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第四部

誰のせい。

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 最近の僕はおかしい。ユーリとは家でずっと一緒だし、なんなら家じゃなくても大学でもほとんど一緒だし、バイトの送迎も頼んでないのにしてくれるし。なのに。
 なのになんで、こんなに淋しくて、満たされないんだろう。手も繋いでくれない。頭も撫でてくれない。抱きしめてもくれない。
 だけど自分のものだとはっきり主張だけはする。あぁもう、勝手だ。勝手すぎる。

「リヒト!」
「……っ」

 ぐいと腕を引っ張られて、後ろにもたついたところを抱きしめられた。その手が、背中に伝わる暖かさが、耳元にかかる吐息が、僕の体温を上げていく。だけど同時に涙が溢れてもくる。
 僕は一体、いつからこんなに泣くようになってしまったのだろう。

「はな、せ……」
「やだ」

 口から出る吐息が空に吸い込まれていく。なぜだかそれにすら虚しさを感じて、僕は「ううっ」と鼻をすすった。ユーリは僕を無理に向き合わせるようにはせず、涙で濡れた僕の頬を慰めるように頬を擦り寄せてきた。

「ね、さっきの話、どういうこと?」
「……言いたくない」
「魔力源は憎しみだったの?」
「……最低だろ」

 なんとかそれだけを言えた。
 知られたくなかった、なんて、都合がいい話だと思う。魔族は生まれつき高い魔力を持って生まれてくるんだ、と思っていてほしかった。

「ごめん、ごめん、ユーリ。僕は」
「俺はそんなことより、情が移って云々のほうが気になる話なんだけど」
「そんなことって……!」

 ユーリの腕を強く振り解いて、ユーリに向き直る。その目は優しくて、僕を責めてはいなかった。

「ね、リヒト。俺は自惚れていいんだよね?」
「……本当、最悪だ」
「俺は最高だけど」

 近づくユーリの顔に目を閉じかけ、でも、とやっぱり開いた。また勝手に期待するのは嫌だ。悲しい。

「目、閉じてくれないんですか。リヒトさん?」
「だって……、最近、なんか、してくれないし。僕だけ期待してるみたいで、やだ」
「んー、それはわざとかな」
「は?」

 待て。聞き捨てならない台詞を言った気がする。
 下から睨みつける僕を軽く笑って、ユーリが「ごめん」と思ってもない言葉を発した。その目も、口も、明らかに僕を小馬鹿にしている。

「わざと?」
「だってリヒトがあんまりにも可愛いからさ、どこまで我慢出来るかなって」
「我慢って……」

 じゃあ、なんだ、僕はこの一週間、ユーリにからかわれていたのか? じわ、と涙が迫り上がってくるのがわかって、僕は「馬鹿じゃないのか!」とつい声を張り上げて背を向けた。

「ごめんってば。ほら、ちゃんとキスするから。リヒト、ね? こっち向いて?」
「やだ」
「謝るから。もうしないから。ね?」

 そう言ってはいるが、ユーリは全然余裕そうだ。
 僕だけがユーリを求めて、僕だけがドキドキして、恥ずかしい思いまでして。馬鹿なのは、僕のほうだ。でも、それでも。
 僕はコートのフードを深く被ってから振り返り、髪の隙間からユーリを覗くように見上げた。

「……して」
「何? 聞こえない」

 ユーリが僕の頬を優しく撫でる。その手つきの熱がまるで行為中みたいで、僕の口からは「んっ」と意図せず声が漏れた。
 嘘つき。例え聞こえてなくたって、僕が何をしてほしいかぐらい、わかってるくせに。

「キス、して」
「いいよ」

 柔らかくて暖かい感覚に、身体中の血が沸騰するくらい熱くなる。少しだけ口を離したユーリが「口、開けて?」と言ってくるのに大人しく開きかけ、僕は「や、やだ」と慌ててユーリから離れた。

「……リヒト?」

 ユーリは笑顔だけど、少し怒っているのか、口の端がひくひくと引きつっている。

「ち、違う。その、これ以上、は、我慢出来なくなる、から」

 恥ずかしさで耳まで真っ赤になりながら言い切れば、ユーリも珍しく頬を染めて、口元を隠して僕を見下ろしていた。

「それはズルすぎでしょ」
「ユーリ……?」

 ユーリは大きく息を吐いたかと思うと、両肩にそれぞれ下げていた鞄を僕に押しつけてきた。

「持ってて」

 意味がわからないまま、とりあえず言われるままに両手で抱えた。僕の鞄が思ったより重くて、少し申し訳ない気持ちになってしまう。けれど、ユーリはそんな僕の思いなど余所に、軽く僕を横抱きにした。

「ユーリ!?」
「このまま外でヤッてもいいけど、流石に寒いし。早く帰ろっか。リヒトが嫌って言っても、逃がしてあげない」

 いつもならやめろって言えるのに、熱に浮かされた頭じゃ何も考えられなくて、僕も大人しく「ん……」とユーリの熱を感じることしか出来なかった。
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