138 / 169
六月に書いた短編
ポンコツ
しおりを挟む
やってしまった……。
露天風呂で、ユーリを勢いに任せて押し倒した。思い返せば、必死すぎて自分にドン引きだ。
「ご褒美ってなんだよ……」
とは考えるものの、前世の記憶が邪魔をして、何を言えばいいのかよくわからない。
あの日々の中で、身体がどうしようもなく疼いて、辛くて、早くラクになりたい時。そんな時に決まってユーリは『ご褒美、ほしくないんだ?』と嘲笑うように言っていた。
恋人でいる期間より、監禁されていた日々のほうが長すぎた。普通の恋人がするようなことや言葉が、上手く言えない。
さらにユーリの左手首に怪我をさせてしまって、絶賛自己嫌悪中だ。
「はぁ……」
朝食に目玉焼きをしようと、卵片手にため息をついた。片手で割り入れてから、ウインナーも一緒に焼き始める。茹でようかとも思ったけれど、その元気はどこにもなかった。
「ふああぁ……、リヒト、おはよ」
「あ、うん、おはよ」
欠伸をしながら出てきたユーリが「んー」と後ろから抱きついてきた。本気なのか寝ぼけてるのか判断がつかないけれど、とりあえず危ないから「離れろ」と軽く身じろぎをする。
それでも離れないユーリが、僕のうなじに顔を寄せてすんすんと鼻を鳴らす。それから軽く口づけてから、ゆっくりと身体を離し、僕をまじまじと見つめた。
「ね、リヒト。また俺のシャツ着てったでしょ」
「へ? だって、昨日、ちゃんと横に脱いで……」
改めて自分の姿を見る。
確かにこれはユーリのシャツだ。でもおかしい。だって、脱いだ場所にあったものを着て、昨日脱いだ時は確かに自分のシャツだったし。
「あ、あれ? ごめん……」
「リヒトならいいよ。それより卵、焦げてるけど?」
「へ!? あ!」
言われてフライパンに視線を戻せば、片面だけ黒くなった目玉焼きとウインナーがプスプスと音を立てていた。慌ててフライ返しでお皿に盛ってから、油を引き直して次の卵を割った。
「ごめん。それ僕が食べるから。それから、その、手も……」
口ごもって最後まで言えない僕に、ユーリは「いいよ」と囁くように笑って、洗面台へと向かっていった。
折れたわけじゃない。捻挫だし、前世と比べれば本当に大した怪我ではないのだろう。それこそ打撲は日常茶飯事で、火傷、凍傷、切傷、刺傷もしょっちゅうだった。
けれど、今はもう簡単に治せはしない。火傷をしたら痕だって残る。それを自分がさせたこと、しかも欲に任せてそれをしてしまったことに、酷く罪悪感を感じていた。
「はぁ……、僕はセックス覚えたての高校生か……?」
ユーリの分の目玉焼きとウインナーをお皿に盛って、適当にレタスを千切ってミニトマトを乗せる。と、そこでトーストの準備をしていないことに気づいて、慌てて食パンをトースターに入れた。
「あー、もう、最悪だ……」
これじゃ本当にポンコツだ。
おかしいな、僕はこんなに出来ないやつだったっけ。
コーヒーの準備をして、あとはマーガリンも用意して、あとはええと……。
「ふ……っ、う、ぇ……」
泣いてる場合じゃないのに。
朝からシャツは間違えるわ、目玉焼きは焦がすわ、ユーリに気も使わせて。
しゃがみ込んで、抱えた膝に頭を埋める。そのままぐすぐすと鼻を鳴らしていると、洗面所から戻ってきたユーリが「どうしたの」と同じように座り込んだ。
露天風呂で、ユーリを勢いに任せて押し倒した。思い返せば、必死すぎて自分にドン引きだ。
「ご褒美ってなんだよ……」
とは考えるものの、前世の記憶が邪魔をして、何を言えばいいのかよくわからない。
あの日々の中で、身体がどうしようもなく疼いて、辛くて、早くラクになりたい時。そんな時に決まってユーリは『ご褒美、ほしくないんだ?』と嘲笑うように言っていた。
恋人でいる期間より、監禁されていた日々のほうが長すぎた。普通の恋人がするようなことや言葉が、上手く言えない。
さらにユーリの左手首に怪我をさせてしまって、絶賛自己嫌悪中だ。
「はぁ……」
朝食に目玉焼きをしようと、卵片手にため息をついた。片手で割り入れてから、ウインナーも一緒に焼き始める。茹でようかとも思ったけれど、その元気はどこにもなかった。
