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第二部
誰の名を呼ぶのか
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実家へ帰った俺は、それなりにまぁまぁゆったり、ベッドの上で過ごしていた。
時にアプリに入れた監視機能を使い自分のマンションの様子を見たり、リヒトのスマフォに入れたGPSでどこに行ったか眺めたり、それこそ盗聴器でリヒトのアパートでの独り言を聞いたりと、実に充実した毎日を送っていた。
どうやらリヒトは、俺に相応しくないとか、別れたほうがいいのかとか、変なことを考えているみたいだ。これは帰ったら可愛がってあげないと。
変なことを考える暇もないほどに、その目に俺を焼き付けて、声は俺だけを呼んで、手も足もその身体も、俺を追いかけて縋るためにつけたままにしてるんだってわからせないとな……。
「ユーリさん、またリヒトさんのことを考えておりますのね」
「……アヤメ。今さ、俺、リヒトを考えてリヒトのためにリヒトへ捧げる聖なる儀式をしていたんだけど」
「何が聖なる儀式ですか。自慰行為とお認めなさいな」
そうしてアヤメが扇で示したのは、剥き出しの大切な聖剣だ。最近使ってないため元気いっぱいで、今ならどんなに固く閉ざされた扉でもこじ開けれそうだ。
むしろ、義弟とはいえ男の部屋に勝手に入ってくるとは何事だと思ったが、アヤメがわざわざ足を運んだということは、何かしら嫌な問題でも起きたのだろう。
「兄貴となんかあった?」
スマフォに録画してあったリヒトの自慰行為を眺めつつ、俺は聖剣を研ぐ仕草を続ける。
「わたくしではございません。ユーリさん、貴方の問題ですよ?」
「俺? ……くっ、出る……っ」
聖剣の力が解き放たれ、周囲に浄化の雨が降り注いだ。アヤメからはゴミを見るような目を向けられたが、俺のこれは前世からの悪癖でもある。今さらアヤメが止められるものでもない。
「で、俺が何」
「ユーリさん。貴方、どこぞの馬の骨とも知らぬ御令嬢と、婚約したのですか?」
「するわけない」
今度はリヒトの、シャワーを浴びる動画に切り替える。お湯の暖かさで、いつもは白いリヒトの肌がほんのり赤く染まっていき、俺はまた聖剣を磨き始めた。
「でしたら早めに対策しないと先手を打たれますよ? ああいう輩は、そういったことには手が早いんですから」
「ま、リヒトはそういうとこ疎いし、知らないまま片付ければいいと思ってるよ。……ん、リヒトやば、可愛いっ」
「……義弟でなかったら、その剣をへし折ってやるところですよ」
そんな会話をしていたのが、八月五日頃だったと思う。
いつの間にやら勝手に婚約パーティなんぞが催され、そのインストが上げられたのが十日の話。ただ、その日のうちに盛大な婚約破棄をしてやった。
いや、そもそも婚約などしていないのだが。
そして問題の十一日だ。
実家に帰ったはずのリヒトに連絡してみれば、何やら弟に襲われているではないか。しかもリヒトのケツに入れたようで、リヒトはひんひん痛がっていた。かわい、いや、弟だろうが許されると思うなよ。
アヤメに事情を説明して、兄貴や両親には上手く言っておいてくれと頼み込み、激混みの飛行機のチケットを取り、帰ってきたのが十五日。
そして今、俺はリヒトをこの手に抱きしめていた。
「ユーリ、本物……?」
不安そうに俺の頬を両手で挟み、何度か摘んだ。俺の伸びた顔を見て、リヒトが「本物だ」と顔を綻ばせた。
「リヒト」
「ん、ん……ぁ、ふあぁ」
その小さな口に、噛みつくような深い口づけを落とす。激しく求める俺に、リヒトが必死に応えようと舌を絡ませ、俺はさらに舌に緩く噛みつく動きで応える。
腰に回していた手をそのまま臀部に移動させ、そっとリヒトの弱い部分に触れる。リヒトの身体が大袈裟なくらいに跳ねて離れていく。
「まっ、て……。その、今は、ちょっと、痛くて」
「知ってるよ」
俺のリヒトに傷をつけたのは許せない。その痛みに気を取られたままヤッても気に食わない。リヒトが痛みを、羞恥を、怒りを、喜びを、悲しみを感じるのは俺だけでいい。
だから俺は、シャツの胸ポケットから小さな円形の容器を取り出し、リヒトにも見えるようにずいと差し出した。
「軟膏……?」
「そう。自分で塗れないでしょ? 俺が塗ってあげるよ」
リヒトの顔が耳まで真っ赤になる。恥ずかしさで「いいよ」と俯くのに対し、俺はわざとらしく眉を寄せリヒトの顔を覗き込んだ。
「心配なんだよ。だから、ね、俺にやらせて?」
「……っ」
こう言えばリヒトが断れないことくらい知っている。
基本リヒトは優しい。そして頼ってくる奴や、お願いをしてくる奴に、甘い顔ばかりをする。それを逆手に取って、俺がリヒトを独占するぐらい今さら何も思わない。
けれど同時に、リヒトは甘えさせられることに弱い。だからそれも、俺が満たすことで叶えてあげる。俺がいないと甘えられないくらい、ドロッドロに溶かしてあげるよ。
「でも、ここじゃ……。神社だし、ナギもいるし」
「早いほうがいいよ。大丈夫。弟くんも大好きなお兄ちゃんの怪我は、早く治したいはずだし。ね?」
再びリヒトを抱きしめて、落ち着かせるように頭を優しく撫でる。リヒトにバレないよう弟くんに視線をやった。
木に繋がれ、口を塞がれた哀れな弟くん。
