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二月

食べられたら即終了。恐怖のチョコレート その3

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 一限、二限を終え、三限目の体育の時間になった。なんで今日に限って体育、しかもバスケをせにゃならんのだ。
 とりあえずジャージに着替えて体育館へ向かう。いつも通り体育の五里ゴリが何かしら話して、準備体操をやり始める。普段と変わらない光景(皆チョコではあるが)に油断していた。

「それじゃ、始めるぞー」

 ゴリが笛を吹く。身長で負けているというのに、流石の運動神経で、華麗にボールを奪い取った猫汰がゴールに向けてドリブルしていく。もちろんそれを相手チームが許すはずはなくて、三人から囲まれた猫汰が「御竿くん!」と俺にボールを回してきた。

「お、おう!」

 俺の手にすっぽりと収まったボールに違和感を感じ、ドリブルをするのも忘れて足を止める。

「うわ。ボールもチョコかよ」

 なんかちょっと固いなとか、ねっとりするなとは思ったんだ。

「護! こっちだ!」
「わかった!」

 太刀根に呼ばれボールを投げようとしたところで、ボールが勝手にすすすと動いたかと思うと、

「いやん。イイ、お、と、こ」
「あああああ!?」
「叫ぶとこもキュート」

とついていた目でウインクしてきやがった。分厚い唇が「お名前、教えて?」ともちょもちょ動いた。

「黙れ!」

 力いっぱい太刀根に向かってボールを投げつける。ボールからは「乱暴なのも高得点!」と気色悪い採点が飛んでくる。

「っと! 護、ナイスボール!」

 流石は太刀根。少しどころか、かなりコントロールが悪かったにも関わらず、ボールをしっかりとキャッチして、ゴールしようと構えた時だ。

「レロレロレロレロ。イイ、お、あ、じ」
「あっ」

 ボールから伸びた長い舌が、太刀根の指を舐め回した。それで力が抜けたのか、太刀根の手を離れたボールはリングに弾かれて、相手チームの手に渡ってしまった。

「何してるんだい、太刀根くん! 折角、御竿くんがボールを回してくれたのに!」

 猫汰が鬼のような形相で激を飛ばしてきた。そうして舌打ちをしながらボールを追いかけていく。
 俺も行ったほうがいいのだろうが、ヘナヘナと座り込んだ太刀根が気になり「太刀根?」ととりあえず声をかける。

「護、ごめんな。ボールくれたのに……」
「いや、まぁ、それはいいんだけどさ。何、なんかあった?」
「なんつーか、護がくれたボールだからか知らないけど、こう、電気が走ったみたいに衝撃が走ってさ」
「それ、俺関係ないぞ。絶対」

 どう考えてもあのボールのせいだ。気づいてないのか?

「御竿くん!」
「……!」

 猫汰の声に我に返れば、ボールを取り返したらしい猫汰が、こちらにボールを投げてくるところだった。
 相変わらずボールからは長い舌が「レロレロレロレロ」と涎を垂らしながらうごめいている。

「ひいっ!」
「イイ男、受け止めて! そして溶かしてみせて!」
「誰が受け止めるか!」

 投げてきたボールを、ドッチボールよろしく華麗によける。そのままボールは後ろにいた太刀根の頭に当たり、普通なら跳ね返るなりなんなりするはずなのに、ボールは太刀根と合体しやがったのだ。

「太刀、太刀根!?」

 すっぽりと顔にくっついたボールを見て、息が出来ているのか少し不安になる。

「ま、護、俺、一体どうなってるんだ?」
「レロレロレロレロ。イイ、お、あ、じ!」
「ああ、あああっ。駄目だ! 俺は護に……!」

 両者の顔が見えないため、どうなっているのかさっぱりわからないが、これはボールに食われているらしい。どこのB級スプラッタ映画だ。
 笛を鳴らして試合を中断したゴリが、太刀根を見て首を捻ると、

「あぁ、こりゃ駄目だな。おい御竿、太刀根を保健室に連れてってやれ」

と前が見えないであろう太刀根の手を握らせてきた。

「なんで俺が……」

 不満たっぷりに言ったものの、ゴリは聞く素振りすらみせず、チーム分けをやり直し、授業を再開させた。
 俺は仕方なく太刀根の手を引いて保健室に向かうしかなかった。終始「レロレロ」と「んんんっ」と悶える、気持ち悪い声を聞きながら。
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