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豪宴客船編

船旅の終着(終)

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「よっと」
 行きつけのゲームセンターの奥にある、スロットマシーン『LIBERTY BELLリバティ・ベル』の前に座り、結城結城はレバーを引いた。数字のドラムが回っている間、ここ数日間の出来事を回想する。
 クイーン・アグリッピーナ号から生還した結城たちは、しばらく金毛稲荷神宮こんもういなりじんぐう逗留とうりゅうしていた。
 結城は妖力者やクロランとの戦いで負った傷と、キュウに精気を限界まで吸い取られたため、その治療のためというていだった。
 入院ではなく神宮での逗留となったのは、キュウが結城から精気を取ったのは予定外だったので、そのお詫びにもてなすと申し出たためだ。
 それはそれでありがたかったのだが、アテナは最初の二日ほどは、微妙に機嫌が悪いまま過ごしていた。
 キュウが結城の寝所に行く際、アテナは雷槍ケラウノスを撃って力を使い果たし、ほとんど動けない状態だった。
 結城と一晩過ごしたキュウは、『何も手は出してませんよ~。ただ一緒に寝ただけですよ~』と言っていたが、アテナの邪魔が入らないように、神通力の譲渡を加減されたことは根に持っていた。
 キュウがアテナの好きな銘柄のチーズケーキを用意してきたので、とりあえず三日目には機嫌は直っていたが。
 そして数日が経ち、傷も完治し、精気も回復したので、結城はキュウにお礼を言って金毛稲荷神宮を後にした。
 普通に入院していれば一週間以上はかかるところ、ずっと早く快癒したのは、キュウが妖力で傷の治療を行ってくれたおかげだった。
 本来、キュウの妖力は治癒には適正が薄いらしく、以前使用した唾液から作る回復薬はカメーリアがうまく妖力を偏向した代物とのことだ。ちなみに大量につくることはできないため、今は在庫がなかったらしい。
 金毛稲荷神宮から出た結城たちは、真っ直ぐ古屋敷には帰らず、少し寄り道していくことにした。
 本当はゲームセンターには寄る予定はなかったのだが、行きつけの場所を通りかかった際、媛寿えんじゅが『ちょっとだけ』とどうしても譲らなかったので、こうして立ち寄っていた次第だった。
(カジノと比べると、こういうゲームセンターの方がまだ落ち着くな。あっ、ハズレた)
 結城が回想を終えると、スロットマシーンのドラムが止まった。数字は三つとも揃わなかった。
「ゆうき! ゆうき! つぎはえんじゅのばん!」
「分かった。ちょっと待ってね。いまコインを」
 膝の上に座った媛寿にせがまれ、結城は次のプレイのためのコインを投入した。
「れでぃ、ごー!」
 媛寿もまたレバーを引き、スロットマシーンを起動させる。
「ふっふふっふふーん♪ ふっふっふーん♪」
 回転するドラムを鼻歌混じりに見つめる媛寿。なぜかカジノでゲームしていた時より楽しそうだと結城は思った。
「あー、はずれたー」
 媛寿の数字も揃わなかった。
「残念だったね、媛寿」
「ううん。これすき。なかなかあたりでないから」
「ん?」
 媛寿に言われて、結城は初めて、
(そういえば媛寿と一緒にこのスロットやって当たったことないな)
 と思った。
(このスロット……もしかして媛寿の運気より強いんじゃ――――)
「ユウキ」
 ちょっぴり怖い事実に気付きそうだった結城に、自販機コーナーから戻ってきたアテナが声をかけた。
「アテナ様」
「そろそろゲームセンターここを切り上げましょう。エンジュ、ユウキはまだ病み上がりです。なるべく早く古屋敷に戻って静養しなければ」
「わかったー」
 媛寿は結城の膝から降りると、
「ゆうき、いこ」