見せてあげるよ。君の兄さんが、君が見たことのない表情で、誰を求めて、誰の名を呼ぶのか。
時にアプリに入れた監視機能を使い自分のマンションの様子を見たり、リヒトのスマフォに入れたGPSでどこに行ったか眺めたり、それこそ盗聴器でリヒトのアパートでの独り言を聞いたりと、実に充実した毎日を送っていた。
どうやらリヒトは、俺に相応しくないとか、別れたほうがいいのかとか、変なことを考えているみたいだ。これは帰ったら可愛がってあげないと。
変なことを考える暇もないほどに、その目に俺を焼き付けて、声は俺だけを呼んで、手も足もその身体も、俺を追いかけて縋るためにつけたままにしてるんだってわからせないとな……。
「ユーリさん、またリヒトさんのことを考えておりますのね」
「……アヤメ。今さ、俺、リヒトを考えてリヒトのためにリヒトへ捧げる聖なる儀式をしていたんだけど」
「何が聖なる儀式ですか。自慰行為とお認めなさいな」
そうしてアヤメが扇で示したのは、剥き出しの大切な聖剣だ。最近使ってないため元気いっぱいで、今ならどんなに固く閉ざされた扉でもこじ開けれそうだ。
むしろ、義弟とはいえ男の部屋に勝手に入ってくるとは何事だと思ったが、アヤメがわざわざ足を運んだということは、何かしら嫌な問題でも起きたのだろう。
「兄貴となんかあった?」
スマフォに録画してあったリヒトの自慰行為を眺めつつ、俺は聖剣を研ぐ仕草を続ける。
「わたくしではございません。ユーリさん、貴方の問題ですよ?」
「俺? ……くっ、出る……っ」
聖剣の力が解き放たれ、周囲に浄化の雨が降り注いだ。アヤメからはゴミを見るような目を向けられたが、俺のこれは前世からの悪癖でもある。今さらアヤメが止められるものでもない。
「で、俺が何」
「ユーリさん。貴方、どこぞの馬の骨とも知らぬ御令嬢と、婚約したのですか?」
「するわけない」
今度はリヒトの、シャワーを浴びる動画に切り替える。お湯の暖かさで、いつもは白いリヒトの肌がほんのり赤く染まっていき、俺はまた聖剣を磨き始めた。
「でしたら早めに対策しないと先手を打たれますよ? ああいう輩は、そういったことには手が早いんですから」
「ま、リヒトはそういうとこ疎いし、知らないまま片付ければいいと思ってるよ。……ん、リヒトやば、可愛いっ」
「……義弟でなかったら、その剣をへし折ってやるところですよ」
そんな会話をしていたのが、八月五日頃だったと思う。
いつの間にやら勝手に婚約パーティなんぞが催され、そのインストが上げられたのが十日の話。ただ、その日のうちに盛大な婚約破棄をしてやった。
いや、そもそも婚約などしていないのだが。
そして問題の十一日だ。
実家に帰ったはずのリヒトに連絡してみれば、何やら弟に襲われているではないか。しかもリヒトのケツに入れたようで、リヒトはひんひん痛がっていた。かわい、いや、弟だろうが許されると思うなよ。
アヤメに事情を説明して、兄貴や両親には上手く言っておいてくれと頼み込み、激混みの飛行機のチケットを取り、帰ってきたのが十五日。
そして今、俺はリヒトをこの手に抱きしめていた。
「ユーリ、本物……?」
不安そうに俺の頬を両手で挟み、何度か摘んだ。俺の伸びた顔を見て、リヒトが「本物だ」と顔を綻ばせた。
「リヒト」
「ん、ん……ぁ、ふあぁ」
その小さな口に、噛みつくような深い口づけを落とす。激しく求める俺に、リヒトが必死に応えようと舌を絡ませ、俺はさらに舌に緩く噛みつく動きで応える。
腰に回していた手をそのまま臀部に移動させ、そっとリヒトの弱い部分に触れる。リヒトの身体が大袈裟なくらいに跳ねて離れていく。
「まっ、て……。その、今は、ちょっと、痛くて」
「知ってるよ」
俺のリヒトに傷をつけたのは許せない。その痛みに気を取られたままヤッても気に食わない。リヒトが痛みを、羞恥を、怒りを、喜びを、悲しみを感じるのは俺だけでいい。
だから俺は、シャツの胸ポケットから小さな円形の容器を取り出し、リヒトにも見えるようにずいと差し出した。
「軟膏……?」
「そう。自分で塗れないでしょ? 俺が塗ってあげるよ」
リヒトの顔が耳まで真っ赤になる。恥ずかしさで「いいよ」と俯くのに対し、俺はわざとらしく眉を寄せリヒトの顔を覗き込んだ。
「心配なんだよ。だから、ね、俺にやらせて?」
「……っ」
こう言えばリヒトが断れないことくらい知っている。
基本リヒトは優しい。そして頼ってくる奴や、お願いをしてくる奴に、甘い顔ばかりをする。それを逆手に取って、俺がリヒトを独占するぐらい今さら何も思わない。
けれど同時に、リヒトは甘えさせられることに弱い。だからそれも、俺が満たすことで叶えてあげる。俺がいないと甘えられないくらい、ドロッドロに溶かしてあげるよ。
「でも、ここじゃ……。神社だし、ナギもいるし」
「早いほうがいいよ。大丈夫。弟くんも大好きなお兄ちゃんの怪我は、早く治したいはずだし。ね?」
再びリヒトを抱きしめて、落ち着かせるように頭を優しく撫でる。リヒトにバレないよう弟くんに視線をやった。
木に繋がれ、口を塞がれた哀れな弟くん。
見せてあげるよ。君の兄さんが、君が見たことのない表情で、誰を求めて、誰の名を呼ぶのか。
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