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十二月

七匹のオオカミと一人の人間、そして牡蠣? その14

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 もはや人ではなくなった下獄(魔獣)は、雄叫びを上げながらその鋭い爪を振りかぶった。俺は考えるよりも先に身体が動いて、右に飛ぶ形でなんとかそれをよける。もちろん受け身の取り方も何も知らないから、全身を床に打ちつけてとても痛い。

「いっ、て……」

 頭を押さえながら、身体を半ば引きずるように立ち上がる。爪を空振りした下獄は「ぜんばぁあいい」とその口から涎を滴らせた。

「やばいって。これ逃げたほうがいいって」

 こんな時でも肩から離れない牡蠣に、俺は焦りと期待を込めて言い放つ。だが焦る俺とは反対に、牡蠣は「ふーん」とまるで鼻でもほじるように息を吐いてから、

「まぁ待て、落ち着け、マモル。円は何色だ?」

と呑気に円の色なんぞを聞いてきやがった。

「あ、赤だよ、赤! ロックオンすればいいのか!?」
「あー、駄目だ駄目だ。それじゃアイツ死んじまうぞ? カイチョーじゃないんだから」
「会長より人間離れしてるよな!?」

 どう見ても会長のほうが人間っぽいが、やはり能力は会長のほうが上というわけか。ナニソレ会長怖い。

「ここはアレだ、動きを止めるしかねぇな」
「どうやって!?」
「ほれほれ、今度は左によけねぇとゲームオーバーだぞ?」

 言われて下獄を見れば、下獄はさっきと同じように爪を払ってきた。牡蠣に言われた通りに左に転がりよける。
 またもや捉えられなかった悔しさからか、下獄は叫びにも近い声を上げた。

「よくわかるな。未来でも見えてるのか?」
「ま、さ、か。単純なんだよ、動きがな。特に怒りで支配されてる奴ってのは、読みやすいんだ。あぁ、マモルには無理だから真似すんなよ?」
「しねぇし出来ねぇよ」

 そんな人間離れした能力を持ちたくもないし。

「それで? どうすればいいんだ」
「“ビット”って言いな。んで次は後ろに飛べ」

 言われた通り後ろに飛んでから「ビット!」とヤケクソ気味に叫ぶ。被り物の頭部分がパカリと開いて、中から小型の球体が五つほど出てきた。

「ちょっと待て、これはどこから出てきた!?」
「そりゃマモルの頭からだよ」
「俺の頭にこんなん入っててたまるか!」

 球体はクルクルと俺の周囲を回り、早く指示を出せと言わんばかりだ。

「細かいことは気にすんな。次は“ロック・サーチ”だ」
「あぁもう、なるようになれだ! ロック・サーチ!」

 ピピピッ。
 球体が反応するように下獄を取り囲んでいく。俺の視界には各球体の情報が出ているが、正直どれがどれだかよくわからん。

「よし、全部いったな? 最後に“デストロイ”だ!」
「デ、デストロイ!」

 キィンキィンキィン――
 球体が黄色く光っていく。

『了解、包囲、完全防塞フルスロットル。放射』

 ビビビビビ。
 球体から電撃みたいなものが出る。それをまともに浴びた下獄は「あああああ!!」と身をよじり電撃から逃れようとするが、五つの球体はそれを逃しはしなかった。

「あれ大丈夫? 死なない?」
「問題ないって。むしろ良すぎて果てるだけだ」
「あぁそう、もういいわ」

 深くは聞くまい。いや、聞きたくない。
 プスプスと煙を出しながらペタリと座り込んだ下獄は、今はもうただの下獄(小)に戻っていた。なぜか服は着てないし(でかくなったから破れたのか?)、全身はぐっしょりと濡れてるし。
 手を足の間に置いてるから、大事な部分は見えてない。心の底から安心した。

「はぁっ、はあ、護先輩」
「……何」
「ウチ、護先輩にこんなにぐちゃぐちゃにされたなんて。嬉しいです!」
「ちょっと鏡華ちゃーん、怪我人いるんだけどー?」

 俺は早くこの場を離れたくて、来るかもわからん保険医を呼んだ。
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