 結城の手を取ってゆっくりと引いた。
「うん。ありがとう媛寿」
 媛寿に手を引かれ、結城は椅子から立ち上がった。
「HΓ、EΩ9→(よぉ、終わったか)」
「もう、行く?」
 マスクマンとシロガネも合流し、結城は本来寄る場所へと歩き始めた。
「行こう。どうしても会っておかなくちゃいけないからね」

「……」
 カメーリアは椅子に座り、カウンターに置いたフラスコの水が沸騰する様を眺めていた。
(火を止めなければ蒸発して水はなくなる。火にかけなくても水はいずれは揮発してなくなる。さながらわたくしは水というところですわね)
 沸騰して泡立つ湯に対し、カメーリアはそんな感慨にふけっていた。
 カメーリアの家系がメインで行っていたのは、不老不死を実現する研究だった。
 古くから何代も続いてきた研究は、ある時、一つの魔法薬を完成させた。
 それを服用した者は、何年経とうと外見が変わらず、念願の不老不死を手に入れたかに思われた。
 が、時の縛りか生物の運命さだめか、そう甘い話はなかった。
 たしかにその魔法薬は外見こそ若いままで固定できるが、肉体のどこか一部分だけは確実に老化するという欠点があった。
 ある者は内臓の一つが、ある者は血液細胞が、ある者は骨だけが年を取り、一部が死ぬと、それに引きずられて連鎖的に肉体そのものが死に至る。
 さらに定期的に服用しなければ、不老の効果は持続せず、カメーリアの血筋にしか効かないという制約があった。
 結局のところ、不老不死というのは都合よく実現できるものではなかったのだ。
 魔法薬が完成して以降、服用した者はよわい百を超えることはできても、その数十年後には誰もが死を迎えていた。
 カメーリアを除いて。
「……」
 カメーリアは前髪を指でつまみ、軽く#擦_こす__#り合わせてみた。灰色に変わった己の髪を。
 魔法薬を服用するようになったカメーリアの年齢は、いまや二百に届こうとしていた。
 カメーリアが老化する肉体の一部は、髪だった。
 これまでの服用者と比べれば、命に関わるような部分ではないため、薬の服用さえ続ければ、実質カメーリアは不老不死を得られた身だった。
 しかし、皮肉にもカメーリアの時代には、科学技術が追いつき、魔法の希少価値は昔より圧倒的に低くなってしまっていた。
 研究は続けているものの、時代が進むに連れて魔法の有用性は失われていく。それを死ぬことなく見続けているというのは、果てのない徒労に付き合わされているようだと、カメーリアを時に悩ませていた。
(いつか魔法というものは、本当に世界から必要とされなくなる時が来るのでしょうね。けれど……)
 ドアが開かれ、取り付けられていたカウ・ベルが心地よく鳴る。
(今回はなかなかに役立てられましたから、それで良しといたしますわ)
「いらっしゃい、小林くん」
「こんにちは、カメーリアさん」
 喫茶『砂の魔女』の扉をくぐり、結城と四柱の神霊たちが入店した。
「小林くん、金毛稲荷神宮キュウのところからもう出てこられたとは。キュウによほどサービスされたようですわね」
「えっ!? いや、サービスってそんな……普通に治療してもらったり、食事をご馳走になったくらいで……」
「でしょうね。まだ童貞のままみたいですし」
「うっ!?」
 カメーリアに指摘され、結城は顔を赤くしながら体をもじもじさせた。キュウに謎の告白をされたことで、まだ結城の中ではもやもやが落ち着いていない。
「冗談はさておき……小林くん、改めてお礼を言わせていただきますわ。ありがとうございます」
「いえ、僕の方こそ今回はカメーリアさんにすごくお世話になったし。それに……」
 結城は少し照れくさそうに頬を指でかいた。
「僕があんな大金持ってても恐くて仕方なかったから、これが一番いい使い道だったんです」
