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十月
だってお前はそんなんじゃ……! その4
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とりあえず観手に『いいもん見せてやるからモール東口に来い』とだけ送る。ちなみに太刀根から指定されたのは西口なのだが、俺は先に観手に会うことにしたのだ。
「お、いたいた」
太刀根たちと会う時間より三十分ほど早く指定し、俺は東口に立っていた観手を見つけて手を上げた。
「おはようございます、御竿さん。いいもんって……確かこの時期だと、公園で会長とエンカウントか、自宅待機で猫汰さん侵入イベントか、あ! 下獄さんとの家具選びもありましたね!」
「どれも嫌だ。つか一人犯罪起こしてない?」
「でもモールに集合ってことは、太刀根さんを本命攻略キャラに選んだんですね!」
「え、何それそんなの聞いてない」
色々言いたいことはあるが、そんなのに突っ込んでいたらキリがない。俺は「とにかく」とわざとらしく咳払いしてから、
「いつもは俺がお前に付き合ってんだし、たまにはお前が俺に付き合え」
と返事を待たずに店内へ入っていく。足早に並んできた観手が「待ってください」とかなんとか言っているが、俺は一刻も早く、太刀根の待っている西口へ向かわねばならない。
「よし、まだ来てないな」
西口に着いた俺は辺りを見回し、肝心の相手である太刀根がまだ来ていないことを確認する。
「太刀根さんのイベントなら、まだあと二十分ほどありますが……?」
「だから違うっつの」
俺はスマフォを取り出し猫汰の名前をタップ。コールを一回も聞くことなく猫汰は電話に出た。相変わらず怖い。
『もしもし』
「猫、巧巳、今どのへん?」
『南口だけど』
「わり、西口まで来てくれね?」
『構わないよ、というより後ろにいるけどね』
「おう!?」
振り向けば確かに猫汰がいた。微かに口元に笑みを浮かべているのが、もはや腹立たしいを通り越して恐ろしく見えてくる。
「待っていつ来たの」
「いつって、たった今だよ。このぐらいなら、一歩半で来れるからね」
「あぁ、そう……」
その一歩半がどういう基準なのかはわからんが、猫汰自身が言うのだ。もう、そうなんだろう。
「それはそれとして、なんで観手さんがいるんだい?」
「私は御竿さんに……ぷぎゃ!?」
観手の脇腹を突いて話を阻止させると、俺は「いやぁ」とこれまたわざとらしく頭に手をやりながら、
「なんか観手も買い物に来たらしくてさ、たまたまここで会っちまって。話してたら一緒に回ろうってことになったんだよ。巧巳もいいよな?」
突かれた脇腹を押さえた観手が、何か言いたげに俺を見上げてきた。それに目だけで黙れと返し、俺はもう一度猫汰に「駄目か……?」と苦笑いを浮かべながら呟いた。
「まぁ、構わない、よ」
「ありがとな、巧巳」
よし。そもそもとして、この猫汰という奴、女子もとい女性には甘い。いや甘いというのは語弊があるな。
競争相手としてみなしていないのだ。だから俺が女子といようが興味ないのだろうし、女子がついてきても関係ないのだ。
「ちょちょちょ」
そこに慌てた様子の観手が俺の袖を引っ張ってきた。
「ちょっとこっちに。猫汰さん、少し失礼しますね」
そのまま隅へと移動する。
「どういうことですか? 猫汰さんは自宅待機でないと会えないはずですよ?」
「ゲームの限られた選択肢の中ならな」
「つ、つまり、御竿さんは自ら猫汰さんを選んだということですか!?」
「違うから。やめろ」
なんでもかんでも都合のいいように受け取りやがって。その鼻息荒く興奮する様に、俺は心の中でいつか泣かすと固く誓った。
俺はそのまま猫汰へと向き直り、作り笑いを張りつける。口元が引きつっている気がする、頑張れ俺、笑い続けるんだ俺。
「待たせたな、巧巳。それで今日なんだけどさ、観手が“太刀根さんも呼びましょう”って言うから、太刀根も呼んだんだわ。いや、本当にわりぃな」
「そう……、まぁ観手さんが決めたなら、仕方ないね」
仕方ないとは言いながら、目が冷たい気もするが、とりあえず納得してくれたようだ。よしよし、後は太刀根が来てくれれば――
