮られた写真の中の人物と、おそらくそこから十年ったであろう人物に、心当たりがあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

処理中です...