112 / 167
十一月
球技大会は保健室で! その3
しおりを挟む
そうして俺は保健室送りになったわけだ。太刀根と猫汰が俺についてくると言ったが、怪我してない奴は来るなという鏡華ちゃんの一声で、二人はあえなく球技大会続行となった。
俺としてはそれで構わないんだけど。
「護先輩、出来ました!」
「おー、サンキュな」
下獄が巻いてくれた包帯は、素人が巻いたとは思えないほど綺麗だ。
「流石保健委員、慣れたもんだな」
「あ、それはですね」
手元の包帯やらテープやらを箱に仕舞い、下獄は「よいしょ」と立ち上がった。
「ウチ、親が看護師なんです。なので、小さい時からこういうのを見てて……」
「それでか。なんにしろ、ありがとな」
言いながら軽く立ってみる。うん、痛みも無いし、試合復帰は無理だろうが、応援に戻ることなら出来そうだ。つか吹っ飛ばされたのに、これだけで済んだことが奇跡である。
「それじゃ」
「ま、待ってください!」
「ん?」
カーテンを開けようとした俺の背に下獄が抱きついてきた。額が当たってる辺り、どうやら今は(小)のほうらしい。どちらかと言えばありがたいが、いやいや男だぞ俺、正気に戻れ。
「護先輩。もう少しここにいてくれませんか……?」
「いや、手当てが済んだなら早く出ないと鏡華ちゃんが何言うか……」
今しがた、鏡華ちゃんは新しい怪我人が出たとかで体育館に行ってしまったところだ。すぐに戻ることはないだろうし、確かにこれはそういうシチュエーションだろうが、だがそれでもこれは。
BLゲームなのだ。忘れてはいけない。
「護先輩、ウチ、ウチ護先輩のことが……」
そう言い、下獄はさらに身体を密着させてきた。尻あたりになんか嫌なヌクモリティを感じ、俺はぞっと鳥肌が一斉に立つ。冷や汗も吹き出してる気がする。
それでも俺は、今すぐ突き放したいのを必死で抑え込んで、息をひとつ吐いてから、
「下獄。俺は男とはいえ、後輩を突き飛ばしたり叩いたりしたくない。だから素直に離れてくれ」
「……ウチ、太刀根先輩や観手先輩が羨ましいんです。対等に接せて、楽しそうに笑ってるのが。ウチはどう頑張っても同じにはなれないから」
ここがこんな世界でなければ、その台詞はそれとなくも嬉しい言葉になり得たと思う。だが俺はちっとも嬉しくない。もう強引に振り払おうと決め、内心すまないと思いつつ「離せ」と回された腕を解こうとした。
「はぁ……。もう、往生際が悪いですね」
どういう意味か。聞くよりも早く、俺は下獄に強く引っ張られ、そのままベッドに仰向けにされていた。視界いっぱいに天井と下獄の姿が写り、そこで初めて俺は、下獄に押し倒されたのだと理解した。
「え、下獄、なんで……」
「なんでも何も、こういうことです。ウチが護先輩に追いつけないのなら、護先輩をウチのほうに引きずり落とすしかないですよね?」
いつもの可愛らしい笑顔は、一見すれば小悪魔的な可愛さを秘めているのに、今の俺にはゲームどころか人生を終了させる死神に見える。
「離せ! 離せって! んぐっ」
「少し黙っててくださいね」
口を片手で塞がれ、声を出せなくなる。俺は両手が空いているというのに、全力をもって押し返そうとしても、下獄はこれっぽっちも動かない。
その下獄の手に、おもちゃの注射器が握られている。子供がおままごとで使うようなあれだ。本来は水を入れて注射ごっこをするものだが、中にはピンク色の液体が入っている。
「んん!?」
「じゃあ先輩、お口開けてください」
「んぁ!」
口を塞いでいた手を離し、今度は鼻を塞いできた。声を出すために口を開ければ終わりだ。いやでも息、が――
「ぷはっ」
「はい、いい子ですね。ではゴクゴクしましょうか」
「んぐ」
口を開けたところに液体を注がれた。甘い味のするそれは、俺の身体から力を奪っていった――
俺としてはそれで構わないんだけど。
「護先輩、出来ました!」
「おー、サンキュな」
下獄が巻いてくれた包帯は、素人が巻いたとは思えないほど綺麗だ。
「流石保健委員、慣れたもんだな」
「あ、それはですね」
手元の包帯やらテープやらを箱に仕舞い、下獄は「よいしょ」と立ち上がった。
「ウチ、親が看護師なんです。なので、小さい時からこういうのを見てて……」
「それでか。なんにしろ、ありがとな」
言いながら軽く立ってみる。うん、痛みも無いし、試合復帰は無理だろうが、応援に戻ることなら出来そうだ。つか吹っ飛ばされたのに、これだけで済んだことが奇跡である。
「それじゃ」
「ま、待ってください!」
「ん?」
カーテンを開けようとした俺の背に下獄が抱きついてきた。額が当たってる辺り、どうやら今は(小)のほうらしい。どちらかと言えばありがたいが、いやいや男だぞ俺、正気に戻れ。
「護先輩。もう少しここにいてくれませんか……?」
「いや、手当てが済んだなら早く出ないと鏡華ちゃんが何言うか……」
今しがた、鏡華ちゃんは新しい怪我人が出たとかで体育館に行ってしまったところだ。すぐに戻ることはないだろうし、確かにこれはそういうシチュエーションだろうが、だがそれでもこれは。
BLゲームなのだ。忘れてはいけない。
「護先輩、ウチ、ウチ護先輩のことが……」
そう言い、下獄はさらに身体を密着させてきた。尻あたりになんか嫌なヌクモリティを感じ、俺はぞっと鳥肌が一斉に立つ。冷や汗も吹き出してる気がする。
それでも俺は、今すぐ突き放したいのを必死で抑え込んで、息をひとつ吐いてから、
「下獄。俺は男とはいえ、後輩を突き飛ばしたり叩いたりしたくない。だから素直に離れてくれ」
「……ウチ、太刀根先輩や観手先輩が羨ましいんです。対等に接せて、楽しそうに笑ってるのが。ウチはどう頑張っても同じにはなれないから」
ここがこんな世界でなければ、その台詞はそれとなくも嬉しい言葉になり得たと思う。だが俺はちっとも嬉しくない。もう強引に振り払おうと決め、内心すまないと思いつつ「離せ」と回された腕を解こうとした。
「はぁ……。もう、往生際が悪いですね」
どういう意味か。聞くよりも早く、俺は下獄に強く引っ張られ、そのままベッドに仰向けにされていた。視界いっぱいに天井と下獄の姿が写り、そこで初めて俺は、下獄に押し倒されたのだと理解した。
「え、下獄、なんで……」
「なんでも何も、こういうことです。ウチが護先輩に追いつけないのなら、護先輩をウチのほうに引きずり落とすしかないですよね?」
いつもの可愛らしい笑顔は、一見すれば小悪魔的な可愛さを秘めているのに、今の俺にはゲームどころか人生を終了させる死神に見える。
「離せ! 離せって! んぐっ」
「少し黙っててくださいね」
口を片手で塞がれ、声を出せなくなる。俺は両手が空いているというのに、全力をもって押し返そうとしても、下獄はこれっぽっちも動かない。
その下獄の手に、おもちゃの注射器が握られている。子供がおままごとで使うようなあれだ。本来は水を入れて注射ごっこをするものだが、中にはピンク色の液体が入っている。
「んん!?」
「じゃあ先輩、お口開けてください」
「んぁ!」
口を塞いでいた手を離し、今度は鼻を塞いできた。声を出すために口を開ければ終わりだ。いやでも息、が――
「ぷはっ」
「はい、いい子ですね。ではゴクゴクしましょうか」
「んぐ」
口を開けたところに液体を注がれた。甘い味のするそれは、俺の身体から力を奪っていった――
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
寝取られた幼馴染みがヤンデレとなって帰ってきた
みっちゃん
ファンタジー
アイリ「貴方のような落ちこぼれの婚約者だったなんて、人生の恥だわ」
そう言って彼女は幼馴染みで婚約者のルクスに唾を吐きかける、それを見て嘲笑うのが、勇者リムルだった。
リムル「ごめんなぁ、寝とるつもりはなかったんだけどぉ、僕が魅力的すぎるから、こうなっちゃうんだよねぇ」
そう言って彼女達は去っていった。
そして寝取られ、裏切られたルクスは1人でとある街に行く、そしてそこの酒場には
リムル「ルクスさん!本当にすいませんでしたぁぁぁぁぁ!!!!」
そう叫んで土下座するリムル
ルクス「いや、良いよ、これも"君の計画"なんでしょ?」
果たして彼らの計画とは如何に..........
そして、
アイリ「ルクスゥミーツケタァ❤️」
ヤンデレとなって、元婚約者が帰って来た。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
触らせないの
猫枕
恋愛
そりゃあ親が勝手に決めた婚約だもの。
受け入れられない気持ちがあるのは分かるけど、それってお互い様じゃない?
シーリアには生まれた時からの婚約者サイモンがいる。
幼少期はそれなりに良好な関係を築いていた二人だったが、成長するにつれサイモンはシーリアに冷たい態度を取るようになった。
学園に入学するとサイモンは人目を憚ることなく恋人リンダを連れ歩き、ベタベタするように。
そんなサイモンの様子を冷めた目で見ていたシーリアだったが、ある日偶然サイモンと彼の友人が立ち話ししているのを聞いてしまう。
「結婚してもリンダとの関係は続ける。
シーリアはダダでヤれる女」
心底気持ち悪いと思ったシーリアはサイモンとの婚約を解消して欲しいと父に願い出るが、毒親は相手にしない。
婚約解消が無理だと悟ったシーリアは
「指一本触らせずに離婚する」
ことを心に決める。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
最強のリヴァイアサンになった筈なのに(仮)
ライ蔵
ファンタジー
いつもオラついているレベルカンストのリヴァイアサンが何故か人間の召喚獣の契約を受けてしまい人間達にある意味奴隷の様に働かせれる事になってしまう。
カンストリヴァイアサンに明るい未来は果たして訪れるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる