上 下
1 / 4

公爵家に引き取られました

しおりを挟む
 貧民街の片隅、雨漏りのする小さな小屋に僕は住んでいた。僕は、娼婦の母とそのお客さんとの子供だ。だから父親はいない。
 
 でも僕は幸せだった。母は傷だらけで帰ってくることもあったが、僕の前では笑顔で優しい人だった。

 幸せな日々は長くは続かない。
 母が病気になってしまったのだ。僕では助けることなどできない。病気で歩くのもきついはずなのに家事をしようとしたり、働きに行こうとしたりして、日に日に衰えていった。
 家事とかは僕がやってあげられるけど、病気を治してあげることはできない。お医者さんにかかるお金もない。
 
 母が衰えていくのを見ていられなくなった僕は、町中を駆けずり回って母を診てくれるお医者さんを探した。
 僕の身なりを見ると、すぐに追い返される。それはそうだろう。どう考えてもお金を払えないような格好だ。つぎはぎだらけで、一部破れたりしている。洗濯なんてしていない服だ。それでもあきらめるわけにはいかない。ここで諦めたら母は死んでしまうのだ

 コンコンコン
 「だれかいらっしゃいませんか、お願いします、母を診てください。」

 小さな病院の前で必死に頼み込んだ。ここら辺にある最後の病院だ。
 するとドアが開き、老紳士が出てきた。

 「どなたかな?」

 「お願いします!母が病気なんです、お金なら僕が働いてお支払いしますから!」

 「落ち着きなさい。君はどこの誰なんだい?」

 「僕は、テオドールといいます。貧民街に住んでいます。」

 「そうか、私はラティスだ。ではお母さんのところまで案内しなさい。」

 自己紹介をすると、貧民街に住んでいるということなど気にも留めていない様子で、診察を引き受けてくれた。
 僕はすぐに家まで案内して、お医者さんに診てもらった。

 「これは、、、もう手遅れだろう。」

 お医者さんの言葉がわからなかった。
 やっとお医者さんに診てもらうことができて、これでお母さんも元気になる。そう思っていた。
 しかし、お医者さんの言葉を理解し始めると、希望が崩れていった。
 絶望と同時に、自分に対して怒りが込み上げてきた。僕がもっと早くお医者さんを呼んでこれていたら、いや、僕さえいなければお母さんはこんなに苦労することもなく病気にだってならなかったかもしれない。そう思わずにはいられなかった。

 「そんな、何とかお願いします。お母さんを助けてください!」

 「テオ、無理を言ってはいけないわ。人には寿命というものがあるの。人はね、病気やけがで死ぬんじゃないの。人は等しく寿命で死ぬの。だからこれが私の寿命だったということ。テオにはまだ難しいかもしれないわね。」

 母は優しく微笑んだ。やせ細ったその顔で笑いかけてくる母に涙があふれた。

 「お母さん、いやだよ。ずっと一緒にいたいよぉ。」

 「テオ、あなたは男の子でしょ。もっと強くならないだめよ。
 テオ、これはあなたのお父さんがくれたものなの。きっとこれがあなたの役に立つはずよ。」

 そう言ってきれいなペンダントを差し出してきた。そのペンダントには、きれいな花の紋章があった。

 「あなたのお父さんは、この領の領主様、公爵様なのよ。これがあればきっとあなたを助けてくれるはず。あの方はそういう人よ。
 テオ、ずっと一緒にいてあげられなくてごめんね。まだ6歳のあなたを残して死んじゃうダメなお母さんを許してね。幸せに、、、」

