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第二部

知らない関係

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 ユーリの言ってくれた通り、両親は特に何も問題なく接してくれた。食卓にはナギもいて、僕は少し動揺したけれど、それも何もなく、むしろユーリとナギの仲は良好に……見えなくもなかった。
 いや、あれはナギがユーリに怖がってたようにも見えたけど、もう深く考えないほうがいいんだろうな。
 そうして僕はまた、あのボロアパートでの一人暮らしに戻っていったのだけど……。

「はぁ……? バーベキュー、ですか?」

 お盆明け。久しぶりに居酒屋バイトに出た僕は、店長から言われた言葉を繰り返した。
 休憩室のロッカーに荷物を押し込んで、Tシャツを脱ぐ。制服に袖を通そうとして「はよー!」と入ってきたスイが僕の身体を見て少し固まった。

「リッちゃん、やだ……」
「ご、ごめん、すぐ着替えるから」
「じゃなくて」

 スイは無邪気に近くにくると、僕の背中をすーっと指先でなぞっていく。

「ひゃあ!? な、何、え?」
「いや、リッちゃん、すごい愛されてんだなって思ったの。あたし、こんなにされたこともしたこともないよ?」

 一瞬何を言われたのかわからず、制服を着る手が止まったままになる。店長も「ったく」と呆れている。僕はしばらく、いや一瞬だけ頭を捻り、それからすぐに壁につけてある姿見鏡に背中を向けた。

「うわぁ!?」

 虫刺されでは済まされない赤い跡がついている。考えられるのは、実家から帰った日だ。ユーリの家に着くなり玄関でなし崩し的に抱かれ、その後リビングでもやられ、しまいには寝室でもことに及んだ。
 あれ以来、バイトを再開してるから、跡をつけられたのはその日しかない。

「いや、あの、これは……、あ、店長、バーベキュー! バーベキューがなんでしたっけ?」

 どう誤魔化すのがいいかわからず、とりあえずスイが来る前の話題へと強引に戻した。スイが「バーベキュー!?」と店長に目を光らせている間に、僕は急いで制服を着込む。
 店長は引き出しから紙を一枚取り出すと「ほらよ」とスイに渡した。僕も横から覗き込み、書かれた文字に目を走らせる。

「えぇと“マオさん、ご無沙汰しております。今年もバーベキューいかかでしょうか?” 店長、これは一体……」

 ちなみにマオ、というのは店長の本名だ。けれど誰も名前で呼んでいるのを聞いたことがないし、店長をマオさん、と呼ぶ勇気も度胸もない。これから呼ぶこともないと思う。
 店長は心底面倒くさそうに頭を掻いて、卓上カレンダーで次の火曜日を示した。

「この日、知り合いの寺でバーベキューすっから、お前らも来ないか? 店はどうせ休みだからよ」
「バーベキュー! あたし行く! 行きます!」
「スイは参加決定、と。リヒト、どうすんだ?」

 スイがこういったイベントが好きなのは前世まえからだ。それが変わっていないのは嬉しいけれど、僕がバーベキューに行くかどうかは別問題になる。

「んー、ちょっと保留で大丈夫ですか?」
「構わんが、あれか、例の奴が心配なのか?」

 例の奴、暗にユーリのことを言われて、僕は「まぁ」と苦笑いをした。スイが足取り軽く店に出ていくのを見送ってから、

「バイト先の人とバーベキューなんて知ったら、僕が何されるか……」

と苦笑いをする。店長は「ナニを、ね」と含み笑いをして、全てを見通すように目を細めた。

「案外満更でもないだろうが。それはそれとして、いいぞ。連れてきて」
「いや、ユーリは部外者でしょ……?」
「人手は多いに限る。それに何より、ゆっくり話してみたいしな」

 視線を宙に彷徨わせ、何かを思い出すようなその仕草は、きっとここ最近じゃない。二人が対峙したあの時を思い出していたんだろう。
 ボクが到着した時には、既に魔王様は斬られた後だったから。僕の知らないユーリの姿を、店長は知っている。なぜかそれが無性にモヤッとして、僕は、自分を誤魔化すように店へと出た。
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