 クイーン・アグリッピーナ号のカジノにおいて結城―――と媛寿―――が稼ぎ出した金額は、およそ九桁に届くほど莫大だった。
 恵比須えびすからの依頼の報酬内容プラスα、カジノで稼いだ分も報酬に加えて良いという条件に基づき、それはそのまま結城の所持金となっていた。
 しかし、結城もそこまでの金額は恐ろしくなってしまい、寄付でも何でもいいので使い道を検討した。
 そして思いついたのが、半壊した喫茶『砂の魔女』の修繕にあてることだった。
 カメーリアもさすがにそうまでしてもらうのは悪いと言ったのだが、元々は刺客たちはクロランを追ってきたらしいので、クロランを連れて入店した分は責任があると言って押し切った。
 あとは『三吉鬼さんきちおに工務店』と『山男やまおとこ工務店』に修繕を依頼し、ものの数日で喫茶『砂の魔女』は再建されたのだった。
「でもよく没収されませんでしたわね」
 カメーリアは店内のテレビ―――全ての放送局と電波に対応している代わりにモノクロ画面でしか映らない魔法具―――に目を向けて不思議そうに言った。
 画面には東京湾に突如襲来した豪華客船と、その乗客たちのスキャンダルが、数日経った現在でも持ちきりだった。
 政財界で著名な人物たちが、非公認の豪華客船で違法行為を満喫していたとあっては、世間の注目は計り知れないほど集まっていた。
 もっとも、その乗客たちは極度の疲労と衰弱で入院が必要であり、船内で動いた金額は全て没収されるという泣きっ面に蜂な状態なわけだが。
「いや、あはは。まぁ、何といいますか……」
 ちなみに乗船中、結城たちがオークションに参加している間、媛寿は密かに船のPCを使い、結城が得た金額を『金霊かねだま銀行』に送金していた。よって結城の分は没収されなかった。
「それに、カメーリアさんにはあののことをお願いすることになるわけですから、それも兼ねてですよ」
「そうですわね。あっ、うわさをすれば――――」
 カメーリアがそう言う中、再び扉のカウ・ベルが鳴った。
「あ――――」
 『砂の魔女』の扉を開けたその人物は、結城の姿を見て目を丸くした。
 フリルが多用された黒のミニスカ制服によく映える、赤い髪の少女。大きなカチューシャで獣耳は隠れているが、結城は見間違えるはずはなかった。
「やぁ、クロラン」
 結城が軽く手を振って挨拶すると、
「結城ー!」
「どわっ!」
 嬉しさのあまり大ジャンプしたクロランは、そのまま結城の胴にフライングヘッドバットを見舞った。後ろの背負った大量の荷物が入った登山用リュックの重さも加わり、病み上がりの結城には少しキツかった。
「結城! 結城! 結城だー!」
 結城に抱きついたクロランは、何度も名前を呼びながら結城の腹部に額を擦り付ける。
「ぐ……ふ……う、うん。元気になったみたいだね、クロラン」
「うん! クロラン元気になった! 今もおつかい行ってきた!」
「そ、そうなんだ。何はともあれ元気になったことはいいこと――――」
「ふんすっ! ふんすっ! ふんすっ!」
「って! クロランなにやってんの!」
 いつの間にかクロランは額を擦り付けるのをやめ、結城の下腹部のにおいをぎだしていた。
「はっ! いつの間に!」
 無意識の行動だったのか、クロラン自身も驚いて結城から距離を取った。
「結城、ごめんなさい」
「い、いや、大丈夫。ちょっとビックリしただけ」
「くろらん、すっごいげんきになったー」
「媛寿!? 媛寿ー!」
「わぁ!」
 媛寿の姿を確認したクロランは、今度は媛寿を押し倒す勢いで抱きついた。
「媛寿! 媛寿ー!」
「ひゃああ!」
 媛寿をがっちり抱きしめたクロランは、媛寿の顔中にキスの雨を降らせて困惑させていた。
「こ、これが副作用なんですか? カメーリアさん」
「副作用というよりは、まだ効果が続いていると言った方が正しいですわね」
