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第一部
そんな顔をしないでくれ
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三年生になってから三日目。
心も身体も、この二日間で相当やられてしまった。ちょうど今日は午後からの講義だし、午前はバイトのシフトにも入ってないし、学食の時間を狙って大学に行けばいい。
煎餅布団に丸くなり、頭から布団を被って、日の光を少しも浴びないようにして、真っ暗な中考える。
嫌だった。
確かに僕は嫌だったんだ。
アイフェルドに首筋を舐められたことも、拘束されたことも、胸を愛撫されたことだって。
ましてアイフェルドに身体を許すなんて吐き気がする。
じゃ、誰なら許すというのか。
それを考えた時、真っ先に頭に浮かんだのはユーリだったのだ。
「なんで、なんで……っ」
あれほど前世で苦しい思いをしたのに。
公務を終え、夜になれば抱かれる毎日。
一度、逃げようとしたことがあった。もちろんすぐに連れ戻されて、その日は特に酷く、強く、何度意識を手放そうとも、ユーリが僕を解放することはなかった。
それなのにユーリに抱いて欲しいなんて、本当に僕は狂ってる。アイフェルドの言う通り、変態なのかもしれない。
「わからない、わからないよ……」
でも確かに言える。
僕はユーリに触られるのが、口で言うほどには、嫌いではないのだと。
※※※
真っ白なレースのカーテン、サイドテーブルに置かれた一輪挿しには黃色の薔薇。
何より異様なのは、部屋中につたうアイビーの葉。どこから生えているのかわからないが、その葉は、ユーリが出入りする扉だけをよけ、それ以外が見えないほど部屋を埋め尽くしている。
そんな部屋の、中心に置かれたキングサイズのベッドの上で、ボクは抱えた膝に頭を埋めていた。
「全く。首輪をしてる限り逃げられるはずがないと、賢い貴方ならわかっているでしょう?」
「……」
ユーリがそう指差したのは、ボクの首につけられた例の首輪だ。ユーリの力で作られたこれは、ボクがどこに逃げようと、それこそ世界の果てで身を隠そうとも、必ずユーリに居場所を示すようになっている。
憎らしい気持ちと、半ば諦めにも近いため息を吐き出してから、ボクは「ねぇ」と抱えた膝に頭を埋めたまま声を出した。
「一体ボクをどうするつもり? もう魔王様はいないし、残された魔族や魔物も狩られてるってお前の近衛兵から聞いた。なら、なおのことボクを生かしている意味がわからない」
「……はぁ」
呆れたような、怒っているような、そんなため息が聞こえた。ボクは膝から顔を少しだけ覗かせて、自分の赤く腫れ上がった両手首を見てからまた顔を埋めた。
「こんなことやったって、もう何もない。もう何も、ないんだ……」
「あのさ」
「……ひぎっ!?」
痛みが走り、無理やり顔を上げさせられた。視界に入ってきた無表情にも近いユーリを見て、あぁ髪を鷲掴みにされたのだと気づいた。
「やめ、ろ……! 離せ!」
髪を掴む手を掴み返し、こちらも負けじと睨みつける。
「何もない? 離せ? はは、さっきまであんなに喘いでたこの口で、今さら何を言ってるの?」
「ふぐっ」
口内に指を突っ込まれ、そのまま指先で舌を押し込まれる。苦しさと悔しさで指を噛もうとしたが、さらに奥まで指を入れられ、ボクは「うっ」と餌付いてしまった。それでも指を抜こうとはせず、ユーリはただただ優しく微笑む。
「オレ、リヒトが好きだよ。ずっとずっと一緒にいたい。そのために魔王から引き離したし、あっちに憂いが残らないよう残党狩りもしてる。全部全部、キミのためなんだよ」
「うっ、がは……っ」
何がボクのためだ。こんなのはただの自己満でしかない。けれどそれを伝え続けるのは、もう無駄なんだろう。
ユーリが指を引き抜いたことで、ボクは出すに出せなかった胃液を思い切り吐き出した。口の中は酸っぱいし、苦いし、臭いだってきつい。ベッドのシーツももうぐちゃぐちゃだ。
だけどユーリはそんなことを気にしない。
むしろ片手で、自分のベルトを器用に外すと、そそり勃つ昂ぶりをボクの口へと押しつけてきた。咥えてたまるかと口を閉じ反抗的な目で見上げる。
「誘ってるんでしょ、それ」
「んん……!」
違うと言ってやりたいが、頬に当たるそれは蕩けてしまうほどに熱く、気を抜けば言われるままに口を開いてしまいそうだ。
「はぁ……。言うこと聞かない悪い子は、こうだよ」
「あっ」
髪を離されたかと思えば、ユーリは両手でボクの耳に触れてきた。撫でるようなその手つきに、ボクの口から声が出てしまう。それを逃さず、ユーリはその昂ぶりを口の中に押し込んでくると、そのままボクの頭を乱暴に動かしだす。
「ん、んんっ、ふうっ」
「くっ……、リヒト、いい、気持ちいいよ」
「んぐっ、んんあっ」
口内、喉の奥だけでなく、気管にまで達しそうなそれを咥えながら、ボクはそっと、視線を上げた。
「リヒト、リヒトっ、くっ……、好きだ、リヒト……!」
「んんんっ」
口に広がる苦みを喉の奥へと流し込む。
飲みきれなかった欲が口の端を伝っていく。
なぁ、満足したんじゃないのか? なんでそんなに、辛そうな顔で、いつもボクを抱くんだよ……。
心も身体も、この二日間で相当やられてしまった。ちょうど今日は午後からの講義だし、午前はバイトのシフトにも入ってないし、学食の時間を狙って大学に行けばいい。
煎餅布団に丸くなり、頭から布団を被って、日の光を少しも浴びないようにして、真っ暗な中考える。
嫌だった。
確かに僕は嫌だったんだ。
アイフェルドに首筋を舐められたことも、拘束されたことも、胸を愛撫されたことだって。
ましてアイフェルドに身体を許すなんて吐き気がする。
じゃ、誰なら許すというのか。
それを考えた時、真っ先に頭に浮かんだのはユーリだったのだ。
「なんで、なんで……っ」
あれほど前世で苦しい思いをしたのに。
公務を終え、夜になれば抱かれる毎日。
一度、逃げようとしたことがあった。もちろんすぐに連れ戻されて、その日は特に酷く、強く、何度意識を手放そうとも、ユーリが僕を解放することはなかった。
それなのにユーリに抱いて欲しいなんて、本当に僕は狂ってる。アイフェルドの言う通り、変態なのかもしれない。
「わからない、わからないよ……」
でも確かに言える。
僕はユーリに触られるのが、口で言うほどには、嫌いではないのだと。
※※※
真っ白なレースのカーテン、サイドテーブルに置かれた一輪挿しには黃色の薔薇。
何より異様なのは、部屋中につたうアイビーの葉。どこから生えているのかわからないが、その葉は、ユーリが出入りする扉だけをよけ、それ以外が見えないほど部屋を埋め尽くしている。
そんな部屋の、中心に置かれたキングサイズのベッドの上で、ボクは抱えた膝に頭を埋めていた。
「全く。首輪をしてる限り逃げられるはずがないと、賢い貴方ならわかっているでしょう?」
「……」
ユーリがそう指差したのは、ボクの首につけられた例の首輪だ。ユーリの力で作られたこれは、ボクがどこに逃げようと、それこそ世界の果てで身を隠そうとも、必ずユーリに居場所を示すようになっている。
憎らしい気持ちと、半ば諦めにも近いため息を吐き出してから、ボクは「ねぇ」と抱えた膝に頭を埋めたまま声を出した。
「一体ボクをどうするつもり? もう魔王様はいないし、残された魔族や魔物も狩られてるってお前の近衛兵から聞いた。なら、なおのことボクを生かしている意味がわからない」
「……はぁ」
呆れたような、怒っているような、そんなため息が聞こえた。ボクは膝から顔を少しだけ覗かせて、自分の赤く腫れ上がった両手首を見てからまた顔を埋めた。
「こんなことやったって、もう何もない。もう何も、ないんだ……」
「あのさ」
「……ひぎっ!?」
痛みが走り、無理やり顔を上げさせられた。視界に入ってきた無表情にも近いユーリを見て、あぁ髪を鷲掴みにされたのだと気づいた。
「やめ、ろ……! 離せ!」
髪を掴む手を掴み返し、こちらも負けじと睨みつける。
「何もない? 離せ? はは、さっきまであんなに喘いでたこの口で、今さら何を言ってるの?」
「ふぐっ」
口内に指を突っ込まれ、そのまま指先で舌を押し込まれる。苦しさと悔しさで指を噛もうとしたが、さらに奥まで指を入れられ、ボクは「うっ」と餌付いてしまった。それでも指を抜こうとはせず、ユーリはただただ優しく微笑む。
「オレ、リヒトが好きだよ。ずっとずっと一緒にいたい。そのために魔王から引き離したし、あっちに憂いが残らないよう残党狩りもしてる。全部全部、キミのためなんだよ」
「うっ、がは……っ」
何がボクのためだ。こんなのはただの自己満でしかない。けれどそれを伝え続けるのは、もう無駄なんだろう。
ユーリが指を引き抜いたことで、ボクは出すに出せなかった胃液を思い切り吐き出した。口の中は酸っぱいし、苦いし、臭いだってきつい。ベッドのシーツももうぐちゃぐちゃだ。
だけどユーリはそんなことを気にしない。
むしろ片手で、自分のベルトを器用に外すと、そそり勃つ昂ぶりをボクの口へと押しつけてきた。咥えてたまるかと口を閉じ反抗的な目で見上げる。
「誘ってるんでしょ、それ」
「んん……!」
違うと言ってやりたいが、頬に当たるそれは蕩けてしまうほどに熱く、気を抜けば言われるままに口を開いてしまいそうだ。
「はぁ……。言うこと聞かない悪い子は、こうだよ」
「あっ」
髪を離されたかと思えば、ユーリは両手でボクの耳に触れてきた。撫でるようなその手つきに、ボクの口から声が出てしまう。それを逃さず、ユーリはその昂ぶりを口の中に押し込んでくると、そのままボクの頭を乱暴に動かしだす。
「ん、んんっ、ふうっ」
「くっ……、リヒト、いい、気持ちいいよ」
「んぐっ、んんあっ」
口内、喉の奥だけでなく、気管にまで達しそうなそれを咥えながら、ボクはそっと、視線を上げた。
「リヒト、リヒトっ、くっ……、好きだ、リヒト……!」
「んんんっ」
口に広がる苦みを喉の奥へと流し込む。
飲みきれなかった欲が口の端を伝っていく。
なぁ、満足したんじゃないのか? なんでそんなに、辛そうな顔で、いつもボクを抱くんだよ……。
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