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豪宴客船編
第二試合 その2
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切り裂きクローバーの姿を一言で表すなら、まさにフランケンシュタインの怪物だった。
両肩を巡る大きな縫い傷から始まり、顔、首、胴と、様々な方向に傷が走り、縫い傷の無い箇所を見つける方が難しく思えた。
縫われた分だけ違う人間の『パーツ』が使われ、特に異彩を放っているのはベースとなっている肉体とかけ離れた、太く長い両腕だった。その手にはそれぞれ、特注と思わしき幅広の三日月刀が二振り握られている。
「ヘッヘ~、こりゃあ刻み甲斐のある女だぜ~」
クローバーは三日月刀の刃をべろりと舐めながら、左右で大きさが違う眼をアテナに向けた。
「フフフ、クローバーはいくつもの紛争地域でならした傭兵でね。特にナイフ捌きが敵味方問わず恐れられていたのさ。死んでからも人間を切り刻みたいという執念が凄かったから、死屍人として蘇らせるのは簡単だった。蘇ってからはさらに殺人能力に磨きがかかったし、その上オレが様々な改造を施した」
「……」
「まず循環器系は心肺能力に優れた者から摘出して換装し、右眼は視力、左眼は夜目が効く眼球を使用している。筋繊維も生前と比較して30%以上を移植しているが、中でもあの両腕の『元の持ち主』には感謝しているよ。あれが手に入ったおかげでクローバーは無敵の死屍兵士として完成し、オレの『最高傑作』になったんだからね」
一言も発していない結城を気にせず、蛙魅場は得意げに自身の『最高傑作』について語っている。
その不遜さもそうだが、それ以上に話している内容が、結城にとっては非常に気分を害するものだった。
どうやら二回戦の相手はゾンビで、身体をより強力な『パーツ』で補強しているようだが、その『パーツ』を手に入れた方法がまともではないらしい。
自身の功績に饒舌になっている蛙魅場もまた、見た目から雰囲気まで、悪の組織のマッドサイエンティストを髣髴とさせる。媛寿が耳打ちで『わかめみたいなの』と表した、異様に波打った長髪も、その風貌に拍車をかけている。
やはり第一印象通り、会苦巣とは違った意味で、『嫌な感覚』を与えてくる人物だった。
「ああ、そうだそうだ」
蛙魅場は何かを思い出したように、話を一時中断した。
「キミさぁ、さっきの太ったオッサンに従者は売らないって言ってたけど、ならオレに預けてみる気はないかぁ? なに、お代は要らないよ。貴重な実験体を弄らせてくれるなら。そうだなぁ……あの女なら今の能力の五倍、いや十倍にはしてみせよう。そうなれば向かうところ敵なしだ。悪い話じゃないと思うが?」
「……」
「ん~、ではオレから少し色を付けよう。オレが商品として扱っているゾンビを一つ、どれでも好きなヤツを選んでくれていい。なになに、心配するな。ゾンビといってもオレが扱うのはどれも上物揃いだ。この船のオークションにもいくつか出品している。損傷が少ない美品で、どんな命令にでも従うぞ? 何なら感覚機能とある程度の魂も移植することもできる。いくらいたぶっても死なないし、いくらだって苦しむ様を堪能できるから人気商品なんだ。本当ならそれなりに高くつくが、特別にカスタムしたヤツを用意してやろう。どうだ?」
自信たっぷりに取り扱っている『商品』を奨めてくる蛙魅場とは違い、それを聞いた結城は静かに怒りを滾らせていた。
まだ記憶に新しい、オークション会場で衆目に晒されていた少女のゾンビ。あんな哀れな姿にした張本人が、すぐ横で意気揚々と『商品』をアピールしてくる。
それも意思なき生ける屍にしただけでは飽き足らず、痛みと魂まで弄び、悦楽の捌け口にしようとしている。
