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二月

食べられたら即終了。恐怖のチョコレート その6

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 残る五、六限目は調理実習。やはりバレンタイン、グループごとにチョコモチーフの何かを作り、それを食べるという授業だ。
 他のグループがやれカップケーキだ、やれチョコクッキーだ、いやいや生チョコだのやっている中、俺たちのグループ(観手、太刀根、猫汰)はなぜか機材を組み立てていた。

「……なぁ、これ何してんの」

 手にした金属製? いやプラスチック製の筒を眺めながら、いそいそと組み立てていく太刀根に、半ばやり投げに聞いてみた。

「何ってチョコだろ? やっぱ皆で楽しまないとな」
「なんでこんな変な筒が必要なんだって聞いてんだよ」

 筒はいくつかあって、よく見れば縦半分に切られたものもある。

「とりあえずそうだね、御竿くん。君はその切られた筒同士をはめていってもらえるかい? 太刀根くんの発注が間違ってなければ、バッチリ合うはずだから」
「はぁ……」

 猫汰に言われた通り、切られた筒同士を繋げていく。隙間なく合わさっていくそれは、繋げ終わると一本の半円型の筒へと姿を変えた。
 結構な長さだ。五メートルはあるのではないか。

「猫汰、繋げたけど」
「あぁ、ありがとう。なら最後に、これをこちら側に、これをあちら側につけて……」

 出来上がった筒、いや棒? の片側を持ち上げると、猫汰は太刀根が組み上げていた台座にそれを合わせた。その見覚えのあるシルエットは、夏の風物詩、流し素麺そうめんをする際のあれによく似ている。

「……ん? 流し素麺?」

 言ってて嫌な予感が頭をよぎる。
 棒の角度をつけていた太刀根が「正解!」と自慢気に笑う。その顔にグーパンしてやろうかと思ったけど耐えた、よくやった俺。

「ま、流すのはチョコなんだけどさ。この市販のお菓子を流して、掴んだ分だけもらえるってシステム!」
「お菓子掴みとかじゃ駄目だったん? それ」

 太刀根は和柄のエコバッグから袋パックのお菓子を取り出し、ずらりと机に広げながら、

「水に入ってるほうが溶けないだろ?」

と某たけのこのお菓子を開けて頬張った。俺もきのこのお菓子を開けながら「簡単に溶けねぇよ」とひとつ口に放り込んだ。

「あ、美味しそうですね! 私にも何かください!」
「いいぜ。これなんかどうだ? 黒いサンダー」
「これ好きなんですよ! ありがとうございます~」

 観手も自分の仕事を終えたようで、太刀根が用意したお菓子をつまんでいる。そんな二人に、まだ調整をしていた猫汰が「お菓子なくなるよ」と呆れた声を漏らした。
 もちろんお菓子パックは大量にあるので、少し食べたくらいではなくなりはしない。それでも猫汰に働かせてばかりは気が引けるので、俺もお菓子を食べてから「何すればいい?」と猫汰に向き直った。

「ありがとう、御竿くん。やっぱり君は僕のこと……」
「おっとこれはあれか? 水を流せばいいのか?」

 調理室の机についている水道に、俺は適当にホースを繋げ、逆のほうを流し素麺ならぬ流しチョコの棒に繋げた。

「ほれ、いくぞー」
「待つんだ、御竿くん! それは……!」
「へ?」

 キュッ。
 猫汰が止めるのも聞かず、俺は思い切り蛇口を捻った。ザバッと出てきた水、いやチョコは、流しチョコの棒を伝い、受け皿も用意していなかったためそのまま床に零れてしまう。
 いや、それだけならまだしも、そのチョコはさらに勢いを増していくと、たちまち教室の床をチョコまみれにしていく。

「うわ、うわわわ」

 慌てて止めようとしたが、どういうことか全く動かない。

「お、おい、これ……」

 太刀根か猫汰に助けを求め視線をやるが、隣の机から聞こえた「ぎゃあああ!」の悲鳴でそちらを見る。クラスメイトが床に広がるチョコに、くぷくぷと呑み込まれていた。

「何これ!?」

 床のチョコから飛ぶように離れれば、違うクラスメイトもまた「あああ」と呑まれていくのが見えた。同じように隅によけた猫汰が「しまった」と唇を噛んだ。

「きちんと手順を踏むのを忘れていた……」
「手順って何!?」
「御竿くん。ここは僕と太刀根くんで食い止めるから、外に出て助けを呼んでくれないかな」
「助けって……」

 半数がチョコに沈み、もはや阿鼻叫喚とした教室を見渡し「俺が?」と確認のため自分を指差した。
 太刀根も多くを語る暇もないのか、観手を背負ったまま「護、急げ!」と教室の扉を示してきやがった。観手の太ももを合法でお触りしていることに腹が立つが、俺のせいでもある(かもしれない)ので仕方なく扉を開けた。

「御竿くん、頼んだよ!」

 ピシャリと閉められた扉の中は、やけに静かだった気がした。
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