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第二部

洗ってるだけ

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 湯気が多少こもっているとはいえ、それでもかなりはっきりとユーリの姿が見える。つまり、僕の姿も見えるということ。
 数え切れないくらいユーリの身体は見てきたし、僕の身体も同じくらい見られてきたけれど、それとこれとは別だ。タオルが落ちないよう軽く手で押さえつつ、ユーリが用意してくれた椅子に座った。
 シャワーを捻り、手でお湯の調整をしていたユーリが「本当はさ」と僕を、厳密には僕が座る椅子に視線を向けながら笑った。

「真ん中が開いてるやつがよかったんだけど、ちょうど売り切れててさ。リヒトもそっちのがいいでしょ?」
「よくない。むしろこっちでよかったよ」

 売り切れグッジョブ。真ん中に穴だなんて、そんなのバランスが悪いし、何よりユーリにナニをされるかたまったもんじゃない。それこそ身体を洗うどころではなくなってしまう。
 ユーリはシャワーを片手に持ちながら、僕の髪をゆっくり濡らしていく。その手つきが暖かく、まるでユーリに頭を撫でられているような錯覚に陥ってしまう。

「……っ」

 駄目だ。意識した途端、身体に熱が集まっていく。シャンプーをしているせいで目を開けられないが、これは絶対、今、大変なことになっているに違いない。それを隠すためにも、僕は身じろぎをするフリをして手を前へと持ってきた。

「リヒト、どう? 気持ちいい?」
「ん……っ」

 僕のいいとこを知っているユーリは、普段“気持ちいい?”なんて聞くことはない。それが妙に新鮮で、僕は違うことを考えてしまう。

「目、開けていいよ」

 言われて開ければ、身体のいたるところに赤い跡をつけた僕が鏡に写っていた。その姿にまた恥ずかしくなって、思わず背中が丸くなる。

「リーヒト、背中伸ばして。洗えないよ?」
「う、うん……」

 仕方なく伸ばせば、スポンジでふわふわにした泡が、ユーリの手から僕の背中へと伝わってきた。手が背中、うなじ、腰に触れるたび、僕の口からは「んっ」と意図しない甘い吐息が漏れる。
 ユーリのことだからてっきり意地悪してくると思ったのに、僕の予想とは反対に、ユーリの手は真剣に僕を綺麗にしていく。

「座ったままだとここ、綺麗に出来ないね?」
「ひうっ」

 ここ、とユーリの指がつついたのは、椅子に面した部分だ。近くを手が行き来しているだけだというのに、僕の身体は情けなく、その感触を快楽として拾い上げていた。

「ははは。リヒト、そんなに身体を揺らしてどうしたの?」

 わかってて言ってるしやってるんだ。だったら僕も素直になんて言ってやるもんか。

「こ、こそばいんだ。洗うならちゃんと洗えよ」
「へぇ……、それは失礼しました。それじゃ次は前ね」

 ユーリが背中側から移動してくる。僕は完全に勃ち上がったソレを見られたくなくて、反射でまた背中を丸くして慌てて隠す。

「じ、自分で洗えるから。ユーリは早く湯船に入りなよ」
「さっき、ちゃんと洗えって言ったばかりだよね? それとも何、リヒトは何か困ることでもあるの?」
「それは……っ」

 悔しい。だけどユーリに慣らされた身体は逆らうことなど出来ず、おずおずと前を曝け出す形を取る。タオルの上からでもわかるソレに、ユーリの顔がにやりと歪んだ、気がした。

「じゃ、まずは上からね」
「……んっ」

 手が鎖骨を滑り、肩、二の腕、肘、指先と進んでいく。まるで指を絡め合うような動きに、僕は恥ずかしくなって反対方向へと顔を向けた。
 そのまま手は脇の下へ入り、そこも念入りに指先が行き来する。そのたびに僕は「んっ」と鼻から息を漏らすような声を出し、身体をびくびくと反応させた。

「次は、ここ」
「ひあっ」

 胸の先端を摘まれ、コリコリとこねるような動きに思わず声が出てしまう。赤くなったそこは、ユーリの動きに合わせるようにさらに赤く、ぷっくりと膨らんでいくのだからたまったもんじゃない。

「ユー、リ、これ、洗ってる……?」
「そうだよ。洗ってって言ってたしね」

 あくまでも洗っていると言い張るつもりなのか。
 自分が言い出したことではあるが、正直、もう限界が近かった。ユーリにちゃんと触ってほしいし、早くユーリを受け入れたいとまで思っている。
 けれど洗えと言ったのは自分だし、という葛藤が、僕の口から素直な言葉を言うのをギリギリのラインで遮っていた。

「タオル取るよ」
「へ?」

 頭の中でぐるぐると考える間にもユーリは上半身を洗い終え、力の入っていない僕の手から簡単にタオルを剥ぎ取ってしまう。はち切れそうなばかりに勃つソレが恥ずかしく、僕は手で自分の顔を覆った。

「リヒト、汚しちゃってるね。今綺麗にしてあげる」
「ぇ……ぁ……やだ、あっ」

 ユーリは僕のモノに舌を這わせ始め、先端からトロトロと溢れ出る液体を慈しむように舐め取っていく。裏スジをチロチロと舌が這い、カリ部分を手で軽くしごかれる。

「あ、ああっ、んっ……だめ、ユーリっ」

 我慢出来ず、僕はユーリの顔目掛けて欲を吐き出してしまう。ユーリは金の髪から零れ落ちる白濁を指先に絡め、それを見せつけるようにぺろりと舐め取る。

「あーあ、俺まで汚れちゃったね。リヒトに言われて綺麗にしただけなのに」
「ち、違わない、けど、今のはユーリが、その……」

 恥ずかしくてそれ以上が言えない。口をぱくぱくさせる僕にユーリは笑って、両手で頬を挟むように触れてきた。

「うん、何? 言って? リヒトの言うことなら、なんだって叶えるよ?」

 その甘い声と響きは、なんてこうも簡単に僕をぐずぐずにしてしまうのだろう。

「……ユーリの」
「うん」
「ユーリの、全部、欲しい」
「いいよ」

 そうして重ねあった唇は、少し僕の味が残っていて苦かった。
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