結城の目から見ても、蛙魅場は正真正銘の外道であると言えた。
「ん~、それともそっちの小っこい小娘みたいなのがご所望かな? それはさすがに『調達』しなけりゃいかんが、それでも何とか―――」
「あの……」
蛙魅場とあまり言葉を交わしたくない結城だったが、それでも一言くらいは言っておかなければならないと考えたので、重たい口を開けることにした。
「お? どんなタイプにするか決まったかな?」
「ちょっと静かにしててもらえますか? あなたの『傑作』が負けるまででいいですから」
「クケケ、一回戦のグロースに感謝しないとなぁ。このオレにイイ獲物を譲ってくれたんだからなぁ」
ギョロギョロと動く左右の目でアテナを観察するクローバーは、試合開始が待ちきれないのか、しきりに三日月刀を回転させている。
「クケケェ、単純な力じゃテメェにゃ勝てねぇだろうが、オレにはこの腕と双刀を活かしたリーチがある。テメェはオレに近付くこともできずに切り刻まれる運命ってこったぁ」
クローバーは喜色満面に、二本の三日月刀を素振りして見せる。その風圧がアテナの前髪を少し揺らしたが、アテナは特に動じることはない。
「どうだぁ? 怖いか~? 怖いか~? そうだろ~な~。もっと怯えろよ~? オレは怯えてガタガタ震えてるヤツを切り刻むのが、戦場で一番の愉しみだったんだ。特に女やガキが最高だったぜ~」
クローバーの目は、すでに切り刻まれるアテナの姿を見ているが、クローバーを見つめるアテナの目は、向けられる刃以上に鋭く、冷たくなっている。
「この剣もテメェの血を欲しがってるぜ~。コイツはなぁ、血を吸えば吸うほど切れ味が良くなる逸品でよぉ。中でも怯えたガキを斬った後の切れ味が最高なんだぜぇ。この船に乗る前にも一匹殺ってきたからなぁ。今が一番の切れ味になってるぜぇ」
その言葉を聞き、アテナは片眉をぴくりと動かした。同時に、静かに拳に力が入る。
「おぉい! さっさと始めろやぁ! 早くこの女を刻ませろ!」
「は、はいぃ!」
クローバーに怒声を浴びせられ、野摩はおっかなびっくり右手を上げた。
「そ、それでは第二回戦、レディー……ファイッ!」
「クケケェ! どっから切り刻んでやろうかぁ!」
試合開始とともに、クローバーは双刀を高速で振り始めた。
「ん~? 聞き違いかな~? オレの傑作が『負けるまで』ってことは、あの女が勝つって、そう思ってるってことかな~?」
「……」
わざとらしい態度で聞き返してくる蛙魅場だが、結城はそれに対して何ら反応することはなく、蛙魅場に顔を向けることもない。
「た~はっはっは! こりゃ面白い! 久々に他人の冗談で笑わせてもらったよ! どうやらキミはオレと違ってバカの類らしいな! それじゃあオレの言ってることも分からないわけだ! あ~っはっはっは!」
腹を抱えて笑う蛙魅場に結城は無反応だったが、笑い方が気に入らなかったのか、媛寿はポップコーンを摘む手を止めて眉根を寄せた。
「まぁいい。どうせ死体になってら、あの女はもらうつもりだったしな。死体じゃキミにとってはゴミも同じだろ? 天才呪術師のオレが見事に使ってやろうじゃないか。あれだけ強くて美しければ、買い手は引く手数多だろうなぁ。は~っはっは!」
(うるさいな~)
いよいよもって蛙魅場の笑い声が耳障りになってきた媛寿は、ポップコーンの容器から弾けていない粒を探し出すと、大口を開けて笑う蛙魅場に向けて指で飛ばした。
「は―――はんぐがっ!?」
媛寿が飛ばした粒は見事に蛙魅場の口にホールインし、蛙魅場は思いがけない異物が喉に引っかかり、笑っているどころではなくなった。
「ぐげっ! おごっ!?」
(おまけ)
さらに媛寿はもう二つの粒を飛ばし、前面のガラスに跳弾させて蛙魅場の両の鼻の穴へ、こちらも見事なコントロールでホールインさせた。
「ふがっ!? ぐぎげっ!?」
