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十二月
七匹のオオカミと一人の人間、そして牡蠣? その4
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この学園の講堂は広い。何せ聞いた話だと、あの有名なドーム三個分もあるらしい。正直それが、どれほどの大きさかは想像つかなかったが、来てみてわかった。なるほど、確かにこれはデカい。
「マモル、マモル! 人が山ほどいる!」
頭の上から、興奮した牡蠣の声が聞こえてきた。俺はそれを無視して、講堂の入口で受付を済ませる。
パーティの受付時間は、初等部、中等部、高等部、大学部で別れているらしく、高等部は朝から夜までするらしい。正直、帰ってもバレないんじゃないかとも思ったのは内緒だ。
「高等部二年、御竿護様ですね。手荷物はこちらでお預かり致しますので、お召し物を召された上で中へお進み下さいませ」
受付のお姉さんに言われるがままカバンから被り物を出して、空っぽになったカバンを渡した。
今さら視認性の悪そうな被り物にしたことを後悔したが、選んだのは自分なのだ。俺は腹を括り、牡蠣を一旦机に置いてからそれを被った。
――ウイーン。
なんだ? なんの音だ?
『適合者、認証。精査中、精査中、精査中……』
「え! 何? 何々!?」
怖くなって被り物を取ろうとするが、どういうわけか全く離れない。つか、どう見ても段ボール製のちゃちな造りなのに、どっからこんな機械音声が聞こえてくんだよ!
『完了。起動開始』
いや、オープンベータって駄目じゃん! これ製品版じゃないのかよ!
「マモル、一人でなんか楽しそうだなー」
「楽しくねぇ! なんか離れないんだよ、これ!」
そうこうしてる内に、視界が真っ暗になる。
俺の意識が遠のいたわけじゃない。目は開けているのに、光が失くなったような、あんな感覚だ。
だけどそれはすぐに収まって、光が戻ってきた時。
「なんだこりゃ……」
三六〇渡クリアになった視界に、俺は、一瞬被り物を被っていないのかと頭に手をやった。ちゃんと被っている。
「御竿護様? どうかされましたか?」
受付のお姉さんの声が聞こえる。俺は「あぁ、はい……」と答えて、そっちに視線を向けて更に驚いた。
ロボット物のコクピット画面みたいに、ピピピッと丸い円がお姉さんを捉えると、視界にいくつかの数値が出てきたのだ。波状の何かもあるし、それらが何を示してるのかはわからんが、これだけはわかる。
俺はヤバいもんを手にしたようだと。
「御竿様?」
もう一度呼ばれ、俺は慌てて「な、なんでも!」と牡蠣を引っ掴んで会場入りを果たした。
とにかく目立たないようにしようと、俺は隅にある丸テーブルに座った。牡蠣も置いてやり、とりあえずもう一度被り物を外せないかと試みる。
やっぱり駄目だった。
「マモル、どうした?」
「いや、なんかこれ変でさ。数値やらなんやら見えてるっつうか」
「ふうん……。ちょっと待ってな」
牡蠣はそう言うと、俺の頭にぴょこんと飛び乗った。そうして「これか?」とか「そっちか?」とか呟いた後「あったあった!」と言って、思いきり頭の上で跳ねた。
「いでっ。おい、何すんだよ」
文句を言う俺とは反対に、再びテーブルに戻ってきた牡蠣は「どうだ?」と自信満々に身体を揺らした。
「どうって……。あ、数値が出なくなってる」
さっきまで、遠近関係なく円やら数値が出て酔いそうだったのだが、今はもうある程度近くの人にしか反応していない。
俺は胸を撫で下ろすのと同時に、なんで牡蠣がそんなことを知っているのかが気になった。
「なぁ、なんで操作がわかったんだよ」
「そりゃあれだ、年の功より牡蠣の殻って言うだろ?」
「いや違うし、お前一体いくつだよ……」
肘をつきながらため息を吐いた。
牡蠣は可笑しそうに笑った後「内緒」と、予想していた答えを言ったのだ。
「マモル、マモル! 人が山ほどいる!」
頭の上から、興奮した牡蠣の声が聞こえてきた。俺はそれを無視して、講堂の入口で受付を済ませる。
パーティの受付時間は、初等部、中等部、高等部、大学部で別れているらしく、高等部は朝から夜までするらしい。正直、帰ってもバレないんじゃないかとも思ったのは内緒だ。
「高等部二年、御竿護様ですね。手荷物はこちらでお預かり致しますので、お召し物を召された上で中へお進み下さいませ」
受付のお姉さんに言われるがままカバンから被り物を出して、空っぽになったカバンを渡した。
今さら視認性の悪そうな被り物にしたことを後悔したが、選んだのは自分なのだ。俺は腹を括り、牡蠣を一旦机に置いてからそれを被った。
――ウイーン。
なんだ? なんの音だ?
『適合者、認証。精査中、精査中、精査中……』
「え! 何? 何々!?」
怖くなって被り物を取ろうとするが、どういうわけか全く離れない。つか、どう見ても段ボール製のちゃちな造りなのに、どっからこんな機械音声が聞こえてくんだよ!
『完了。起動開始』
いや、オープンベータって駄目じゃん! これ製品版じゃないのかよ!
「マモル、一人でなんか楽しそうだなー」
「楽しくねぇ! なんか離れないんだよ、これ!」
そうこうしてる内に、視界が真っ暗になる。
俺の意識が遠のいたわけじゃない。目は開けているのに、光が失くなったような、あんな感覚だ。
だけどそれはすぐに収まって、光が戻ってきた時。
「なんだこりゃ……」
三六〇渡クリアになった視界に、俺は、一瞬被り物を被っていないのかと頭に手をやった。ちゃんと被っている。
「御竿護様? どうかされましたか?」
受付のお姉さんの声が聞こえる。俺は「あぁ、はい……」と答えて、そっちに視線を向けて更に驚いた。
ロボット物のコクピット画面みたいに、ピピピッと丸い円がお姉さんを捉えると、視界にいくつかの数値が出てきたのだ。波状の何かもあるし、それらが何を示してるのかはわからんが、これだけはわかる。
俺はヤバいもんを手にしたようだと。
「御竿様?」
もう一度呼ばれ、俺は慌てて「な、なんでも!」と牡蠣を引っ掴んで会場入りを果たした。
とにかく目立たないようにしようと、俺は隅にある丸テーブルに座った。牡蠣も置いてやり、とりあえずもう一度被り物を外せないかと試みる。
やっぱり駄目だった。
「マモル、どうした?」
「いや、なんかこれ変でさ。数値やらなんやら見えてるっつうか」
「ふうん……。ちょっと待ってな」
牡蠣はそう言うと、俺の頭にぴょこんと飛び乗った。そうして「これか?」とか「そっちか?」とか呟いた後「あったあった!」と言って、思いきり頭の上で跳ねた。
「いでっ。おい、何すんだよ」
文句を言う俺とは反対に、再びテーブルに戻ってきた牡蠣は「どうだ?」と自信満々に身体を揺らした。
「どうって……。あ、数値が出なくなってる」
さっきまで、遠近関係なく円やら数値が出て酔いそうだったのだが、今はもうある程度近くの人にしか反応していない。
俺は胸を撫で下ろすのと同時に、なんで牡蠣がそんなことを知っているのかが気になった。
「なぁ、なんで操作がわかったんだよ」
「そりゃあれだ、年の功より牡蠣の殻って言うだろ?」
「いや違うし、お前一体いくつだよ……」
肘をつきながらため息を吐いた。
牡蠣は可笑しそうに笑った後「内緒」と、予想していた答えを言ったのだ。
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