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九月
大改造! 屹立パワーで大☆学祭! その1
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気づけば夏休みは終わっていた。久しぶりの制服に袖を通してから、これまた久しぶりの鞄を背中に担ぐ。宿題は太刀根がやってくれたし、忘れ物も特にないはずだ。
「護、お弁当は?」
「あ」
母さんから弁当箱の入った袋を渡される。俺は苦笑いしながら「ありがと、いってきます」と家を出た。
徒歩通の俺を、チャリ通の生徒たちが何人か追い抜いていく。たまになぜか走っている生徒もいたが、なんか朝練にでも遅刻したんだろう。
そう考えながらのんびりと歩いていると、
「御竿さ~ん!」
「……」
聞こえないフリだ。いや、むしろ走るか。
早足になった俺の後ろから「御竿さんてば~」と聞こえるが、絶対に立ち止まらないし、振り返らないからな。
「えい」
「ぐはっ」
背負っていた鞄を引っ張られ、俺は一瞬息が詰まった。
「やっと止まってくれました~。ね、御竿さん」
「ゲホッゲホッ。お前がっ、引っ張ったから、だろ!」
なんとか息を整えながら抗議すれば、引っ張った張本人、観手は「そうでしたね~」とわざとらしく小首を傾げてみせた。観手の手を強引に解いてから立ち止まってやる。もう腹は括った。
「で。何」
「わぁ、言い方が冷たいですね。私の塩梅次第で、ルート変わっちゃうかもしれないんですよ?」
「すみませんでした観手様女神様クソ野郎」
「最後に何か聞こえましたが、まぁいいです。そ、れ、で」
観手は足取り軽く俺の前へと回ると、ずいと俺の顔を覗き込んできた。その近さに、つい視線を反らした。
「夏休み、楽しかったですね!」
「いや全然。つか、夏休みといえば、花火とか祭りとか普通あるんじゃねぇの?」
「ありますよ? でも今回は無人島イベとコミケイベ来ちゃいましたからね。残念ですが、二週目のお楽しみです!」
「やらねぇよ!?」
そりゃゲームだ。二周目だってあるだろうよ。スチル制覇とか、特殊イベ網羅とか、そりゃどれだけでもやることはあるだろう。
でも俺はクリアしたら終わりたい。そんなものに興味なんてない。
「ま、それはそれとしてですね。九月といえば?」
「九月といえば……、始業式?」
俺の答えがよほどつまらなかったのだろう。観手は眉間にシワを寄せ、深い深いため息をついてから「学祭ですよ、学祭!」と呆れたように言い放った。
「いや、学祭って。まだ九月だぞ?」
「もう九月ですよ。そして御竿さん、貴方は生徒会役員です!」
「あぁ、そういえば……つか近い」
俺自身もすっかり忘れていたが、そうだ、俺は生徒会役員だった。いや、だから会長と絡むわけで。
とりあえず、未だ近いままの観手を押し返してから、俺は「それがどした」と歩き出した。早く行かないと遅刻しそうだ。
「学祭、生徒会が運営委員なんですよ」
「そんなん初めて知ったぞ」
「聞かれてませんし」
「……」
もう無視だ無視。隣に並んだ観手がなんか言っているが、なんか聞いちゃいけない単語を連呼している。
だけど、運営委員ねぇ。俺以外の生徒会役員、結局知らないままだしな。たぶんモブだし、名前すらないだろうけど。立ち絵があるかどうかすら怪しい。
「も~、御竿さん。聞いてますか~!」
「聞いてない」
「だから、学祭が終わるまでの間、放課後は生徒会室に集合ですからね!」
「へー……はぁ!?」
俺の声に負けじと、遠くから予鈴の音が鳴り響いた。
「護、お弁当は?」
「あ」
母さんから弁当箱の入った袋を渡される。俺は苦笑いしながら「ありがと、いってきます」と家を出た。
徒歩通の俺を、チャリ通の生徒たちが何人か追い抜いていく。たまになぜか走っている生徒もいたが、なんか朝練にでも遅刻したんだろう。
そう考えながらのんびりと歩いていると、
「御竿さ~ん!」
「……」
聞こえないフリだ。いや、むしろ走るか。
早足になった俺の後ろから「御竿さんてば~」と聞こえるが、絶対に立ち止まらないし、振り返らないからな。
「えい」
「ぐはっ」
背負っていた鞄を引っ張られ、俺は一瞬息が詰まった。
「やっと止まってくれました~。ね、御竿さん」
「ゲホッゲホッ。お前がっ、引っ張ったから、だろ!」
なんとか息を整えながら抗議すれば、引っ張った張本人、観手は「そうでしたね~」とわざとらしく小首を傾げてみせた。観手の手を強引に解いてから立ち止まってやる。もう腹は括った。
「で。何」
「わぁ、言い方が冷たいですね。私の塩梅次第で、ルート変わっちゃうかもしれないんですよ?」
「すみませんでした観手様女神様クソ野郎」
「最後に何か聞こえましたが、まぁいいです。そ、れ、で」
観手は足取り軽く俺の前へと回ると、ずいと俺の顔を覗き込んできた。その近さに、つい視線を反らした。
「夏休み、楽しかったですね!」
「いや全然。つか、夏休みといえば、花火とか祭りとか普通あるんじゃねぇの?」
「ありますよ? でも今回は無人島イベとコミケイベ来ちゃいましたからね。残念ですが、二週目のお楽しみです!」
「やらねぇよ!?」
そりゃゲームだ。二周目だってあるだろうよ。スチル制覇とか、特殊イベ網羅とか、そりゃどれだけでもやることはあるだろう。
でも俺はクリアしたら終わりたい。そんなものに興味なんてない。
「ま、それはそれとしてですね。九月といえば?」
「九月といえば……、始業式?」
俺の答えがよほどつまらなかったのだろう。観手は眉間にシワを寄せ、深い深いため息をついてから「学祭ですよ、学祭!」と呆れたように言い放った。
「いや、学祭って。まだ九月だぞ?」
「もう九月ですよ。そして御竿さん、貴方は生徒会役員です!」
「あぁ、そういえば……つか近い」
俺自身もすっかり忘れていたが、そうだ、俺は生徒会役員だった。いや、だから会長と絡むわけで。
とりあえず、未だ近いままの観手を押し返してから、俺は「それがどした」と歩き出した。早く行かないと遅刻しそうだ。
「学祭、生徒会が運営委員なんですよ」
「そんなん初めて知ったぞ」
「聞かれてませんし」
「……」
もう無視だ無視。隣に並んだ観手がなんか言っているが、なんか聞いちゃいけない単語を連呼している。
だけど、運営委員ねぇ。俺以外の生徒会役員、結局知らないままだしな。たぶんモブだし、名前すらないだろうけど。立ち絵があるかどうかすら怪しい。
「も~、御竿さん。聞いてますか~!」
「聞いてない」
「だから、学祭が終わるまでの間、放課後は生徒会室に集合ですからね!」
「へー……はぁ!?」
俺の声に負けじと、遠くから予鈴の音が鳴り響いた。
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