 「おかあさん、いた、いやだ、うわああ!」

 僕のお父さんが誰なのかは、まだ信じることができなかったが、お母さんの目はそれが真実だと言っていた。
 そして、僕に謝りながら死んでいった。


 「テオドール君、しばらく私の家にいなさい。君のお母さんのお母さんの名前を教えてもらってもいいかな。私が領主様に問い合わせておこう。」

 お医者さんが領主様に連絡をしてくれたらしく、迎はすぐに来た。
 お母さんを診てくれて、火葬と埋骨までしてくれたお医者さんにお礼を言って、公爵家に来た。

 公爵様の奥方も早くに亡くなられたらしく、公爵様には1人だけご子息がいるようだった。

 「君がテオドール君かね。彼女によく似ている。
 今日からはここが君の家だ。楽にしなさい。」

 「はい、お世話になります。」

 公爵様は、少し悲しげで、優しそうな顔をしていた。この人が母を愛していたのかはわからないし、母の死の責任をこの人に感じないわけではないが、身分の差を考えると仕方のないことかもしれない。公爵様を恨む気にはならなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕は悪役令息に転生した。……はず。

華抹茶
BL
「セシル・オートリッド!お前との婚約を破棄する!もう2度と私とオスカーの前に姿を見せるな!」 「そ…そんなっ!お待ちください!ウィル様!僕はっ…」 僕は見た夢で悪役令息のセシルに転生してしまった事を知る。今はまだゲームが始まる少し前。今ならまだ間に合う!こんな若さで死にたくない!! と思っていたのにどうしてこうなった? ⚫︎エロはありません。 ⚫︎気分転換に勢いで書いたショートストーリーです。 ⚫︎設定ふんわりゆるゆるです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

奴の執着から逃れられない件について

B介
BL
幼稚園から中学まで、ずっと同じクラスだった幼馴染。 しかし、全く仲良くなかったし、あまり話したこともない。 なのに、高校まで一緒!?まあ、今回はクラスが違うから、内心ホッとしていたら、放課後まさかの呼び出され..., 途中からTLになるので、どちらに設定にしようか迷いました。

【完結】魔法薬師の恋の行方

つくも茄子
BL
魔法薬研究所で働くノアは、ある日、恋人の父親である侯爵に呼び出された。何故か若い美人の女性も同席していた。「彼女は息子の子供を妊娠している。息子とは別れてくれ」という寝耳に水の展開に驚く。というより、何故そんな重要な話を親と浮気相手にされるのか?胎ました本人は何処だ?!この事にノアの家族も職場の同僚も大激怒。数日後に現れた恋人のライアンは「あの女とは結婚しない」と言うではないか。どうせ、男の自分には彼と家族になどなれない。ネガティブ思考に陥ったノアが自分の殻に閉じこもっている間に世間を巻き込んだ泥沼のスキャンダルが展開されていく。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

初恋の公爵様は僕を愛していない

上総啓
BL
伯爵令息であるセドリックはある日、帝国の英雄と呼ばれるヘルツ公爵が自身の初恋の相手であることに気が付いた。 しかし公爵は皇女との恋仲が噂されており、セドリックは初恋相手が発覚して早々失恋したと思い込んでしまう。 幼い頃に辺境の地で公爵と共に過ごした思い出を胸に、叶わぬ恋をひっそりと終わらせようとするが…そんなセドリックの元にヘルツ公爵から求婚状が届く。 もしや辺境でのことを覚えているのかと高揚するセドリックだったが、公爵は酷く冷たい態度でセドリックを覚えている様子は微塵も無い。 単なる政略結婚であることを自覚したセドリックは、恋心を伝えることなく封じることを決意した。 一方ヘルツ公爵は、初恋のセドリックをようやく手に入れたことに並々ならぬ喜びを抱いていて――? 愛の重い口下手攻め×病弱美人受け ※二人がただただすれ違っているだけの話 前中後編+攻め視点の四話完結です

番を解除してくれと頼んだらとんでもないことになった話

雷尾
BL
(タイミングと仕様的に)浮気ではないのですが、それっぽい感じになってますね。

番って10年目

アキアカネ
BL
αのヒデとΩのナギは同級生。 高校で番になってから10年、順調に愛を育んできた……はずなのに、結婚には踏み切れていなかった。 男のΩと結婚したくないのか 自分と番になったことを後悔しているのか ナギの不安はどんどん大きくなっていく-- 番外編(R18を含む) 次作「俺と番の10年の記録」   過去や本編の隙間の話などをまとめてます

処理中です...