喉に引っかかった粒と、鼻の穴に飛び込んだ粒のせいで、蛙魅場はソファから立ち上がって不恰好なダンスを踊る羽目になってしまった。
「な、なに!?」
高笑いをしていたのが、いきなりくぐもった声で踊りだした蛙魅場に、結城は困惑するが、
「ゆうき。はい、あ~ん」
「え、ああ、ありがとう媛寿」
媛寿が笑顔でポップコーンを差し出してきたので、とりあえずそっちをいただくことにした。
「クケケケ! どうだ! オレの剣捌きは! この速さは捉えられないだろ!」
クローバーが振るう三日月刀は縦横無尽に動き回り、まるで何本もの刀身が舞っているようですらある。かなりの速さで振るわれているはずだが、双刀は互いに衝突することなく、独立した軌道を描き続ける。
「ケハハ! ちょっとずつ刻んでやるとなぁ、どんな女も跪いて命乞いをしだすんだよぉ! 『何でもしますからどうか命だけは』ってなぁ! そういうヤツをたっぷり時間をかけて嬲り殺すのが最高にキモチいいぜぇ!」
近付くもの全てを切り裂こうとする、斬撃の嵐を吹き荒らしながら、クローバーはアテナに少しずつ間合いを詰めていく。切っ先がアテナに触れるまで、あと数センチの距離まで来ていた。
「さぁさぁさぁ! テメェは何分まで保つかなぁ! まずはその服切り刻んで全裸にひん剥いて―――」
ついに初撃がアテナに届く寸前、目にも留まらぬ速さで振るわれていたはずの刀身は、映像が一時停止されたかのようにぴたりと止まった。
「は?」
観客の誰もが、審判の野摩もが驚き呆気に取られる中、最も驚いていたのは、いや何が起こったか理解できなかったのは、三日月刀を振るっていたクローバー本人だった。
アテナの左肩と右脇腹の手前で静止した刀身は、アテナが左右それぞれの親指と人差し指で挟んで止めていたのだ。無造作に皿でも摘むかのように。
「外道、一つだけ言っておきます」
何事もないように斬撃を受け止めたアテナは、顔を上げてクローバーに目を合わせた。
「あなたと比べれば、シロガネの剣捌きの方がずっと流麗で速い」
両肩を巡る大きな縫い傷から始まり、顔、首、胴と、様々な方向に傷が走り、縫い傷の無い箇所を見つける方が難しく思えた。
縫われた分だけ違う人間の『パーツ』が使われ、特に異彩を放っているのはベースとなっている肉体とかけ離れた、太く長い両腕だった。その手にはそれぞれ、特注と思わしき幅広の三日月刀が二振り握られている。
「ヘッヘ~、こりゃあ刻み甲斐のある女だぜ~」
クローバーは三日月刀の刃をべろりと舐めながら、左右で大きさが違う眼をアテナに向けた。
「フフフ、クローバーはいくつもの紛争地域でならした傭兵でね。特にナイフ捌きが敵味方問わず恐れられていたのさ。死んでからも人間を切り刻みたいという執念が凄かったから、死屍人として蘇らせるのは簡単だった。蘇ってからはさらに殺人能力に磨きがかかったし、その上オレが様々な改造を施した」
「……」
「まず循環器系は心肺能力に優れた者から摘出して換装し、右眼は視力、左眼は夜目が効く眼球を使用している。筋繊維も生前と比較して30%以上を移植しているが、中でもあの両腕の『元の持ち主』には感謝しているよ。あれが手に入ったおかげでクローバーは無敵の死屍兵士として完成し、オレの『最高傑作』になったんだからね」
一言も発していない結城を気にせず、蛙魅場は得意げに自身の『最高傑作』について語っている。
その不遜さもそうだが、それ以上に話している内容が、結城にとっては非常に気分を害するものだった。
どうやら二回戦の相手はゾンビで、身体をより強力な『パーツ』で補強しているようだが、その『パーツ』を手に入れた方法がまともではないらしい。
自身の功績に饒舌になっている蛙魅場もまた、見た目から雰囲気まで、悪の組織のマッドサイエンティストを髣髴とさせる。媛寿が耳打ちで『わかめみたいなの』と表した、異様に波打った長髪も、その風貌に拍車をかけている。