「あ、護! ……と観手に、巧巳?」
嬉しそうな声から一転。訝しむ声を上げた太刀根に、さてどう説明するかと俺は必死で頭を捻り出した。
「お、いたいた」
太刀根たちと会う時間より三十分ほど早く指定し、俺は東口に立っていた観手を見つけて手を上げた。
「おはようございます、御竿さん。いいもんって……確かこの時期だと、公園で会長とエンカウントか、自宅待機で猫汰さん侵入イベントか、あ! 下獄さんとの家具選びもありましたね!」
「どれも嫌だ。つか一人犯罪起こしてない?」
「でもモールに集合ってことは、太刀根さんを本命攻略キャラに選んだんですね!」
「え、何それそんなの聞いてない」
色々言いたいことはあるが、そんなのに突っ込んでいたらキリがない。俺は「とにかく」とわざとらしく咳払いしてから、
「いつもは俺がお前に付き合ってんだし、たまにはお前が俺に付き合え」
と返事を待たずに店内へ入っていく。足早に並んできた観手が「待ってください」とかなんとか言っているが、俺は一刻も早く、太刀根の待っている西口へ向かわねばならない。
「よし、まだ来てないな」
西口に着いた俺は辺りを見回し、肝心の相手である太刀根がまだ来ていないことを確認する。
「太刀根さんのイベントなら、まだあと二十分ほどありますが……?」
「だから違うっつの」
俺はスマフォを取り出し猫汰の名前をタップ。コールを一回も聞くことなく猫汰は電話に出た。相変わらず怖い。
『もしもし』
「猫、巧巳、今どのへん?」
『南口だけど』
「わり、西口まで来てくれね?」
『構わないよ、というより後ろにいるけどね』
「おう!?」
振り向けば確かに猫汰がいた。微かに口元に笑みを浮かべているのが、もはや腹立たしいを通り越して恐ろしく見えてくる。
「待っていつ来たの」
「いつって、たった今だよ。このぐらいなら、一歩半で来れるからね」
「あぁ、そう……」
その一歩半がどういう基準なのかはわからんが、猫汰自身が言うのだ。もう、そうなんだろう。
「それはそれとして、なんで観手さんがいるんだい?」
「私は御竿さんに……ぷぎゃ!?」
観手の脇腹を突いて話を阻止させると、俺は「いやぁ」とこれまたわざとらしく頭に手をやりながら、
「なんか観手も買い物に来たらしくてさ、たまたまここで会っちまって。話してたら一緒に回ろうってことになったんだよ。巧巳もいいよな?」
突かれた脇腹を押さえた観手が、何か言いたげに俺を見上げてきた。それに目だけで黙れと返し、俺はもう一度猫汰に「駄目か……?」と苦笑いを浮かべながら呟いた。
「まぁ、構わない、よ」
「ありがとな、巧巳」
よし。そもそもとして、この猫汰という奴、女子もとい女性には甘い。いや甘いというのは語弊があるな。
競争相手としてみなしていないのだ。だから俺が女子といようが興味ないのだろうし、女子がついてきても関係ないのだ。
「ちょちょちょ」
そこに慌てた様子の観手が俺の袖を引っ張ってきた。
「ちょっとこっちに。猫汰さん、少し失礼しますね」
そのまま隅へと移動する。
「どういうことですか? 猫汰さんは自宅待機でないと会えないはずですよ?」
「ゲームの限られた選択肢の中ならな」
「つ、つまり、御竿さんは自ら猫汰さんを選んだということですか!?」
「違うから。やめろ」
なんでもかんでも都合のいいように受け取りやがって。その鼻息荒く興奮する様に、俺は心の中でいつか泣かすと固く誓った。
俺はそのまま猫汰へと向き直り、作り笑いを張りつける。口元が引きつっている気がする、頑張れ俺、笑い続けるんだ俺。
「待たせたな、巧巳。それで今日なんだけどさ、観手が“太刀根さんも呼びましょう”って言うから、太刀根も呼んだんだわ。いや、本当にわりぃな」
「そう……、まぁ観手さんが決めたなら、仕方ないね」
仕方ないとは言いながら、目が冷たい気もするが、とりあえず納得してくれたようだ。よしよし、後は太刀根が来てくれれば――
「あ、護! ……と観手に、巧巳?」
嬉しそうな声から一転。訝しむ声を上げた太刀根に、さてどう説明するかと俺は必死で頭を捻り出した。
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