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第二部
帰ってきた
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次の日から、ナギは夜になると僕の部屋へとやってきた。鍵をかけられる部屋ではないし、元からナギも僕に引っついてばかりだったから、両親としては僕の部屋にナギが来るのは珍しいことじゃなかった。
「ん……、いた……っ」
ナギに臀部を向け、両手を後ろに引っ張られながら奥を突かれる。流石に三日目になると僕も慣れて、正直入れるなら、せめて慣らしてからにしてほしいと思うようになっていた。
「兄さんっ、なんで、なんで勃たないんだよ……っ」
「いっ……」
そんなことを言われても、痛いものは痛い。人って快楽より痛みのが勝つのかな、なんて考えながら「だって」と喉から声を押し出した。
「僕にとって、ナギは……っ、弟、だからっ」
「兄さん……っ」
ナギが苦しげに息を詰め、僕の中で果てていく。中で出された白濁が、激しく擦られ出来た傷に染みて、僕はまた「いい……っ」と顔をしかめた。
血が出ることはなくなったものの、湯船に浸かる時、椅子に座る時、一番困ったのは用を足す時だ。どうしても拭かないといけないため、最初は痛みに耐えて拭いていたものの、ウォシュレットがいいとスマフォで見てからはウォシュレットのお世話になっていた。
治まったソレを中から出し、ナギは僕を抱きしめていた。
「明日、花火行こうね」
「……約束だから」
どうせ十六日には帰るのだ。花火を見に行くことくらい、なんでもない。それが終われば、僕はまたボロアパートへ帰る。
そうしたらユーリが……。いや、もう離すって決めたんだ。きちんと話をして、お別れをしよう。
翌日、母さんが用意してくれた浴衣を着込み、二人で花火会場まで歩いていく。人の流れに沿って歩く途中、ナギが「こっち」と横道に引っ張っていき、僕は人の流れから外れた場所を歩いていた。
「近道なんだよ」
「……ふうん」
本当は近道じゃないことぐらい、僕だって知っている。でもここで拒否をして、ナギを悲しませてしまうほうが、自分が傷つくよりも、だいぶ嫌だった。
そうして着いたのは、昔よく初詣に行っていた神社だ。そんなに大きくないこの神社は、初詣の時にお守りを扱うだけの、本当に小さな神社。周囲に木が生え、ここだけ森みたいになっているのが、小さい時は堪らなく怖かったのを覚えている。
「……花火は?」
その境内に入りながら、先を歩くナギに話しかける。ナギは無言で歩き、社に着いたあたりでくるりと振り返った。
「花火なんてどうでもいいよ。ねぇ兄さん、明日で帰るんだよね?」
「うん」
だからこの歪んだ行為も、今日で終わり。
そう告げようとして、ナギの手に光る刃物に、僕は息を呑んだ。
「ナギ、それ、どういうつもり……?」
じり、と後ろに下がる。ナギが刃物を、刃渡り二十センチほどの包丁をチラつかせながら、ゆっくり距離を詰めてくる。
「だって兄さん帰るんだろ。帰らせない。一緒にここで死ぬんだ……!」
「待って、ナギ、落ち着いて。わかった、わかったから。冬休みにもまた来るから。その時にまた、ナギの相手するから、だから、な? それ下ろそう?」
「嫌だ! 兄さんは俺の、俺だけの兄さんだ!」
ナギが包丁を振りかぶり、地面を蹴った。早く逃げないと駄目なのに、身体は全く言うことを聞かない。目を閉じ、両手を庇うように突き出した。
駄目だ――
「リヒト!」
砂利の擦れる音がした。
「ユーリ……?」
ナギを羽交い締めにして、険しい顔をしたユーリがいた。
なんで? 今帰ってるんじゃなかったの? どうしてここがわかったの?