 狼人間と化したクロランを止める際、カメーリアが使用した薬。それは媚薬びやくを調整し、犬科動物のみに効果を絞ったものだった。
 クロランが受けていた強力な精神支配をき乱すには、戦闘が継続できなくなるほどの強力な催淫効果を与え、本能のレベルで命令に抵抗させるのがベストだった。
 その目論見はうまくいったわけだが、まだ大本おおもとの調整が済んでいなかったため、効き目が強く出てしまっていた。
 クロランは好意を持っている相手に対して、過剰に愛情表現をしてしまうようになってしまった。
「あふっ!」
「? くろらんどうしたの?」
「ちょ、ちょっとおトイレ。カメーリアさん、これおつかい頼まれたの」
 クロランは背負っていたリュックを下ろすと、おぼつかない足取りで奥のトイレに歩いていった。
「……薬の効果が和らぐまで、私の方で預からせていただきますわ。あのままで帰したら毎日大変でしょうし」
 クロランの調子が正常に落ち着くまでは、カメーリアの元に預けて様子を見ることを、結城も承諾していた。
「お願いします。媛寿、顔こっちに向けて」
「ふひ~」
 クロランのキス攻撃で唾液よだれまみれになった媛寿の顔を、結城はハンカチで拭き始めた。
 その間、結城はもう一つの気がかりについて考えていた。
 クイーン・アグリッピーナ号から帰還して目覚めたクロランは、失語症も改善し、別人のように明るくなった。
 だが、船に乗っていた期間と、それ以前の記憶を失くしていた。
 媚薬の影響によるものなのか、それとも狼人間の呪縛から解き放つ際に使った、稲荷神の護符によるものなのか。真偽は不明だが、結城たちのことだけはなぜか憶えていた。
 結城が気にかかっているのは、記憶が失われたことが、クロランにとって良かったのか悪かったのか、という点だった。
 オスタケリオンが語ったことが本当なら、クロランはどこかでひっそりと暮らしていた獣人で、実験のために兄弟姉妹とともに捕らえられ、最後に残ったのがクロランだという。
 クロランはもう帰る場所もなく、迎えてくれる家族もいなくなってしまったというのだ。
 そのあまりにも酷な境遇を思うなら、記憶を失って新しい人生を歩き出すのが良いのかもしれない。
 ただ、結城はそれを最善だと割り切ることもできない。
 それまでの記憶を失うというのは、それまでの『自分』を失うということ。ひどい言い方をするならば、『それまでのクロラン』は死んでしまったとも取れるからだ。
 思い出したとしても辛い記憶なら、失くしてしまったほうが幸せなのかもしれないが、それでも、結城は『それまでのクロラン』を死なせてしまうのが、絶対に正しいとは断定できなかった。
「……ゆうき?」
 ハンカチを動かす手を止めてしまった結城を、媛寿が心配そうに見つめていた。
「あ、ああ。ごめん、媛寿……これで、よし」
 媛寿の顔を拭き終わった結城だが、まだクロランのことは引っかかったまま、表情は少しくもっていた。
「ユウキ」
 そんな結城の気持ちを察したのか、アテナは結城に声をかけてきた。
「船の中で言ったことですが、世界というのは神の手にもあまります。そして人の世界は人が変えていくしかない。ですが、誰か一人が世界を変えようとしても、神でも困難なものを、たった一人が変えることなど『不動の岩』を作るに等しい。まして、あなたは天賦てんぷの才も、群集を魅せる輝きも持たず、とても弱い」
「……」
「ですが、あの者クロランを救うことはできたではありませんか」
「っ!」
「いまは、それで良いのでは?」
 そう問いかけてくるアテナの顔は、まぶしいほどに輝かしく、優しい笑みをたたえていた。
「そう……ですね」
 その女神の笑顔に、結城は心にまとっていたよどみを洗い流された気になった。
 世界を変えるほどの力などない。何百人、何千人を救えるような大人物でもない。
