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六月に書いた短編

ポンコツ

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 やってしまった……。
 露天風呂で、ユーリを勢いに任せて押し倒した。思い返せば、必死すぎて自分にドン引きだ。

「ご褒美ってなんだよ……」

 とは考えるものの、前世まえの記憶が邪魔をして、何を言えばいいのかよくわからない。
 あの日々の中で、身体がどうしようもなく疼いて、辛くて、早くラクになりたい時。そんな時に決まってユーリは『ご褒美、ほしくないんだ?』と嘲笑うように言っていた。
 恋人でいる期間より、監禁されていた日々のほうが長すぎた。普通の恋人がするようなことや言葉が、上手く言えない。
 さらにユーリの左手首に怪我をさせてしまって、絶賛自己嫌悪中だ。

「はぁ……」

 朝食に目玉焼きをしようと、卵片手にため息をついた。片手で割り入れてから、ウインナーも一緒に焼き始める。茹でようかとも思ったけれど、その元気はどこにもなかった。

「ふああぁ……、リヒト、おはよ」
「あ、うん、おはよ」

 欠伸をしながら出てきたユーリが「んー」と後ろから抱きついてきた。本気なのか寝ぼけてるのか判断がつかないけれど、とりあえず危ないから「離れろ」と軽く身じろぎをする。
 それでも離れないユーリが、僕のうなじに顔を寄せてすんすんと鼻を鳴らす。それから軽く口づけてから、ゆっくりと身体を離し、僕をまじまじと見つめた。

「ね、リヒト。また俺のシャツ着てったでしょ」
「へ? だって、昨日、ちゃんと横に脱いで……」

 改めて自分の姿を見る。
 確かにこれはユーリのシャツだ。でもおかしい。だって、脱いだ場所にあったものを着て、昨日脱いだ時は確かに自分のシャツだったし。

「あ、あれ? ごめん……」
「リヒトならいいよ。それより卵、焦げてるけど?」
「へ!? あ!」

 言われてフライパンに視線を戻せば、片面だけ黒くなった目玉焼きとウインナーがプスプスと音を立てていた。慌ててフライ返しでお皿に盛ってから、油を引き直して次の卵を割った。

「ごめん。それ僕が食べるから。それから、その、手も……」

 口ごもって最後まで言えない僕に、ユーリは「いいよ」と囁くように笑って、洗面台へと向かっていった。
 折れたわけじゃない。捻挫だし、前世むかしと比べれば本当に大した怪我ではないのだろう。それこそ打撲は日常茶飯事で、火傷、凍傷、切傷、刺傷もしょっちゅうだった。
 けれど、今はもう簡単に治せはしない。火傷をしたら痕だって残る。それを自分がさせたこと、しかも欲に任せてそれをしてしまったことに、酷く罪悪感を感じていた。

「はぁ……、僕はセックス覚えたての高校生か……?」

 ユーリの分の目玉焼きとウインナーをお皿に盛って、適当にレタスを千切ってミニトマトを乗せる。と、そこでトーストの準備をしていないことに気づいて、慌てて食パンをトースターに入れた。

「あー、もう、最悪だ……」

 これじゃ本当にポンコツだ。
 おかしいな、僕はこんなに出来ないやつだったっけ。
 コーヒーの準備をして、あとはマーガリンも用意して、あとはええと……。

「ふ……っ、う、ぇ……」

 泣いてる場合じゃないのに。
 朝からシャツは間違えるわ、目玉焼きは焦がすわ、ユーリに気も使わせて。
 しゃがみ込んで、抱えた膝に頭を埋める。そのままぐすぐすと鼻を鳴らしていると、洗面所から戻ってきたユーリが「どうしたの」と同じように座り込んだ。
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