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一月
大パニック!? 寒中マラソン大会 その2
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上下長袖の緑のジャージ。
隣で屈伸運動をする太刀根なんかは、半袖半ズボンという見た目にも寒そうな格好をしている。この寒空の中、俺にはとても真似できそうにない格好だ。
そう。あれから一週間が経ち、今日はマラソン大会当日だ。
結局何もいい案は浮かばず、この日を迎えてしまった。
「先輩方は結構後ろからスタートするんだな」
俺ら二年生が先頭、その五〇〇メートル後方に一年生が、そのさらに五〇〇メートル後方に三年生が控えているらしく、俺らとの距離は一キロあることになる。
「こんだけ開いてたら捕まりようもないだろ」
一年生の姿が邪魔をして三年生が見えないが、一キロはそれなりの距離ではなかろうか。余裕そうに伸びをする俺とは反対に、アキレス腱を伸ばしていた猫汰が「そう思うだろう?」と真剣な顔をして後ろをちらりと見た。
「覚えてないだろうけど、去年、一年生で捕まらずに走りきったのは、僕ら三人を除いて、十人ほどしかいなかった。一年生は七キロ、二年生は十キロ走るから、途中で脱落して、そのまま捕まってしまう人もいるんだ」
「距離は案外平均的だな」
男子高校生で十キロなら平均だ。むしろそれを必死で逃げるほうが、精神的にも肉体的にも辛いだろう。
俺もストレッチを軽くやり、着ていた長袖のジャージを脱いで腰に巻いた。走っていたら暑くなりそうだしな。
「それじゃあ、始めるわよぉ♪ みんなぁ、位置についてぇ」
腕時計を見ていた牧地が号令をかける。一秒のズレもないあの時計で、全学年同時に走り出すらしい。
「よぉい……、どぉん♪」
パーン!
牧地の声に勢いはないが、それとは真反対にスタートのピストル音が高らかに鳴り響いた。同時に走り出す俺たち。
たくさんの同学年が飛び出していくのに、焦るように俺もスピードを上げる。が、悠々と走る太刀根が「護」と俺の腕を掴んだ。
「あんま急ぐなって」
「だって捕まりたくねぇし」
「大丈夫だって。な?」
そう歯を見せて笑う太刀根は余裕そうだ。仕方なく並ぶように速さを合わせると、不服そうな猫汰の舌打ちが聞こえた。
「チッ。まぁ、太刀根くんの言う通りだよ。確かに早く行ったほうが、武器もあって有利にはなるけどね」
「捕まらないほうが大事ってことか」
「それもあるけど、脱落してゴール出来ないのも問題なんだ」
「待って何それ聞いてない」
たくさんの二年生に抜かれながら、たまに道を空けてやりながら、俺はペースを変えずに走り続ける。
「もちろん捕まればアウトだけど、ゴール出来なかったら、春休みに鏡華先生からの体力増強合宿を受けることになるんだ」
「鏡華ちゃんからの……」
期末の出来事を思い出し、健康的な生活を送れそうだと思う反面、スパルタ鏡華ちゃんからの鉄槌が飛んでくることを考えると一概には喜べない。
走りながらそれを想像し、俺は「ははは」と乾いた笑いを零した。
このマラソン大会。どうやらこの街の一大イベントのようで、普段は車が行き交う道路を通行止めにして、歩道には観客も取り入れて、なかなかど派手に行っているらしい。
歩道からは「A太、頑張りなさい!」とか「B助、もっと早くよ!」とか、どっかの親御さんが激を飛ばす声が聞こえる。それに混ざって、なんか偉い人っぽい集団が、何かしらメモを取りながら観戦している。
「あれ何してんの」
「ん? あぁ、あれは優秀な生徒がいないか、有名な大学や企業、あとはスポーツ関係のスカウトマンが来ているんだよ」
「どんだけすごいイベントなの、これ」
あまり気を取られないように走り続ける。
