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悩み。四天理人の場合
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おかしい。
いくら幼馴染といえど、僕が誰かといたのに、ユーリがこんなに穏やかなんておかしい。だって僕が店長と話してても不機嫌になるようなやつだ。なのに何も言ってこないなんて。
「……ぁ゙」
「んー?」
日が長くなって、まだまだ明るい帰り道を二人で歩く。隣を見上げれば、特に気にしてない様子のユーリが無言で手を絡ませてきた。
「ぃ゙ー」
「あ、違った? でも淋しかったでしょ」
「ん゙ん゙ん゙」
駄目だ、全然声が出ない。
空いている手でスマフォをなんとか取り出して、片手で文章を打とうとしてみる。けれど僕の手には微妙に大きくて、するりと抜け落ち、地面に落ちてしまった。
「ぁ゙」
「あ」
慌てて拾い上げ画面を確認する。ヒビは入ったけど、ちゃんと画面はつく。よかった。
拾った格好のまま、膝に顔を埋めて息を吐く。心配したユーリも隣にしゃがんで「どうしたの」と画面を覗き込んできた。ヒビの入ったスマフォをなぞって、
「どうする? 修理出す? 新しいの買う?」
と優しく問いかけてくれた。それに首を横に振ってから、僕はスマフォのメモ機能を立ち上げた。
『こっちに就職する』
「……」
ユーリが何も言ってくれない。けれど、それに構うことなく僕はさらに文字を打ち込んでいく。
『僕は、ユーリと一緒にいたい』
そこまで打ち込んだところで、ユーリの右手が僕の左頬を撫でた。
「いいの? 後悔、しない?」
僕はそれに小さく頷いて、さらにスマフォをタップする。
『責任、取れよ。こんなに好きになった責任』
「もちろん。ぜひ取らせて」
ユーリは先に立ち上がると、僕を立たせるように左手を差し出してきた。それを握り返して立てば、ユーリが嬉しそうに僕を抱きしめてくる。僕もその広い背中に腕を回して、少しだけ甘えるように、ほんの少しだけ胸板に頭を押しつけた。
「あー、今すぐに押し倒したい」
「……」
「ゴミを見るような目で見ないでよ。興奮しちゃうから」
変わらない変態っぷりに苦笑いをして。
顔を上げて少しだけ背伸びをすれば、屈んだユーリが軽く唇を重ねてくれた。
「今日のご飯は何かなぁ」
少し身体を離して、スマフォにまた文字を打っていく。
『麻婆茄子』
「ふふ。それは楽しみ」
『それから』
「ん?」
少しだけ、文字を打つ指が止まる。けれど言わないと駄目だよな、と思い直して、僕はまた指を走らせた。
『夜、あんまり激しくしないでほしい』
「……なんで」
少し不機嫌になったユーリを宥めるように、僕は空いている手で、ユーリの指先を少しだけ掴んだ。
『終わった後、ユーリとゆっくりしたい』
恥ずかしさで俯いたまま、そう打った画面をユーリに見せた。普段だったら絶対に言えないことも、こうすれば言えてしまう。でも恥ずかしいことに変わりないから、十秒ほど見せて、すぐにスマフォをポケットへと仕舞った。
「……はぁ」
ため息をつかれてしまった。
やっぱり嫌だったのかと思って、少しだけ肩を落としかけ――
「わかった。善処は、する」
また抱きしめてくれたユーリの身体は、とても熱い。暑さのせいではないのは、ユーリの耳の赤さでわかった。
「ベッドでお喋りしたい?」
僕は小さく頷いた。
「シャワーで汗流すのも?」
その状況を想像すると恥ずかしい。けれど、僕はまた小さく頷いた。
「……リヒトがそれをしたいなら、うん、いいよ」
ユーリはそう言って、赤くなった顔を誤魔化すように、また僕に唇を落とした。
いくら幼馴染といえど、僕が誰かといたのに、ユーリがこんなに穏やかなんておかしい。だって僕が店長と話してても不機嫌になるようなやつだ。なのに何も言ってこないなんて。
「……ぁ゙」
「んー?」
日が長くなって、まだまだ明るい帰り道を二人で歩く。隣を見上げれば、特に気にしてない様子のユーリが無言で手を絡ませてきた。
「ぃ゙ー」
「あ、違った? でも淋しかったでしょ」
「ん゙ん゙ん゙」
駄目だ、全然声が出ない。
空いている手でスマフォをなんとか取り出して、片手で文章を打とうとしてみる。けれど僕の手には微妙に大きくて、するりと抜け落ち、地面に落ちてしまった。
「ぁ゙」
「あ」
慌てて拾い上げ画面を確認する。ヒビは入ったけど、ちゃんと画面はつく。よかった。
拾った格好のまま、膝に顔を埋めて息を吐く。心配したユーリも隣にしゃがんで「どうしたの」と画面を覗き込んできた。ヒビの入ったスマフォをなぞって、
「どうする? 修理出す? 新しいの買う?」
と優しく問いかけてくれた。それに首を横に振ってから、僕はスマフォのメモ機能を立ち上げた。
『こっちに就職する』
「……」
ユーリが何も言ってくれない。けれど、それに構うことなく僕はさらに文字を打ち込んでいく。
『僕は、ユーリと一緒にいたい』
そこまで打ち込んだところで、ユーリの右手が僕の左頬を撫でた。
「いいの? 後悔、しない?」
僕はそれに小さく頷いて、さらにスマフォをタップする。
『責任、取れよ。こんなに好きになった責任』
「もちろん。ぜひ取らせて」
ユーリは先に立ち上がると、僕を立たせるように左手を差し出してきた。それを握り返して立てば、ユーリが嬉しそうに僕を抱きしめてくる。僕もその広い背中に腕を回して、少しだけ甘えるように、ほんの少しだけ胸板に頭を押しつけた。
「あー、今すぐに押し倒したい」
「……」
「ゴミを見るような目で見ないでよ。興奮しちゃうから」
変わらない変態っぷりに苦笑いをして。
顔を上げて少しだけ背伸びをすれば、屈んだユーリが軽く唇を重ねてくれた。
「今日のご飯は何かなぁ」
少し身体を離して、スマフォにまた文字を打っていく。
『麻婆茄子』
「ふふ。それは楽しみ」
『それから』
「ん?」
少しだけ、文字を打つ指が止まる。けれど言わないと駄目だよな、と思い直して、僕はまた指を走らせた。
『夜、あんまり激しくしないでほしい』
「……なんで」
少し不機嫌になったユーリを宥めるように、僕は空いている手で、ユーリの指先を少しだけ掴んだ。
『終わった後、ユーリとゆっくりしたい』
恥ずかしさで俯いたまま、そう打った画面をユーリに見せた。普段だったら絶対に言えないことも、こうすれば言えてしまう。でも恥ずかしいことに変わりないから、十秒ほど見せて、すぐにスマフォをポケットへと仕舞った。
「……はぁ」
ため息をつかれてしまった。
やっぱり嫌だったのかと思って、少しだけ肩を落としかけ――
「わかった。善処は、する」
また抱きしめてくれたユーリの身体は、とても熱い。暑さのせいではないのは、ユーリの耳の赤さでわかった。
「ベッドでお喋りしたい?」
僕は小さく頷いた。
「シャワーで汗流すのも?」
その状況を想像すると恥ずかしい。けれど、僕はまた小さく頷いた。
「……リヒトがそれをしたいなら、うん、いいよ」
ユーリはそう言って、赤くなった顔を誤魔化すように、また僕に唇を落とした。
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