でも、でも、ユーリがいる。そのことが何よりも嬉しくて、僕は「ユーリ!」ともう一度名前を呼んだ。
「弟くん。悪いけど、リヒトの心中相手は俺って決まってるんだ。手を引いてもらえる?」
ユーリがナギの手をギリギリと捻ると、かつん、と音がして包丁が砂利へと落ちた。
「離せ! 貴方なんか、貴方なんか、所詮他人のくせに!」
「血でしか繋がりを保てない弟くんには、言われたくないなぁ」
いつもの調子で軽く言い、ユーリは「よっ」と掛け声と共にナギの手をひとつにまとめ、恐らく僕用に常備している紐で縛り上げた。ナギは抵抗するが、ユーリの馬鹿みたいな力には敵わず、その紐の先を木に括りつけられてしまう。
「何を……むぐっ」
極めつけに口を布で塞がれ、まるで黙れと言わんばかりだ。
「リヒト、大丈夫?」
唖然とする僕の頬を、ユーリの手が慈しむように撫でる。その温もりに我に返って、僕は「ユーリ」と服の端を掴んだ。
「なんでっ、だって、まだ帰ってこないはずじゃ……」
ユーリはそんな僕の手を取って、それから指先にそっと口づけをし、
「帰ってきた」
とあっけらかんと笑ってみせた。
「ん……、いた……っ」
ナギに臀部を向け、両手を後ろに引っ張られながら奥を突かれる。流石に三日目になると僕も慣れて、正直入れるなら、せめて慣らしてからにしてほしいと思うようになっていた。
「兄さんっ、なんで、なんで勃たないんだよ……っ」
「いっ……」
そんなことを言われても、痛いものは痛い。人って快楽より痛みのが勝つのかな、なんて考えながら「だって」と喉から声を押し出した。
「僕にとって、ナギは……っ、弟、だからっ」
「兄さん……っ」
ナギが苦しげに息を詰め、僕の中で果てていく。中で出された白濁が、激しく擦られ出来た傷に染みて、僕はまた「いい……っ」と顔をしかめた。
血が出ることはなくなったものの、湯船に浸かる時、椅子に座る時、一番困ったのは用を足す時だ。どうしても拭かないといけないため、最初は痛みに耐えて拭いていたものの、ウォシュレットがいいとスマフォで見てからはウォシュレットのお世話になっていた。
治まったソレを中から出し、ナギは僕を抱きしめていた。
「明日、花火行こうね」
「……約束だから」
どうせ十六日には帰るのだ。花火を見に行くことくらい、なんでもない。それが終われば、僕はまたボロアパートへ帰る。
そうしたらユーリが……。いや、もう離すって決めたんだ。きちんと話をして、お別れをしよう。
翌日、母さんが用意してくれた浴衣を着込み、二人で花火会場まで歩いていく。人の流れに沿って歩く途中、ナギが「こっち」と横道に引っ張っていき、僕は人の流れから外れた場所を歩いていた。
「近道なんだよ」
「……ふうん」
本当は近道じゃないことぐらい、僕だって知っている。でもここで拒否をして、ナギを悲しませてしまうほうが、自分が傷つくよりも、だいぶ嫌だった。
そうして着いたのは、昔よく初詣に行っていた神社だ。そんなに大きくないこの神社は、初詣の時にお守りを扱うだけの、本当に小さな神社。周囲に木が生え、ここだけ森みたいになっているのが、小さい時は堪らなく怖かったのを覚えている。
「……花火は?」
その境内に入りながら、先を歩くナギに話しかける。ナギは無言で歩き、社に着いたあたりでくるりと振り返った。
「花火なんてどうでもいいよ。ねぇ兄さん、明日で帰るんだよね?」
「うん」
だからこの歪んだ行為も、今日で終わり。
そう告げようとして、ナギの手に光る刃物に、僕は息を呑んだ。
「ナギ、それ、どういうつもり……?」
じり、と後ろに下がる。ナギが刃物を、刃渡り二十センチほどの包丁をチラつかせながら、ゆっくり距離を詰めてくる。
「だって兄さん帰るんだろ。帰らせない。一緒にここで死ぬんだ……!」
「待って、ナギ、落ち着いて。わかった、わかったから。冬休みにもまた来るから。その時にまた、ナギの相手するから、だから、な? それ下ろそう?」
「嫌だ! 兄さんは俺の、俺だけの兄さんだ!」
ナギが包丁を振りかぶり、地面を蹴った。早く逃げないと駄目なのに、身体は全く言うことを聞かない。目を閉じ、両手を庇うように突き出した。
駄目だ――
「リヒト!」
砂利の擦れる音がした。
「ユーリ……?」
ナギを羽交い締めにして、険しい顔をしたユーリがいた。
なんで? 今帰ってるんじゃなかったの? どうしてここがわかったの?
でも、でも、ユーリがいる。そのことが何よりも嬉しくて、僕は「ユーリ!」ともう一度名前を呼んだ。
「弟くん。悪いけど、リヒトの心中相手は俺って決まってるんだ。手を引いてもらえる?」
ユーリがナギの手をギリギリと捻ると、かつん、と音がして包丁が砂利へと落ちた。
「離せ! 貴方なんか、貴方なんか、所詮他人のくせに!」
「血でしか繋がりを保てない弟くんには、言われたくないなぁ」
いつもの調子で軽く言い、ユーリは「よっ」と掛け声と共にナギの手をひとつにまとめ、恐らく僕用に常備している紐で縛り上げた。ナギは抵抗するが、ユーリの馬鹿みたいな力には敵わず、その紐の先を木に括りつけられてしまう。
「何を……むぐっ」
極めつけに口を布で塞がれ、まるで黙れと言わんばかりだ。
「リヒト、大丈夫?」
唖然とする僕の頬を、ユーリの手が慈しむように撫でる。その温もりに我に返って、僕は「ユーリ」と服の端を掴んだ。
「なんでっ、だって、まだ帰ってこないはずじゃ……」
ユーリはそんな僕の手を取って、それから指先にそっと口づけをし、
「帰ってきた」
とあっけらかんと笑ってみせた。
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