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十一月

球技大会は保健室で! その3

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 そうして俺は保健室送りになったわけだ。太刀根と猫汰が俺についてくると言ったが、怪我してない奴は来るなという鏡華ちゃんの一声で、二人はあえなく球技大会続行となった。
 俺としてはそれで構わないんだけど。

「護先輩、出来ました!」
「おー、サンキュな」

 下獄が巻いてくれた包帯は、素人が巻いたとは思えないほど綺麗だ。

「流石保健委員、慣れたもんだな」
「あ、それはですね」

 手元の包帯やらテープやらを箱に仕舞い、下獄は「よいしょ」と立ち上がった。

「ウチ、親が看護師なんです。なので、小さい時からこういうのを見てて……」
「それでか。なんにしろ、ありがとな」

 言いながら軽く立ってみる。うん、痛みも無いし、試合復帰は無理だろうが、応援に戻ることなら出来そうだ。つか吹っ飛ばされたのに、これだけで済んだことが奇跡である。

「それじゃ」
「ま、待ってください!」
「ん?」

 カーテンを開けようとした俺の背に下獄が抱きついてきた。額が当たってる辺り、どうやら今は(小)のほうらしい。どちらかと言えばありがたいが、いやいや男だぞ俺、正気に戻れ。

「護先輩。もう少しここにいてくれませんか……?」
「いや、手当てが済んだなら早く出ないと鏡華ちゃんが何言うか……」

 今しがた、鏡華ちゃんは新しい怪我人が出たとかで体育館に行ってしまったところだ。すぐに戻ることはないだろうし、確かにこれはそういうシチュエーションだろうが、だがそれでもこれは。
 BLゲームなのだ。忘れてはいけない。

「護先輩、ウチ、ウチ護先輩のことが……」

 そう言い、下獄はさらに身体を密着させてきた。尻あたりになんか嫌なヌクモリティを感じ、俺はぞっと鳥肌が一斉に立つ。冷や汗も吹き出してる気がする。
 それでも俺は、今すぐ突き放したいのを必死で抑え込んで、息をひとつ吐いてから、

「下獄。俺は男とはいえ、後輩を突き飛ばしたり叩いたりしたくない。だから素直に離れてくれ」
「……ウチ、太刀根先輩や観手先輩が羨ましいんです。対等に接せて、楽しそうに笑ってるのが。ウチはどう頑張っても同じにはなれないから」

 ここがこんな世界でなければ、その台詞はそれとなくも嬉しい言葉になり得たと思う。だが俺はちっとも嬉しくない。もう強引に振り払おうと決め、内心すまないと思いつつ「離せ」と回された腕を解こうとした。

「はぁ……。もう、往生際が悪いですね」

 どういう意味か。聞くよりも早く、俺は下獄に強く引っ張られ、そのままベッドに仰向けにされていた。視界いっぱいに天井と下獄の姿が写り、そこで初めて俺は、下獄に押し倒されたのだと理解した。

「え、下獄、なんで……」
「なんでも何も、こういうことです。ウチが護先輩に追いつけないのなら、護先輩をウチのほうに引きずり落とすしかないですよね?」

 いつもの可愛らしい笑顔は、一見すれば小悪魔的な可愛さを秘めているのに、今の俺にはゲームどころか人生を終了させる死神に見える。

「離せ! 離せって! んぐっ」
「少し黙っててくださいね」

 口を片手で塞がれ、声を出せなくなる。俺は両手が空いているというのに、全力をもって押し返そうとしても、下獄はこれっぽっちも動かない。
 その下獄の手に、おもちゃの注射器が握られている。子供がおままごとで使うようなあれだ。本来は水を入れて注射ごっこをするものだが、中にはピンク色の液体が入っている。

「んん!?」
「じゃあ先輩、お口開けてください」
「んぁ!」

 口を塞いでいた手を離し、今度は鼻を塞いできた。声を出すために口を開ければ終わりだ。いやでも息、が――

「ぷはっ」
「はい、いい子ですね。ではゴクゴクしましょうか」
「んぐ」

 口を開けたところに液体を注がれた。甘い味のするそれは、俺の身体から力を奪っていった――
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