やはり第一印象通り、会苦巣とは違った意味で、『嫌な感覚』を与えてくる人物だった。
「ああ、そうだそうだ」
蛙魅場は何かを思い出したように、話を一時中断した。
「キミさぁ、さっきの太ったオッサンに従者は売らないって言ってたけど、ならオレに預けてみる気はないかぁ? なに、お代は要らないよ。貴重な実験体を弄らせてくれるなら。そうだなぁ……あの女なら今の能力の五倍、いや十倍にはしてみせよう。そうなれば向かうところ敵なしだ。悪い話じゃないと思うが?」
「……」
「ん~、ではオレから少し色を付けよう。オレが商品として扱っているゾンビを一つ、どれでも好きなヤツを選んでくれていい。なになに、心配するな。ゾンビといってもオレが扱うのはどれも上物揃いだ。この船のオークションにもいくつか出品している。損傷が少ない美品で、どんな命令にでも従うぞ? 何なら感覚機能とある程度の魂も移植することもできる。いくらいたぶっても死なないし、いくらだって苦しむ様を堪能できるから人気商品なんだ。本当ならそれなりに高くつくが、特別にカスタムしたヤツを用意してやろう。どうだ?」
自信たっぷりに取り扱っている『商品』を奨めてくる蛙魅場とは違い、それを聞いた結城は静かに怒りを滾らせていた。
まだ記憶に新しい、オークション会場で衆目に晒されていた少女のゾンビ。あんな哀れな姿にした張本人が、すぐ横で意気揚々と『商品』をアピールしてくる。
それも意思なき生ける屍にしただけでは飽き足らず、痛みと魂まで弄び、悦楽の捌け口にしようとしている。
結城の目から見ても、蛙魅場は正真正銘の外道であると言えた。
「ん~、それともそっちの小っこい小娘みたいなのがご所望かな? それはさすがに『調達』しなけりゃいかんが、それでも何とか―――」
「あの……」
蛙魅場とあまり言葉を交わしたくない結城だったが、それでも一言くらいは言っておかなければならないと考えたので、重たい口を開けることにした。
「お? どんなタイプにするか決まったかな?」
「ちょっと静かにしててもらえますか? あなたの『傑作』が負けるまででいいですから」
「クケケ、一回戦のグロースに感謝しないとなぁ。このオレにイイ獲物を譲ってくれたんだからなぁ」
ギョロギョロと動く左右の目でアテナを観察するクローバーは、試合開始が待ちきれないのか、しきりに三日月刀を回転させている。
「クケケェ、単純な力じゃテメェにゃ勝てねぇだろうが、オレにはこの腕と双刀を活かしたリーチがある。テメェはオレに近付くこともできずに切り刻まれる運命ってこったぁ」
クローバーは喜色満面に、二本の三日月刀を素振りして見せる。その風圧がアテナの前髪を少し揺らしたが、アテナは特に動じることはない。
「どうだぁ? 怖いか~? 怖いか~? そうだろ~な~。もっと怯えろよ~? オレは怯えてガタガタ震えてるヤツを切り刻むのが、戦場で一番の愉しみだったんだ。特に女やガキが最高だったぜ~」
クローバーの目は、すでに切り刻まれるアテナの姿を見ているが、クローバーを見つめるアテナの目は、向けられる刃以上に鋭く、冷たくなっている。
「この剣もテメェの血を欲しがってるぜ~。コイツはなぁ、血を吸えば吸うほど切れ味が良くなる逸品でよぉ。中でも怯えたガキを斬った後の切れ味が最高なんだぜぇ。この船に乗る前にも一匹殺ってきたからなぁ。今が一番の切れ味になってるぜぇ」
その言葉を聞き、アテナは片眉をぴくりと動かした。同時に、静かに拳に力が入る。
「おぉい! さっさと始めろやぁ! 早くこの女を刻ませろ!」
「は、はいぃ!」
クローバーに怒声を浴びせられ、野摩はおっかなびっくり右手を上げた。
「そ、それでは第二回戦、レディー……ファイッ!」
「クケケェ! どっから切り刻んでやろうかぁ!」
試合開始とともに、クローバーは双刀を高速で振り始めた。
「ん~? 聞き違いかな~? オレの傑作が『負けるまで』ってことは、あの女が勝つって、そう思ってるってことかな~?」
「……」
わざとらしい態度で聞き返してくる蛙魅場だが、結城はそれに対して何ら反応することはなく、蛙魅場に顔を向けることもない。
「た~はっはっは! こりゃ面白い! 久々に他人の冗談で笑わせてもらったよ! どうやらキミはオレと違ってバカの類らしいな! それじゃあオレの言ってることも分からないわけだ! あ~っはっはっは!」
腹を抱えて笑う蛙魅場に結城は無反応だったが、笑い方が気に入らなかったのか、媛寿はポップコーンを摘む手を止めて眉根を寄せた。
「まぁいい。どうせ死体になってら、あの女はもらうつもりだったしな。死体じゃキミにとってはゴミも同じだろ? 天才呪術師のオレが見事に使ってやろうじゃないか。あれだけ強くて美しければ、買い手は引く手数多だろうなぁ。は~っはっは!」
(うるさいな~)
いよいよもって蛙魅場の笑い声が耳障りになってきた媛寿は、ポップコーンの容器から弾けていない粒を探し出すと、大口を開けて笑う蛙魅場に向けて指で飛ばした。
「は―――はんぐがっ!?」
媛寿が飛ばした粒は見事に蛙魅場の口にホールインし、蛙魅場は思いがけない異物が喉に引っかかり、笑っているどころではなくなった。
「ぐげっ! おごっ!?」
(おまけ)
さらに媛寿はもう二つの粒を飛ばし、前面のガラスに跳弾させて蛙魅場の両の鼻の穴へ、こちらも見事なコントロールでホールインさせた。
「ふがっ!? ぐぎげっ!?」
喉に引っかかった粒と、鼻の穴に飛び込んだ粒のせいで、蛙魅場はソファから立ち上がって不恰好なダンスを踊る羽目になってしまった。
「な、なに!?」
高笑いをしていたのが、いきなりくぐもった声で踊りだした蛙魅場に、結城は困惑するが、
「ゆうき。はい、あ~ん」
「え、ああ、ありがとう媛寿」
媛寿が笑顔でポップコーンを差し出してきたので、とりあえずそっちをいただくことにした。
「クケケケ! どうだ! オレの剣捌きは! この速さは捉えられないだろ!」
クローバーが振るう三日月刀は縦横無尽に動き回り、まるで何本もの刀身が舞っているようですらある。かなりの速さで振るわれているはずだが、双刀は互いに衝突することなく、独立した軌道を描き続ける。
「ケハハ! ちょっとずつ刻んでやるとなぁ、どんな女も跪いて命乞いをしだすんだよぉ! 『何でもしますからどうか命だけは』ってなぁ! そういうヤツをたっぷり時間をかけて嬲り殺すのが最高にキモチいいぜぇ!」
近付くもの全てを切り裂こうとする、斬撃の嵐を吹き荒らしながら、クローバーはアテナに少しずつ間合いを詰めていく。切っ先がアテナに触れるまで、あと数センチの距離まで来ていた。
「さぁさぁさぁ! テメェは何分まで保つかなぁ! まずはその服切り刻んで全裸にひん剥いて―――」
ついに初撃がアテナに届く寸前、目にも留まらぬ速さで振るわれていたはずの刀身は、映像が一時停止されたかのようにぴたりと止まった。
「は?」
観客の誰もが、審判の野摩もが驚き呆気に取られる中、最も驚いていたのは、いや何が起こったか理解できなかったのは、三日月刀を振るっていたクローバー本人だった。
アテナの左肩と右脇腹の手前で静止した刀身は、アテナが左右それぞれの親指と人差し指で挟んで止めていたのだ。無造作に皿でも摘むかのように。
「外道、一つだけ言っておきます」
何事もないように斬撃を受け止めたアテナは、顔を上げてクローバーに目を合わせた。
「あなたと比べれば、シロガネの剣捌きの方がずっと流麗で速い」
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