「ふああぁ……、リヒト、おはよ」
「あ、うん、おはよ」
欠伸をしながら出てきたユーリが「んー」と後ろから抱きついてきた。本気なのか寝ぼけてるのか判断がつかないけれど、とりあえず危ないから「離れろ」と軽く身じろぎをする。
それでも離れないユーリが、僕のうなじに顔を寄せてすんすんと鼻を鳴らす。それから軽く口づけてから、ゆっくりと身体を離し、僕をまじまじと見つめた。
「ね、リヒト。また俺のシャツ着てったでしょ」
「へ? だって、昨日、ちゃんと横に脱いで……」
改めて自分の姿を見る。
確かにこれはユーリのシャツだ。でもおかしい。だって、脱いだ場所にあったものを着て、昨日脱いだ時は確かに自分のシャツだったし。
「あ、あれ? ごめん……」
「リヒトならいいよ。それより卵、焦げてるけど?」
「へ!? あ!」
言われてフライパンに視線を戻せば、片面だけ黒くなった目玉焼きとウインナーがプスプスと音を立てていた。慌ててフライ返しでお皿に盛ってから、油を引き直して次の卵を割った。
「ごめん。それ僕が食べるから。それから、その、手も……」
口ごもって最後まで言えない僕に、ユーリは「いいよ」と囁くように笑って、洗面台へと向かっていった。
折れたわけじゃない。捻挫だし、前世と比べれば本当に大した怪我ではないのだろう。それこそ打撲は日常茶飯事で、火傷、凍傷、切傷、刺傷もしょっちゅうだった。
けれど、今はもう簡単に治せはしない。火傷をしたら痕だって残る。それを自分がさせたこと、しかも欲に任せてそれをしてしまったことに、酷く罪悪感を感じていた。
「はぁ……、僕はセックス覚えたての高校生か……?」
ユーリの分の目玉焼きとウインナーをお皿に盛って、適当にレタスを千切ってミニトマトを乗せる。と、そこでトーストの準備をしていないことに気づいて、慌てて食パンをトースターに入れた。
「あー、もう、最悪だ……」
これじゃ本当にポンコツだ。
おかしいな、僕はこんなに出来ないやつだったっけ。
コーヒーの準備をして、あとはマーガリンも用意して、あとはええと……。
「ふ……っ、う、ぇ……」
泣いてる場合じゃないのに。
朝からシャツは間違えるわ、目玉焼きは焦がすわ、ユーリに気も使わせて。
しゃがみ込んで、抱えた膝に頭を埋める。そのままぐすぐすと鼻を鳴らしていると、洗面所から戻ってきたユーリが「どうしたの」と同じように座り込んだ。
66
お気に入りに追加
536
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。
しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。
偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。
御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。
これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。
【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】
【続編も8/17完結しました。】
「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785
↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
その転生幼女、取り扱い注意〜稀代の魔術師は魔王の娘になりました〜
みおな
ファンタジー
かつて、稀代の魔術師と呼ばれた魔女がいた。
魔王をも単独で滅ぼせるほどの力を持った彼女は、周囲に畏怖され、罠にかけて殺されてしまう。
目覚めたら、三歳の幼子に生まれ変わっていた?
国のため、民のために魔法を使っていた彼女は、今度の生は自分のために生きることを決意する。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる