10 / 22
何も見えてない
しおりを挟む
夏。
一番苦手な季節で、一番気が重くなる季節で、一番嫌いになれない季節。
「なぁ、光哉! 夏休みのグループ課題、一緒にやろうぜ!」
夏休み前の登校日。鼻息を荒くした幸太郎が、課題を何にするか一人で盛り上がっている。そんな幸太郎を余所に、俺は最前列に座る蒼の背中を、ただぼーっと眺めていた。
もう七月だというのに、俺は卒業後、就職するか進学するかも決めていない。いや、そもそもフォークの俺が行ける場所なんて……。
「んじゃ、決まりな!」
俺は何も言っていないのに、幸太郎は勝手に課題の内容も決めて、集合場所やら日時やらを楽しげに話している。
「幸太郎、またお前は勝手に……」
「もちろん蒼も一緒な」
「いや、あいつは……、いい」
俺が引き止めると、幸太郎は意外だと言いたげに目を丸くし、何度か瞬きを繰り返した後「なんでだ?」と当たり前の疑問を口にした。
「それは……」
正直、蒼と一緒にいたくなかった。
蒼が何を考えてるかわからない、というのは建前で、最近の俺は、特にフォークとしての本能が強くなっている。ケーキを、蒼を喰ってしまえと疼く一方で、幼馴染を傷つけたくない、ここまで俺を庇ってきた蒼を裏切りたくないと強く思っている。
「……」
何も言わない俺に、幸太郎が「喧嘩?」と前側に座る蒼をちらりと見た。
「ま、喧嘩なら仕方ねぇかもだけど」
「喧嘩のがよかったよ」
「ふーん。喧嘩じゃねぇならいーじゃん」
軽く言ってのけるが、だからそんな単純じゃないんだとは言えなかった。
幸太郎は鼻歌混じりに、スマフォのスケジュール管理アプリに入力を済ませていく。すぐにグループライムが作られて、俺に招待が飛んできた。前に座る蒼が一瞬こちらを振り返ったから、同じタイミングで蒼にも招待がいったんだろう。
俺はすぐに蒼から視線を外して、グループへの招待を受けた。ピコン、と場違いなくらいに明るい音がして、見慣れた蒼のアイコンがグループトークに入ってくる。
「つか、何すんだよ」
「亀の生態を調べる。どうせ決めてねぇんだろ? ならおれがやりたいことに付き合えって」
「なんで亀……」
「弟たちが亀飼いたいって言っててさ、事前に色々調べとこって思って」
そういや、幸太郎んとこには年の離れた双子の弟がいるんだっけか。確か今年小学生になったばかりだと聞いた。
「ま、どうせ調べることもないし、いいけど」
「おう、じゃ、よろしくな!」
多少強引なとこはあるが、幸太郎の明るさが今は嬉しい。ナチュラルの幸太郎とは、どれだけ一緒にいても自分を見失うことがないから。
再び鳴ったスマフォに視線を落とせば、蒼が『何』とひと言だけ送ってきた。
幸太郎のやつ、まさか用件も伝えずに誘ったのか? 前言撤回だ。この向こう見ずな友人を、少しだけ恨んだ。
一番苦手な季節で、一番気が重くなる季節で、一番嫌いになれない季節。
「なぁ、光哉! 夏休みのグループ課題、一緒にやろうぜ!」
夏休み前の登校日。鼻息を荒くした幸太郎が、課題を何にするか一人で盛り上がっている。そんな幸太郎を余所に、俺は最前列に座る蒼の背中を、ただぼーっと眺めていた。
もう七月だというのに、俺は卒業後、就職するか進学するかも決めていない。いや、そもそもフォークの俺が行ける場所なんて……。
「んじゃ、決まりな!」
俺は何も言っていないのに、幸太郎は勝手に課題の内容も決めて、集合場所やら日時やらを楽しげに話している。
「幸太郎、またお前は勝手に……」
「もちろん蒼も一緒な」
「いや、あいつは……、いい」
俺が引き止めると、幸太郎は意外だと言いたげに目を丸くし、何度か瞬きを繰り返した後「なんでだ?」と当たり前の疑問を口にした。
「それは……」
正直、蒼と一緒にいたくなかった。
蒼が何を考えてるかわからない、というのは建前で、最近の俺は、特にフォークとしての本能が強くなっている。ケーキを、蒼を喰ってしまえと疼く一方で、幼馴染を傷つけたくない、ここまで俺を庇ってきた蒼を裏切りたくないと強く思っている。
「……」
何も言わない俺に、幸太郎が「喧嘩?」と前側に座る蒼をちらりと見た。
「ま、喧嘩なら仕方ねぇかもだけど」
「喧嘩のがよかったよ」
「ふーん。喧嘩じゃねぇならいーじゃん」
軽く言ってのけるが、だからそんな単純じゃないんだとは言えなかった。
幸太郎は鼻歌混じりに、スマフォのスケジュール管理アプリに入力を済ませていく。すぐにグループライムが作られて、俺に招待が飛んできた。前に座る蒼が一瞬こちらを振り返ったから、同じタイミングで蒼にも招待がいったんだろう。
俺はすぐに蒼から視線を外して、グループへの招待を受けた。ピコン、と場違いなくらいに明るい音がして、見慣れた蒼のアイコンがグループトークに入ってくる。
「つか、何すんだよ」
「亀の生態を調べる。どうせ決めてねぇんだろ? ならおれがやりたいことに付き合えって」
「なんで亀……」
「弟たちが亀飼いたいって言っててさ、事前に色々調べとこって思って」
そういや、幸太郎んとこには年の離れた双子の弟がいるんだっけか。確か今年小学生になったばかりだと聞いた。
「ま、どうせ調べることもないし、いいけど」
「おう、じゃ、よろしくな!」
多少強引なとこはあるが、幸太郎の明るさが今は嬉しい。ナチュラルの幸太郎とは、どれだけ一緒にいても自分を見失うことがないから。
再び鳴ったスマフォに視線を落とせば、蒼が『何』とひと言だけ送ってきた。
幸太郎のやつ、まさか用件も伝えずに誘ったのか? 前言撤回だ。この向こう見ずな友人を、少しだけ恨んだ。
11
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
ゆるふわメスお兄さんを寝ている間に俺のチンポに完全屈服させる話
さくた
BL
攻め:浩介(こうすけ)
奏音とは大学の先輩後輩関係
受け:奏音(かなと)
同性と付き合うのは浩介が初めて
いつも以上に孕むだのなんだの言いまくってるし攻めのセリフにも♡がつく
年上が敷かれるタイプの短編集
あかさたな!
BL
年下が責める系のお話が多めです。
予告なくr18な内容に入ってしまうので、取扱注意です!
全話独立したお話です!
【開放的なところでされるがままな先輩】【弟の寝込みを襲うが返り討ちにあう兄】【浮気を疑われ恋人にタジタジにされる先輩】【幼い主人に狩られるピュアな執事】【サービスが良すぎるエステティシャン】【部室で思い出づくり】【No.1の女王様を屈服させる】【吸血鬼を拾ったら】【人間とヴァンパイアの逆転主従関係】【幼馴染の力関係って決まっている】【拗ねている弟を甘やかす兄】【ドSな執着系執事】【やはり天才には勝てない秀才】
------------------
新しい短編集を出しました。
詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる