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十二月
七匹のオオカミと一人の人間、そして牡蠣? その2
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天気予報士のお姉さんが言った通り、次の日から雪はちらちらと降り始めた。といっても、そこまでドカ雪なわけでもなく、登下校は今まで通りスニーカーだ。
毎日毎日雪は降るが、不思議とそれほど積もる様子は見られない。ま、ゲーム的にドカ雪で学校に行けませんというのは避けたいのかもしれない。俺としては極力行きたくないのだが。
そうして十二月の最後の週。
地獄のクリスマスパーティを迎えてしまった――
学園からは、とにかく派手な格好をしてこいと指定された。派手ってなんだと思ったが、とりあえず制服でないなら構わないらしく、俺は近場の量販店で、頭部がカメラのあいつの服一式を揃えた。
ちなみにかかった費用は学園に請求していいとのことで、スーツは一番高いものを選んだ。
「それじゃ、行ってくる」
「いってらっしゃい、気をつけてね」
母さんがスーツの襟を正しながら笑った。いつもブレザーだし、それほど見た目は変わっていないはずなのに、こうして正してもらうと少し気恥ずかしい。
俺はそれを誤魔化すように「いいよ」と苦笑いしながら、あの被り物をいつも使っているスクールバッグに壊れないようそうっと入れた。道中、これを被っていく変態でもないし。
「マモル!」
出ていこうとした時、奥から慌てた様子の牡蠣が跳ねてきた。
「あらカッちゃん。どうしたの?」
母さんが慣れた様子で、しゃがんで牡蠣を両手に乗せた。ハムスターやウサギじゃあるまいし、もっと乱暴に扱っても死なないぞ、そいつ。
「マモル、ワイっちも連れて行け!」
「は? 家で大人しく出汁でも取られてろよ。第一、お前が来て何すんだ」
冷たく突き放すと、牡蠣は「びわ~ん」と泣き声を上げ始めた。実際貝の端からはなんか汁が出ている。あれはなんだ、海水か?
「ママさぁん、マモルに嫌われちゃったよぉ。ワイっち悲しいよぉ!」
そう言って母さんの胸元に身体を押しつけ、
「すりすり、ママさん、ワイっち悲しい、すりすり。ママさんすりすり」
「おい、やめろ。母さんから離れろ、この変態牡蠣が」
「じゃ、マモルについてく!」
「それもやめろ。大人しくしてろ」
「びわ~ん、ママさぁん!」
と更に泣き声を大きくした。母さんは「あらあら」と困ったように首を傾げてから、
「いいじゃない、護。連れて行ってあげなさいな」
「いやいや、何がいいの? 小さい子じゃないんだし、そもそも子でもないけど」
「カッちゃんは淋しいのよ。護が遊びに行くのが」
と「ね?」と子供をあやすように牡蠣に笑い、俺の肩に牡蠣を置いてきやがった。ずしりと肩が重くなり、俺はつい「ちょっと」と母さんをジト目で睨みつけた。
「よかったわね、カッちゃん。連れて行ってくれるって」
「わぁいわぁい! マモルありがと! 好き!」
「いや牡蠣に好き言われても……」
わかりやすく、それこそ心底嫌そうにため息をついたものの、もう二人には届いていなさそうだ。
仕方なくスクールバッグを肩に下げ、もう一度「いってきます」と背を向ける。
「おい牡蠣、あんま動くなよ。貝が当たって微妙に痛い」
「大丈夫! 収納可能だから!」
「なんだよ収納可能って。つかそれなら毎日収納しとけよ」
背後で扉の閉まる音がする。
そう。今から俺は、今年一番になるであろう戦場へと向かうのだ。脳内で、あの有名なピアノの曲が流れている気がした。
毎日毎日雪は降るが、不思議とそれほど積もる様子は見られない。ま、ゲーム的にドカ雪で学校に行けませんというのは避けたいのかもしれない。俺としては極力行きたくないのだが。
そうして十二月の最後の週。
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学園からは、とにかく派手な格好をしてこいと指定された。派手ってなんだと思ったが、とりあえず制服でないなら構わないらしく、俺は近場の量販店で、頭部がカメラのあいつの服一式を揃えた。
ちなみにかかった費用は学園に請求していいとのことで、スーツは一番高いものを選んだ。
「それじゃ、行ってくる」
「いってらっしゃい、気をつけてね」
母さんがスーツの襟を正しながら笑った。いつもブレザーだし、それほど見た目は変わっていないはずなのに、こうして正してもらうと少し気恥ずかしい。
俺はそれを誤魔化すように「いいよ」と苦笑いしながら、あの被り物をいつも使っているスクールバッグに壊れないようそうっと入れた。道中、これを被っていく変態でもないし。
「マモル!」
出ていこうとした時、奥から慌てた様子の牡蠣が跳ねてきた。
「あらカッちゃん。どうしたの?」
母さんが慣れた様子で、しゃがんで牡蠣を両手に乗せた。ハムスターやウサギじゃあるまいし、もっと乱暴に扱っても死なないぞ、そいつ。
「マモル、ワイっちも連れて行け!」
「は? 家で大人しく出汁でも取られてろよ。第一、お前が来て何すんだ」
冷たく突き放すと、牡蠣は「びわ~ん」と泣き声を上げ始めた。実際貝の端からはなんか汁が出ている。あれはなんだ、海水か?
「ママさぁん、マモルに嫌われちゃったよぉ。ワイっち悲しいよぉ!」
そう言って母さんの胸元に身体を押しつけ、
「すりすり、ママさん、ワイっち悲しい、すりすり。ママさんすりすり」
「おい、やめろ。母さんから離れろ、この変態牡蠣が」
「じゃ、マモルについてく!」
「それもやめろ。大人しくしてろ」
「びわ~ん、ママさぁん!」
と更に泣き声を大きくした。母さんは「あらあら」と困ったように首を傾げてから、
「いいじゃない、護。連れて行ってあげなさいな」
「いやいや、何がいいの? 小さい子じゃないんだし、そもそも子でもないけど」
「カッちゃんは淋しいのよ。護が遊びに行くのが」
と「ね?」と子供をあやすように牡蠣に笑い、俺の肩に牡蠣を置いてきやがった。ずしりと肩が重くなり、俺はつい「ちょっと」と母さんをジト目で睨みつけた。
「よかったわね、カッちゃん。連れて行ってくれるって」
「わぁいわぁい! マモルありがと! 好き!」
「いや牡蠣に好き言われても……」
わかりやすく、それこそ心底嫌そうにため息をついたものの、もう二人には届いていなさそうだ。
仕方なくスクールバッグを肩に下げ、もう一度「いってきます」と背を向ける。
「おい牡蠣、あんま動くなよ。貝が当たって微妙に痛い」
「大丈夫! 収納可能だから!」
「なんだよ収納可能って。つかそれなら毎日収納しとけよ」
背後で扉の閉まる音がする。
そう。今から俺は、今年一番になるであろう戦場へと向かうのだ。脳内で、あの有名なピアノの曲が流れている気がした。
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