この見られる中走るとは、違った意味で疲れそうな、全くもって嫌なイベントである。
隣で屈伸運動をする太刀根なんかは、半袖半ズボンという見た目にも寒そうな格好をしている。この寒空の中、俺にはとても真似できそうにない格好だ。
そう。あれから一週間が経ち、今日はマラソン大会当日だ。
結局何もいい案は浮かばず、この日を迎えてしまった。
「先輩方は結構後ろからスタートするんだな」
俺ら二年生が先頭、その五〇〇メートル後方に一年生が、そのさらに五〇〇メートル後方に三年生が控えているらしく、俺らとの距離は一キロあることになる。
「こんだけ開いてたら捕まりようもないだろ」
一年生の姿が邪魔をして三年生が見えないが、一キロはそれなりの距離ではなかろうか。余裕そうに伸びをする俺とは反対に、アキレス腱を伸ばしていた猫汰が「そう思うだろう?」と真剣な顔をして後ろをちらりと見た。
「覚えてないだろうけど、去年、一年生で捕まらずに走りきったのは、僕ら三人を除いて、十人ほどしかいなかった。一年生は七キロ、二年生は十キロ走るから、途中で脱落して、そのまま捕まってしまう人もいるんだ」
「距離は案外平均的だな」
男子高校生で十キロなら平均だ。むしろそれを必死で逃げるほうが、精神的にも肉体的にも辛いだろう。
俺もストレッチを軽くやり、着ていた長袖のジャージを脱いで腰に巻いた。走っていたら暑くなりそうだしな。
「それじゃあ、始めるわよぉ♪ みんなぁ、位置についてぇ」
腕時計を見ていた牧地が号令をかける。一秒のズレもないあの時計で、全学年同時に走り出すらしい。
「よぉい……、どぉん♪」
パーン!
牧地の声に勢いはないが、それとは真反対にスタートのピストル音が高らかに鳴り響いた。同時に走り出す俺たち。
たくさんの同学年が飛び出していくのに、焦るように俺もスピードを上げる。が、悠々と走る太刀根が「護」と俺の腕を掴んだ。
「あんま急ぐなって」
「だって捕まりたくねぇし」
「大丈夫だって。な?」
そう歯を見せて笑う太刀根は余裕そうだ。仕方なく並ぶように速さを合わせると、不服そうな猫汰の舌打ちが聞こえた。
「チッ。まぁ、太刀根くんの言う通りだよ。確かに早く行ったほうが、武器もあって有利にはなるけどね」
「捕まらないほうが大事ってことか」
「それもあるけど、脱落してゴール出来ないのも問題なんだ」
「待って何それ聞いてない」
たくさんの二年生に抜かれながら、たまに道を空けてやりながら、俺はペースを変えずに走り続ける。
「もちろん捕まればアウトだけど、ゴール出来なかったら、春休みに鏡華先生からの体力増強合宿を受けることになるんだ」
「鏡華ちゃんからの……」
期末の出来事を思い出し、健康的な生活を送れそうだと思う反面、スパルタ鏡華ちゃんからの鉄槌が飛んでくることを考えると一概には喜べない。
走りながらそれを想像し、俺は「ははは」と乾いた笑いを零した。
このマラソン大会。どうやらこの街の一大イベントのようで、普段は車が行き交う道路を通行止めにして、歩道には観客も取り入れて、なかなかど派手に行っているらしい。
歩道からは「A太、頑張りなさい!」とか「B助、もっと早くよ!」とか、どっかの親御さんが激を飛ばす声が聞こえる。それに混ざって、なんか偉い人っぽい集団が、何かしらメモを取りながら観戦している。
「あれ何してんの」
「ん? あぁ、あれは優秀な生徒がいないか、有名な大学や企業、あとはスポーツ関係のスカウトマンが来ているんだよ」
「どんだけすごいイベントなの、これ」
あまり気を取られないように走り続ける。
この見られる中走るとは、違った意味で疲れそうな、全くもって嫌なイベントである。
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