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ビーズクッションみたいな

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 野郎二人でしま◯ら。
 しかもクッション売り場に見せかけたぬいぐるみ置き場。いや、これは抱き枕か? スリッパやティッシュカバーもあるし、一概にぬいぐるみ置き場で片付けてはいけないかもしれない。

「見て、これ。幸太郎にそっくり」

 蒼が手に取ったのは、ただの四葉のクローバーの人形だ。目も鼻も口も、手足もついてない、正真正銘のただのクローバー。

「いや、名前で決めんなよ。幸太郎泣くぞ」
「光哉と違ってきっと喜ぶ」
「お前の中の俺のイメージ逆に何よ」

 流石にこんなもんいるか。幸太郎に似ている(似てない)人形を買って、蒼の部屋に置いてやるほど、俺だってお人好しではない。むんずと茎部分を掴んで棚に戻す。

「光哉は、こっち」
「ただのショートケーキでワロタ」

 なんの変哲もないイチゴのショートケーキ、の人形。上のイチゴ部分は取り外し可能らしく、持っていかれないように繋がれている。

「むしろケーキはお前のほうだろが」

 ショートケーキも棚に戻す。
 買うならもっとマシなものを買え。

「でも、光哉のほうが甘そうな名前してるし」
「お前の似てるの基準は名前か? せめて見た目にしろ」
「見た目……?」
「そんなに悩むほどか?」

 蒼はぬいぐるみ置き場から少し歩き、本格的なクッション置き場へと移動する。いくつか並ぶ中から、水色のビーズクッションを引っ張り出して「これ」とうっすら微笑んだ。 

「それ買うのか」
「うん? いや、光哉はこれかなって」
「俺はいらねぇよ」
「あげないけど」
「は!?」

 会話が上手く噛み合わないまま、蒼はビーズクッションを抱えてレジへと並んだ。支払いをするタイミングで代わりに払って、ビーズクッションの入った袋を受け取る。

「あげないって言ったのに」
「いらねぇっつっただろうが」

 しま◯らから離れたタイミングで「ほらよ」と袋ごと蒼に押しつけた。少しだけ大きな袋が、蒼の顔を微かに隠している。

「くれるなら払う必要なくない?」
「うっせ。黙って受け取っとけ」
「返せって言われてももう無理だよ」
「言わねぇから安心しとけ」

 蒼が、袋から少し出ているクッションに顔を押しつけて顔を綻ばせる。よほど触り心地がいいのか、顔を上げてはまた押しつけて、を繰り返し、そのたびに息を吐いては目元を柔らかく細めるものだから、つい「なぁ」と顔を上げさせた。

「それ、そんなにいいわけ」
「んー……、ん。光哉みたいだから」
「はぁ!? 俺が柔らかふにふに野郎とでも言うんか!?」

 第一、お前はぬいぐるみを買いに来たんじゃなかったのか? そもそも、蒼が手にした人形をことごとく却下したのは自分ということは、この際横に置いておく。
 蒼は「ふにふに……」ともう一度クッションに顔を埋めた。それから「うん」と何か納得したように顔を上げてから、

「やっぱり光哉だ」

と結論づけた。これならまだショートケーキのがマシだったかもしれない。
 文化祭の返事どころか、蒼にとって俺は気になる存在ですらないらしい。その事実に打ちのめされ、ならもう何を言っても無駄かもしれんと蒼に背中を向ける。

「ミツは、安心できる場所、だから」

 消え入るような声に足が止まる。

「ふかふかで、あったかくて、優しい場所。こんな感じの」

 こんな、と示したのは抱えたビーズクッション。
 俺は顔を隠すように手をやって、息を長く吐き切った。なんだそりゃ。

「癪だわ。すっげぇ癪」
「嫌?」
「それで喜ぶ自分がチョロすぎてな」

 振り返って、蒼に歩み寄る。そのまま腕の中に蒼を閉じ込めれば、ふわりと心地良い香りが鼻を掠めた。間にあるクッションが微妙に邪魔だが、今は許してやろう。

「俺に喰われる覚悟、あるってこと?」
「最初、ミツに言った時から、俺は約束を破るつもりはないけど」
「また約束かよ」
「そもそも、誰とでもこんな約束しない」
「遠回しすぎて全く伝わらんかったわ」

 もぞ、と動いたアオと目が合った。
 そのまま小さな口に噛みつくようなキスをすれば、頭の中が、何かに殴られた感覚がして、とても甘かった。
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