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第二部

梅雨の終わり

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 眩しさに目が覚めると、始めに自分の部屋の天井が視界に入ってきた。痛む身体を起こし、ベッドから降りてカーテンを開ける。朝、というには登りすぎた太陽に、僕は今何時なのかと首を傾げた。
 昨夜、確かナギに神社で刺されそうになって、ユーリが来て、それから薬を……。この気怠さは、おそらくそのまま事に及んだと示しているわけだけど、なら、ユーリは僕とナギを一人で運んできたのだろうか。
 ……あれ? まさかナギの見てる前でそんなことをした? いやいや、いくらユーリでも見ながらするなんてことは……。

「おはよ、リヒト」

 いきなりドアが開かれ入ってきたのは、やけに上機嫌なユーリだ。

「え、あ、うん? えぇと、おはよう……?」

 反射で返してしまったが、なんでユーリが実家にいるんだろう? よほど考えが顔に出ていたのか、ユーリは可笑しそうに笑って部屋に入ってきた。そのまま遠慮なくベッドに座ると、隣に座れと言うように隣をポンポンと叩いてくる。
 僕の部屋で僕のベッドなんだけど、と苦笑いしつつも隣に座る。そのままユーリの指先が、絡めるように僕の指先をつつくものだから仕方なく絡めて。

「リヒトのご両親には上手く言っておいたから。まさか弟が兄を刺そうとしてました、なんて知ったら卒倒しちゃうでしょ?」
「まぁ、うん……」

 はっきりとは言わなかったけど、ナギとのあの日々のことも指しているのだろう。どう言ったかは知らないけど、ユーリが上手くやったのなら、まぁ、きっと、大丈夫。

「んで、俺とリヒトは恋人ですって言っといたから」
「うん……、うん!?」

 絡めた指をそのままに、僕は弾かれたようにユーリを見上げた。そこで初めてユーリの顔を改めて見て、にやりと悪戯っ子のような笑顔にため息をついた。

「……父さんと母さんはなんて?」
「んー?」

 次第に近づくユーリの顔に、僕も目を閉じてそれを受け入れる。何度か軽く啄まれただけで、すぐにユーリは離れていった。

「ん……」
「こういうこと」
「問題なかったんだ?」

 肩にもたれかかれば、ユーリは「ちょっと待って」と僕を一旦離れさせ、少し距離を取るよう座り直した後「どうぞ?」と自分の膝を軽く叩いた。ユーリのやりたいことがわかって、僕は少し吹き出すように笑い返し、ゆっくりとユーリの膝に頭を乗せた。
 少し固い感触に、頭の置く位置を探るよう少し動かしていく。ちょうどいい位置で止まれば、ユーリが僕の耳をくすぐるように指先で触れた。

「ん、ちょっとユーリ。父さんたちがいるんじゃないの……?」

 くすぐったさとは別の感覚が奥から沸き起こり、僕は身じろぎをして、声を押し殺すように口に手を当てる。

「下にいるよ。俺はリヒトの様子を見に来ただけだから」
「じゃ、なおさら……っ」
「俺はリヒトの頭を触ってるだけだし?」

 よく言う。口に手を当てたままで睨めば、ユーリは「涙目」とからかうように笑った。

「俺としてはリヒトの部屋でヤるのもいいんだけど、汚したシーツのことを考えると申し訳ない気持ちのが大きくて」
「よく言うよ。毎回毎回、シーツを洗うメイドさんたちの気持ち、考えたこともないくせに」
「ちゃんと考えてました。あ、でも」

 触れるユーリの指先がぴたりと止まった。

「流石に血でぐっしょぐしょにした時は何人か倒れた気がする」
「あぁ……」

 ぼかしてはいるが、ユーリは前世むかし、僕の血肉を文字通り食らったことがある。そもそも人間のユーリが、魔族だったボクを食らうことが可笑しいのだけど、あの時のユーリには、いや今のユーリにとっても、それはなんら可笑しいことではなかったのだろう。
 僕は身体を起こし「それで?」とベッドから腰を上げた。ユーリが若干悲しげに眉を寄せるが、流されてはいけない。

「ただ様子を見に来たわけじゃないんだろ?」

 ユーリもまた「まぁね」と立ち上がり、先にドアへと向かった。

「ご飯出来たから起こしてきてくれる? って頼まれてたんだよね」
「もっと早く言えよ」

 ドアを開ければ、一階からいい匂いが漂ってくる。それに腹の音がなって押さえれば、ユーリがまたからかうように笑った。
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