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第一部
夢の続きを始めよう
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悪夢の続きなら他でやってくれ。それともやはりあれか。神様というのは、僕に今世まできつい罰を負わせるつもりなのか。
何も言わない、いや言えない僕を黙って見ていたユーリは「あれ」とわざとらしく小首を傾げてみせる。そのあざとい仕草は、前世で、よくユーリが身内に見せていたものだ。
「髪色、ちょっと変わりました? でも、俺はそっちの姿も好きだな。ねぇ、リヒト、何か言いましょうよ」
そう一歩踏み出してきたものだから、僕は反射で一歩下がり「く、来るなっ」と声を裏返しながら叫んだ。
「なんで、なんでお前が……!? だって、今まで、僕は至って普通に……」
あぁ、本当に意味がわからない。
けれども僕の反応すらも予想の範囲内なのか、ユーリは「そんなことか」とクックッと喉から笑い、ずかずかと距離を詰めてきた。
僕は後ろに下がろうとし、そのまま足をもたつかせて倒れてしまう。
「ほら、俺って世界を救った英雄でしょ? 死んだ後、神様から次の生について自由に選べばいいって言われたんだ。だからリヒトと同じところに転生したいなって」
「だ、だからって、そんな簡単に……」
「出来るんだよ。だって俺は英雄だから」
無茶苦茶だ。何より、神はユーリが僕にしたことを忘れたのか? 魔族より酷い仕打ちをやってきたではないか。いや、それを言うなら魔族が人間にしてきたことも変わらないのかもしれない……。
「さ、早く立たないと。こんな場所で座り込んでたら邪魔になってしまいますよ?」
そうユーリは笑い、僕に手を差し伸べてきた。もちろんそれを握り返すことはせず、むしろ僕は、倒れた拍子で鞄から飛び出た財布やらノートやらを拾い集めていく。
「はは、相変わらず鈍臭いなぁ。ほら、学生証も落ちてますよ」
「……!」
拾われた学生証を、感謝の言葉もなしに引ったくる。その際きつく睨みつけてやったが、ユーリは笑みを崩すことなく、
「経済学部、三年。四天理人」
「見るな! だ、第一、部外者がなんのようだ!」
「部外者?」
と不思議そうに目を細め、自分の鞄をごそごそと探った。そこから出てきたのは、見慣れたデザインのカードだ。
「経済学部、一年。有志優利。よろしくお願いしますよ、先輩」
「……嘘だ」
「嘘じゃないですって。わざわざ日本の大学を受ける理由なんて、それしかないじゃないですか」
整った顔でそう言われてしまえば、あぁユーリはこういう奴だったと嫌でも思い出させてしまう。
現実に頭が追いつかず、未だ「嘘だ」と呆然とする僕に、ユーリが「うーん」と頭を捻る。それからいきなり何を思ったのか、ぐいと顔を近づけてくると、いきなり唇を塞がれてしまった。
「んんっ!? ん、んっ……!」
頭を離そうとするが、がっちりと手で頭を押さえられてはそれも出来ない。
ねっとりとした動きに舌を絡め取られ、飲みきれない唾液が口の端を伝っていく。お互いの間に、どちらのものかわからない熱い吐息がかかり、それを意識すればするほど、熱が上がっていくのを感じた。
「ふ、ぁ……んっ」
前世と違って今世は人間だ。流石に息苦しさからユーリの胸を叩けば、満足したのかユーリの顔が離れていった。
「はっ、はあっ、ユー、リ……お前……!」
「夢じゃないでしょ、リヒト? でもよかったよ、リヒトの身体は俺を覚えてくれてたみたいで」
「な、何、言って……」
肩で息をしながら口をぐいと拳で拭う。
ユーリは楽しげな笑みのまま、黙って僕の下半身を指先で示した。
「や……っ、こんなの、嘘だ……」
自分でも無意識に立ち上がったそれは、ジャージの上からでもわかるほどに主張し、うっすらと染みを作っている。
「嘘、嘘、嘘」
「ねぇ、辛くない? 辛いですよね? 俺がラクにしてあげますよ?」
「や、やだ、いらない、やだぁ……!」
頭をふるふると振り拒否するも、ジャージの上からやわやわと緩く触られれば、嫌というほどに反応してしまう。外だというのに、それがさらに恥ずかしく、僕は背中を丸めるように小さくなり「やだ、やだ」と肩を震わせた。
だがすぐにユーリは手を離し「なぁんて」と声のトーンを上げてみせた。
「今から入学式で、俺、答辞読まないと駄目なんですよね。その打ち合わせで、ちょっと早めに来ないといけなかったんですよ。でもリヒトに会えてよかった」
「……」
涙目で見上げる僕に「それじゃ」と片手を上げてみせ、ユーリは軽やかに構内へと入っていく。
僕はといえば、熱がおさまるまで立つことなんて出来ず、他の学生ががやがやと来始めた頃にやっと立ち上がれたのだった。
何も言わない、いや言えない僕を黙って見ていたユーリは「あれ」とわざとらしく小首を傾げてみせる。そのあざとい仕草は、前世で、よくユーリが身内に見せていたものだ。
「髪色、ちょっと変わりました? でも、俺はそっちの姿も好きだな。ねぇ、リヒト、何か言いましょうよ」
そう一歩踏み出してきたものだから、僕は反射で一歩下がり「く、来るなっ」と声を裏返しながら叫んだ。
「なんで、なんでお前が……!? だって、今まで、僕は至って普通に……」
あぁ、本当に意味がわからない。
けれども僕の反応すらも予想の範囲内なのか、ユーリは「そんなことか」とクックッと喉から笑い、ずかずかと距離を詰めてきた。
僕は後ろに下がろうとし、そのまま足をもたつかせて倒れてしまう。
「ほら、俺って世界を救った英雄でしょ? 死んだ後、神様から次の生について自由に選べばいいって言われたんだ。だからリヒトと同じところに転生したいなって」
「だ、だからって、そんな簡単に……」
「出来るんだよ。だって俺は英雄だから」
無茶苦茶だ。何より、神はユーリが僕にしたことを忘れたのか? 魔族より酷い仕打ちをやってきたではないか。いや、それを言うなら魔族が人間にしてきたことも変わらないのかもしれない……。
「さ、早く立たないと。こんな場所で座り込んでたら邪魔になってしまいますよ?」
そうユーリは笑い、僕に手を差し伸べてきた。もちろんそれを握り返すことはせず、むしろ僕は、倒れた拍子で鞄から飛び出た財布やらノートやらを拾い集めていく。
「はは、相変わらず鈍臭いなぁ。ほら、学生証も落ちてますよ」
「……!」
拾われた学生証を、感謝の言葉もなしに引ったくる。その際きつく睨みつけてやったが、ユーリは笑みを崩すことなく、
「経済学部、三年。四天理人」
「見るな! だ、第一、部外者がなんのようだ!」
「部外者?」
と不思議そうに目を細め、自分の鞄をごそごそと探った。そこから出てきたのは、見慣れたデザインのカードだ。
「経済学部、一年。有志優利。よろしくお願いしますよ、先輩」
「……嘘だ」
「嘘じゃないですって。わざわざ日本の大学を受ける理由なんて、それしかないじゃないですか」
整った顔でそう言われてしまえば、あぁユーリはこういう奴だったと嫌でも思い出させてしまう。
現実に頭が追いつかず、未だ「嘘だ」と呆然とする僕に、ユーリが「うーん」と頭を捻る。それからいきなり何を思ったのか、ぐいと顔を近づけてくると、いきなり唇を塞がれてしまった。
「んんっ!? ん、んっ……!」
頭を離そうとするが、がっちりと手で頭を押さえられてはそれも出来ない。
ねっとりとした動きに舌を絡め取られ、飲みきれない唾液が口の端を伝っていく。お互いの間に、どちらのものかわからない熱い吐息がかかり、それを意識すればするほど、熱が上がっていくのを感じた。
「ふ、ぁ……んっ」
前世と違って今世は人間だ。流石に息苦しさからユーリの胸を叩けば、満足したのかユーリの顔が離れていった。
「はっ、はあっ、ユー、リ……お前……!」
「夢じゃないでしょ、リヒト? でもよかったよ、リヒトの身体は俺を覚えてくれてたみたいで」
「な、何、言って……」
肩で息をしながら口をぐいと拳で拭う。
ユーリは楽しげな笑みのまま、黙って僕の下半身を指先で示した。
「や……っ、こんなの、嘘だ……」
自分でも無意識に立ち上がったそれは、ジャージの上からでもわかるほどに主張し、うっすらと染みを作っている。
「嘘、嘘、嘘」
「ねぇ、辛くない? 辛いですよね? 俺がラクにしてあげますよ?」
「や、やだ、いらない、やだぁ……!」
頭をふるふると振り拒否するも、ジャージの上からやわやわと緩く触られれば、嫌というほどに反応してしまう。外だというのに、それがさらに恥ずかしく、僕は背中を丸めるように小さくなり「やだ、やだ」と肩を震わせた。
だがすぐにユーリは手を離し「なぁんて」と声のトーンを上げてみせた。
「今から入学式で、俺、答辞読まないと駄目なんですよね。その打ち合わせで、ちょっと早めに来ないといけなかったんですよ。でもリヒトに会えてよかった」
「……」
涙目で見上げる僕に「それじゃ」と片手を上げてみせ、ユーリは軽やかに構内へと入っていく。
僕はといえば、熱がおさまるまで立つことなんて出来ず、他の学生ががやがやと来始めた頃にやっと立ち上がれたのだった。
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