 そんな強さがないことは、結城自身がよく知っている。
 たが、アテナの言葉で結城は惑っていた答えを得られた。
 クロランを助けることはできたのだ、と。
「ありがとうございます、アテナ様」
 その言葉に、アテナは再度、満足そうに微笑んだ。
「結城ー! 媛寿ー! おまたせー!」
 結城が立ち直ったところで、クロランがトイレから戻ってきた。
「くろらん、おなかいたかったの?」
 トイレから戻ったクロランに、媛寿は素朴な疑問を投げかけた。
 クロランは赤面して脚をもじもじさせると、
「媛寿のエッチ……」
 と、小声で言った。
 結城が少し複雑な顔をする一方で、カメーリアは毎晩クロランの部屋から結城と媛寿の名前を呼びながら、荒い息づかいが聞こえていることは黙っておこうと思うのだった。
「さて。では新装開店記念とお礼も兼ねて、今日は私がご馳走いたしますわ。何でも好きなメニューを頼んでくださいまし」
「ほんとー!? やったー! チョコパフェ、キャラメルパフェ、フルーツパフェ♪」
「チーズケーキは出せますか? 丸ごとホールで」
「CΣ7↑CΠ7↑(チキンソテーとココナッツミルクドリンク)」
「アツアツの、フランクフルト」
 早速席に座った神霊たちは、思い思いのメニューを注文し始めていた。
「クロランも一緒に食べよ。ケーキとジュースでいい?」
「くろらん! くろらんもいっしょにパフェたべよ!」
 結城と媛寿の誘いに感激し、クロランはとびきり嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「食べるー! 結城と媛寿、大好きー!」
 フリルのカチューシャがズレてあらわになった獣耳は、その嬉しさを表現するように元気にはためいていた。

 ところ変わって、とある工事現場。
「ヒ、ヒドい目にったぜ。もう鋼鉄の処女アイアンメイデンはイヤだ」
「あ、頭割あたまわり器はイヤだ」
「ス、スペインの椅子はイヤだ」
 喫茶『砂の魔女』から解放された門山かどやま飢島きじま百田ももたの三人は、工事現場でツルハシを振り、スコップを差し、手押し車を押して作業をしていた。
 知っている情報を洗いざらい話し切ってからも、カメーリアの趣味に目一杯付き合わされた三人は、精神が壊れる寸前まで追い込まれた後にようやく陽の下に出ることができた。
 すでに与えられた妖力もなくなり、依頼主とも連絡がつかなくなった今、こうして工事現場で仲良く汗を流すことになっていた。
「おーい、新入りどもー! 昼メシだぞー!」
「はーい」「はーい」「はーい」
 親方の一言で作業を切り上げた三人は、弁当が用意されている詰め所まで歩いていった。

 またところ変わって、とある街の清掃ボランティア。
「いやー、野摩やまさんが入ってくれて助かったわ。オレたちだけじゃ街全体はカバーできなくってさぁ」
「なんのなんの。朝でも夜でも毎日でも、街をくまなくキレイにさせていただきますよー」
 陽を照らし返すスキンヘッドがトレードマークとなった野摩は、生まれ変わったような晴れやかな顔で街の清掃に励んでいた。

 またまたところ変わって、とある警察署の取調べ室。
「えーと、じゃあまた最初から聞くけど、名前と生年月日を言って。それから何でクイーン・アグリッピーナ号あのふねに乗ってたのか、何でそんな岩をくっつけてるのか、全部答えてもらうよ」
 取調べの警察官と机を挟んでいるのは、長い舌を一抱ひとかかえもある柱状の岩にくっつけたままの上無芽かみなめだった。
「あの~……」
 警察官の質問に、上無芽は不思議そうな顔でこう返した。
「私はいったい誰なんでしょう?」
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